第20話 冒険、リスタート 3

「冒険者よ? ただし、駆けだしの、だけどね?」


「ふうん、って! それじゃ、有名なわけじゃ」


「これから有名になるの!」


「はぁ」


 溜め息しかでない。それでは、分かるわけがないではないか。名のある冒険者ならまだしても、素人の名前まで知っている筈がない。正直、ポカンとするしかなかった。


「冒険者登録は?」


「まだよ」


「まだ!」


 ほ、本当に! それでは、ここにきた理由も?


「その登録を済ませるため?」


「まあね。ここの受付嬢に適性を見てもらおうとした時」


「俺達の事を見たわけだ」


「そう言う事!」


「いやいや、そう言う事じゃなくて」


「じゃあ、どう言う事なの?」


「う、うう」


 返事に困る。この子、かなり滅茶苦茶だ。猪のような勢いと、獅子のような勇ましさがある。自分の巻きこんだ人間を迷わず押しつぶすような破壊力。それにはもう、苦笑いするしかなかった。


「家の人も、大変そう」


「え?」


「い、いや、何でもない」


 そう言って、誤魔化した。だって、そうするしかなかったし。俺はただ、最善の手を打っただけだった。


「家の人は、大丈夫?」


「大丈夫って?」


「自分の娘が、それも貴族の娘がさ、突然に『冒険者になる』とか言って。普通だったら、かなり心配するんじゃないの?」


「ああ」


 まるで他人事のような言い方。彼女は、本当に自由すぎる。


「別に大丈夫じゃない?」


「そんなわけないだろう! 普通に考えたらさ! 君の事もきっと、今だって捜している」


「捜したければ、捜せばいいわ。見つかったとしても、そこから逃げればいいんだし」


「いやいや」


 そう言う問題では、ないだろう? 彼女の身分を考えればさ。


「ここは、素直に帰った方がいい」


 そう助言を言ってみたが、え? あ、あれ? 彼女の顔が曇っている。今の言葉にカチンときたのか?


「嫌よ」


「え?」


「絶対に嫌! アタシは、死んでも帰られない!」


 駄々をこねはじめた。これはたぶん、何を言っても聞かないだろう。それを見ているミュシアも最早、無言の領域に入っている。これは、完全に諦めているね。


「よぉし、それじゃ登録を」


「待って」


「なに?」


「一人で戦うの?」


「ダメ?」


「とか、そう言う問題じゃない。戦いの経験は?」


「本番は、ないよ? でも、充分に鍛えたから」


「実戦は、訓練とは違う。一つの油断が、命取りになる」


「アンタの経験?」


「冒険者の常識だ。素人一人で戦場に行ったら」


「なら、アンタのパーティーに入れてよ?」


「は?」


「パーティーに入れば、それだけ生存率もあがる。周りの仲間も、フォローしてくるし。『元のパーティーから追いだされた』とは言え、アンタも一応は経験者でしょう?」


「ま、まあ、確かにそうだけど。そうだけどさ、やっぱり」


 そこからの言い訳を許さない。それが彼女の性格だった。彼女は俺の意思などまったく無視して、先程の受付嬢に「アタシも、コイツのパーティーに入るから!」と言った。


「それなら文句ないでしょう?」


「いやいや」


 文句しかないでしょう?


「なに勝手に決めているのさ!」


 無視ですか、そうですか。さっきの受付嬢も、これには苦笑いしている。


「ったく!」


「入れよう」


 ここで、まさかのミュシア。ミュシアは「ニコッ」と笑って、俺の肩に手を乗せた。


「あなたの魔法と、わたしの透明化。それで彼女を守る」


「なるほど。て、『そんな簡単にいく』と思う? 『あの子を守りながら戦う』とかさ?」


「だいじょうぶ」


 また、だいじょうぶ、か。「それを言えば、何とかなる」と思っていない?


「あなたは、強いから」


「う、ううん」


 彼女がそう言うのなら、そうかも知れないけど。俺だって、自分の力に自信があるわけではない。あの巨大な猪を葬った魔法は確かに強かったが、それがどんな敵にも通じるかはまったく分からなかった。


 最強スキルが、最強の力になり得るかは分からない。すべては、未知数。自分でも分からない未知の世界。そんな中で二人の少女を守るのは、正直に言って自信がなかった。


「はぁ……」

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