347.天空の島

 アカバネ島に帰還した僕達を待ってくれていたのは、ヘレナだった。


「ヘレナ、あれを何とか出来るの?」


「ハイ! ただし、マスターの命令が無ければ無理です」


「それならお願いするよ」


「その前に二つだけ条件が必要です」


「条件?」


「ハイ! 一つ目は……この島が破壊されても宜しいですか?」


「えっ!?」


「これから、このを向こうにぶつけますから」


「ぶ……つける? どうやって?」


「それはまた後程の楽しみとして、二つ目ですが、ぶつけた後に、誰か一人『強力な力を持つ存在』が必要です。彼にこの島と向こうを繋いでもらわなければなりません」


「えっと……繋ぐとどうなるの?」


「……命尽きるまで意識を取り込まれます」


「!?」


「本来なら私がしたいのですが、そうですと、その後の島の操作が出来ませんので」


「ま、待って! その繋ぐのは……生きている誰かじゃないと駄目なの?」


「そうです。守りたい『想い』が強い存在でなければ、無理でしょう。このままあの島が地上に落下すれば、世界は間違いなく崩壊します。シェルターの中の人々が生き残っていたとしても、生きられる土地は無くなり、次第に食料も不足してくると思われます」


 ……ノア。


 最後まで『虚無』を貫き通すのか……。


「分かった、それは――――ぼ」


 その時、奥さん達に囲まれた。


「え? ちょっと? みんな? どうし――――ソフィア?」


【みんな、ありがとう! ご主人様!】


「え? ソフィア??」


【私ね。ご主人様の従魔になれて、本当に幸せだよ】


「ま、待って! 他に方法が――」


【ううん、メティスからも確認したけど、無理なの。寧ろ――私の力が一番役に立つの。――――だから。ご主人様。私が行ってくるね】


「そ、そんな! ソフィアとはずっと一緒に……」


【うん! 私が向こうに行っても偶にで良いから会いに来て欲しいな! もう時間がないから――――行くね?】


「そ、ソフィアああああ!!!」


【行ってきます!】


 僕の叫びも虚しく、僕達はソフィアの『次元扉』で強制的に『外』に出された。


 僕を囲っていた奥さん達の涙に、僕はただただ空を見つめるしか出来なかった。


 アカバネ島は、大きく姿を変え、『天空の島』となった。


 そして、落下してくる『天空の城』に激突した。


 その激突で『天空の島』が『城』を飲み込んでいく姿が美しかった。


 それも全てソフィアの力だろう……。



 僕達の平和を祈るかのような美しい『天空の城』は、もう落下してくることはなかった。


 でも僕は……大陸中に響く歓声の中、悲しみに暮れた。


 ただ空を、空に浮かんでいる『アカバネ島』を見つめていた。




 パチ――――ン


 僕の頬が熱くなった。


 僕の目の前には泣くのを我慢しているセナお姉ちゃんの顔があった。


「クロウ!」


「セナお姉ちゃん……」


「クロウが諦めたら終わりなの! ソフィアちゃんは……クロウの従魔でしょう! 今でもソフィアちゃんはあの上で頑張っているの! だから……クロウが! 私達が! 助けに行くの! 何年掛かろうとも! 何十年掛かろうとも! 私達でソフィアちゃんを助けるの! 泣いてる暇なんてないんだから!!」


 ボロボロ泣いているセナお姉ちゃんに、僕も奥さん達もまたボロボロ泣いた。


 ああ……。


 そうだった。


 僕はいつだってそう。


 僕を沢山の人達が守ってくれる。


 その度に僕は耳を塞ぎ、泣く事しかしてなかった。



 僕がこの世界に生まれた時からそうだ。


 周りの優しい人達から守られた僕は、いつだって気付かずにいた。


 ――愛されたい。


 そう願ったのはいつの頃だろう。


 前世? 今世? 過去? 今? 未来?


 でも、立ち止まり、周りをちゃんと見れば……こんなにも僕を愛してくれる人々が沢山いるじゃないか。


 ああ……立ち止まって泣いてる暇なんてない。


 僕は……歩き続けたい。


 立ち止まりたくない。


 平和になった世界に、君を必ず連れ戻すよ。



 僕は奥さん達と共に、空に浮かんでいる我が家・・・に帰った。

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