319.崩壊

「久しぶり、クロウくん。元気にしてた? って……元気なのは当たり前か! なにせ……君は僕をてたんだからね」


 え?


 捨てた?


 僕が……イカリくんを?



「ま、まっ――――」


「クロウくん。僕達八神柱アハトシュライン……と言っても柱になっちゃったけど、これから世界を崩壊させるよ? 君は、大好きな人々を守るんだろう? どうだい? 僕と一緒に来て……世界を滅ぼさないかい?」


 以前とは似つかない姿となったイカリくんの瞳には……憎悪しか感じられなかった。


 その憎悪が……人ではなく、僕に向けられている事も伝わって来た。


「まぁ、来るはずないよね……残念だよ~クロウくん…………、僕の唯一の親友だった・・・君に嬉しい知らせだよ! これからこの世界は『崩壊』を迎えるよ~それを乗り越えたら…………三か月後、僕達が直接相手してあげる。それまで……せいぜい生き残ってね」


 イカリくんはそう言い残し、その場にいなかったかのように消えていった。


 ――今のは幻覚? 本物?


 僕はあまりの出来事に整理がつかず、ただただその場に立ちすくんでいた。


 後ろからそっとリサが抱きしめてくれる。


 温かいリサの体温が肌を通じて伝わってくる。


 その時、


 世界に大きな地の揺れが始まった。




 ◇




 今回の揺れは全く止む気配がない。


 しかも少しずつ強くなってる気がする。


 まだ何が起きているのかも分からず、気持ちの整理も付かないまま、僕は精霊眼を全開で発動させた。


「城の地下から大きな魔力が見えるよ!」


「そこに急いでみよう! くろにぃ!」


「うん! 闇の手で地下に向かった穴掘ってみる!」


 闇属性魔法の触手四本で、地面の土を素早く掘り始めた。


 僕とリサ、お爺ちゃんはそのまま地下に掘り進めた。




 地下まで掘ると大きな部屋が現れて、そのまま中に飛び降りた。


 そして、その目の前にあったのは――――。




「エレノア!!!!!」




 お爺ちゃんが叫んだ先にあったのは――――


 大きな水晶の中に、綺麗なエルフの女性が中に入れられていた。


 大きな水晶は大地につるのようなモノを伸ばしている。


 これは……。



【クロウくん、あの水晶は『女神石』なの。あの中に入っているエルフが力の限り『女神石』を使って大地を繋ぎとめているの! このままでは……世界もあの子も死んじゃうわ!】



 メティスの緊迫した声が事の重大さを物語っていた。


「メティス! どうすれば助けられる!?」


【あの水晶を保たせる為には、『世界樹』の根を持って行って世界中の魔素を吸収しなくちゃいけないの!】


「っ! ソフィア!」


【はい! ご主人様!】


「特大の『次元扉』を『世界樹』の前に繋いで!」


 ソフィアは大急ぎ、『世界樹』の元に大きな『次元扉』を作った。


 実はソフィアは『精霊の扉』を使い、ソフィアだけが『暗黒大陸』内部を繋ぐ『次元扉』を作れるようになっていた。


「よし! お爺ちゃん! 今からあの水晶をきます! その後、直ぐに『世界樹』に飛びますよ!」


「わ、分かった!」


 僕は闇の手で思いっきり水晶を割った。


 水晶が割れると共に、中に入っていたエルフの女性が目を覚ます。


「エレノア!!」


「ヴィ、ヴィンセント!? …………何てことを……」


「大丈夫だ! 後はクロウくんに任せよう!!」


「クロウくん……?」


 僕は揺れる大地の中、空中を飛び、リサ、お爺ちゃん、エルフの女性を掴み、割れた水晶を全て回収して『世界樹』に飛んだ。




 ◇




 僕達は空中を飛んでいるけど、地面は物凄い勢いで揺れている。


 『世界樹』に辿り着いた僕は、メティスの指示通り、割れた水晶に魔力を思いっきり込めた。


 割れた水晶がどんどん光、一つの小さな水晶になった。


「あの人は一体……」


「エレノア、あの子はアグウスの息子だよ」


「アグウスの? あの子はもうそんなに大きくなっていたのね……ごめんなさい貴方…………」


「いや……寧ろ、アグウスの為に世界を守ろうとして頑張っていたのだろう? お疲れ様。これからは孫の戦いを見守ろう」


「ええ…………」


 完成した水晶をメティスの指示通り、『世界樹』の根元に落とした。


 落とした水晶から眩い光が溢れ出て、大きな魔力の渦が空を染めていった。


 ――そして、僕は『世界樹』に『エクスヒーリング』を使った。




 眩い光が溢れ、大きな『世界樹』は見る見る元気になり、大きかった樹木は更に大きくなり、枯れていた枝は太く元気な姿となり、美しい葉っぱが生まれ始めた。


 急速に成長した『世界樹』は何もかも知っているかのように、根を伸ばし、大地を繋ぎ止めた。




 こうして、僕は『崩壊』に向かっていた世界を止める事に成功した。






 しかし、僕の胸には、イカリくんが話していた「これからこの世界は『崩壊』を迎えるよ~それを乗り越えたら…………三か月後、僕達が直接相手してあげる。それまで……せいぜい生き残ってね」という言葉に不安と悲しみを覚えていた。






――後書き――――――――――――――――――――――――――――――――


いつも『被虐待児の最強転生して優しい家族に囲まれ』を愛読してくださり、ありがとうございます。


皆様、暗黒大陸編はいかがだったでしょうか?


多くの読者様に「まさかの展開だよ」と思われたのなら、とても嬉しいです。


さて、既に話の流れで分かるように、遂に最終編を迎える事になりました。


ここから『三か月間編』の後、最終編が始まります。


多くの残された謎を楽しみにこれからの物語を楽しんで頂けたら幸いです。


最終編の囲まれもどうぞよろしくお願い致します。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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