300.ラファエルの里

 ◆天界◆


「シス! みてみて!」


 美しい二枚の羽が生えている女の子が、同じく美しい二枚の羽が生えている女の子にあるモノを見せていた。


「ん? それは! ティア! 遂に作れたの!?」


「うん! やっと『女神の石』を作る事が出来たの!」


「おめでとう! うちらの中でティアが一番早いとは思っていたけど、本当に一番目になったわね!」


「えへへ~めちゃ頑張ったもん! シスとラスもそろそろ完成しそうだったから!」


 その眩しい笑顔にシスと言われた天使もまた笑顔となった。



 天使族。


 それは神から最も近い種族として生を受けた。


 五十体となる天使は日々ある目的の為に生きてきた。


 その目的となるのが、ティアと呼ばれた天使が両手に大事そうに持っている『女神の石』を作る為である。


 この『女神の石』は天使族でも、一度も完成させる事が出来なかった。


 それを、ティアという少女が初めて完成させたのだ。


 彼女は真っ先に親友であるシスに嬉しそうに見せる。


 そして、二人はもう一人の親友の元に急いだ。



「じゃじゃ~ん!」


「ん? なっ! ティア! 遂にやったのね!」


「そうだよ! ラス達がそろそろ完成しそうだったから急いじゃった! えへへ」


「おめでとう! 私達もうかうかしてられないね! シス! 私達も頑張るわよ!」


「そうだね! ティアだけに良い顔をさせる訳にもいかないし!」



 それからシスとラスも『女神の石』作りに励む。


 奇しくもこの日、シスが直ぐに完成させ、直後にラスが完成させた。


 三人は完成した『女神の石』を持って、天使の長へと報告した。


 天使の長は驚くも「遂にこの日が来たか」と天使の全員を集める。



「皆の者! よく聞いてくれ! ここに『女神の石』が三つ出来上がった!」



 長の声に天使達は歓喜する。


「それで、規約・・通り、こちらの三人には『女神の石』の柱になって貰う事になるだろう!」


 更に歓喜の声が響く。


 『女神の石』を作り上げた、ティア、シス、ラスの三人は誇らしげに天使達を見つめた。


「一番若い三人が作り上げた事は誇らしい事である! では、明日。『女神の石』の契約を執り行う! 全員そのつもりで!」


 天使達から拍手と共に、天使達の集まりが終わった。




 次の日。


 予定通り、天使の長はティア、シス、ラスの三人と『女神の石』と共に、全ての天使達と祭壇の前を訪れた。


 天使の長は祭壇に『女神の石』を置き、三人は置き場から三角方面にそれぞれ立つ。




「「「始まりの神よ。ここに契約通り、女神石を三柱完成させました。古の盟約通り、契約を遂行した事を承認してくださいませ」」」




 三人の美しい声が響き渡る。


 中央に集まっていた『女神の石』三つからそれぞれ違う色の光が現れ、ティアに黄色、シスに青色、ラスに赤色の光がそれぞれを包み込んだ。


「「「「我ら、天使は古い盟約より、ここに『女神の石』を完成させた事を誇りに思う!」」」」


 天使達の言葉と共に、光が更に大きくなっていった。




 ◇




 荒れ果てた天界の跡地に一人の天使が悲しそうに俯いていた。


 美しい黒髪。


 美しい四つの羽。


 しかし、彼女の悲しみに染まっている瞳は、天界にある小さな芽に向けられていた。


「もし……私が最初・・じゃなかったら……結果は変わっていたのかな? …………ねぇ、シス……ラス…………」


 彼女の悲しい声が、荒れ果てた天界に広がっているだけだった。




 ◇




 ◆クロウティア◆


「ぬおっ!? ここは!?」


「リッチお爺さん! 町に着きましたよ?」


「お、お?? ああ……確か……クロウくんに掴まれて……空を……そうか、いつの間に気を失っておったのじゃな、クロウくんや、すまないのぅ」


「いえいえ、大体の人はそうなりますから気にしないでください」


「だ、大体の人は……」


 リッチお爺さんは飛んでる途中、気を失って、ずっと何かにうなされていた。


「それにしても、この身体になって眠ったのは初めてじゃのぅ」


「そうなんですか?」


「リッチは眠れんのじゃ」


「へ、へぇー、リッチさん達も大変ですね……」


「ふむ……あそこが『ラファエルの里』……なるほど、面影は全くないんじゃな」


「元の姿は分かりませんが……何となく違うとこが分かる気がします。今は魔族達の町っぽいですね」


 向こうには魔族達が物々しい雰囲気で、何かを守っていた。


 一応精霊眼で確認した所、その向こうに『扉』と思われるモノを確認した。


 恐らく、あれが向こうに行く扉なのだろう。


「リッチお爺さん、向こうに扉っぽいものがあるので、そこを目指しますよ?」


「そうか、戦いになりそうじゃな」


「でしょうね…………、一応全員無力化にさせるつもりですが……手加減出来る相手だといいですけど」


「ん? え? あの大人数を無力化? 手加減?」


「それじゃ、僕が先に出ますから、リッチお爺さんは怪我しないように隠れて見ててくださいね?」




 ◇




 ◆リッチお爺さん◆


 クロウくんが堂々と敵に向かって歩き出した。


 いつも彼の肩に乗っているスライムと狐はとても強かった。


 それは認めよう。


 一瞬で魔法を多数使い、その威力も絶大なモノであった。


 儂もこうみえて、とても強いのだけど…………まるで勝てる気がしないのじゃ。



 魔族とは、やはり魔の者達を指す言葉であったか……。


 見てる感じ、本物の魔の者はいないと見える。


 それでも、魔の者が強いはずじゃ。


 それを無力化とは……。






 えええええ!?


 吃驚し過ぎて顎が外れるかと思ったわい!!


 外れる顎くらいしかないけどな! ガーハハハハッ


 って!


 なんじゃあれは!


 クロウくんが歩きながら、風属性最強魔法を平然と使いおった!


 あ~あ、魔族達もモンスター達も風属性魔法に飛ばされ、成す術なく空を飛んでおる。


 あんなの喰らったら一溜りもないじゃろう。


 というか、可笑しくないか!?


 何故、最強魔法をあんなに簡単に撃てるのじゃ?


 もしかして、最強魔法を詠唱もなく撃つとか?


 ……


 …………


 まさかまさか~そんな事、ありえんじゃろう。


 何か秘密があるかも知れぬ、後で聞いてみるとしよう。


 ああ~たった数秒で魔の者達が全滅しておる。


 しかも、よくみると一人も死んではおらん。




 ……本当に全員無力化しちゃったわ。


 たった一瞬で…………。




 良かった……あのスライムより、人の方が強いとは思わなんだ……儂は最初にスライムにボコられて良かったわい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る