223.進軍の裏側で

 ◆連合軍、前線基地◆


 現在、連合軍にはアカバネ大商会からの連絡で、帝国軍の本陣が南下して来ている事が伝えられていた。


 その本陣が前線に届くまで、あと三十時間程。


 連合軍の将達はその対応に追われていた。



 『先見の賢者フェルメール』ですらお手上げな状態だ。


 何故なら、この戦争。


 裏で教会の教皇が手を引いているかも知れないと分かったからだ。


 更に、現在南下している帝国軍本陣は、催眠術に掛かっているという。



 そうなると、この戦争の意味・・が変わって来る。


 本来なら帝国の侵略に対する戦争だった。


 しかし、操られているのなら、帝国もまた被害者となるだろう。



 幸い、アカバネ大商会の最強戦士が教皇を討つ為に、帝都グランドに向かっているとの事だった。


 ただ、それがいつになるか分からず、連合軍にはその戦いの行方が分かるまで、この戦争を耐えなくてはならなくなった。


 連合軍の、いや、帝国も含み、全ての大陸の人々の為に。






 セレナディアは南下している帝国軍の本陣を遠くから見つめていた。


 彼女はとある人を探していた。


 ――そして。


「見つけた」


 セレナディアの目線の遥か先には、薄紫髪の美しい女性が帝国軍の進軍を見つめていた。


 ――レイラ皇女、帝国の剣聖だ。


 セレナディアは彼女の元に、馬を走らせた。




 ◇




「ッ!? 貴方は――――」


「レイラ皇女さん、話し合いに来たわ」


「――――私は「教皇」、ッ!?」


 セレナディアの口から『教皇』という言葉を聞いたレイラ皇女は、顔をしかめた。


「私達は――――敵じゃないわ」


 そう言いながら、セレナディアはレイラ皇女に向けて、持っていた剣を投げた。


 ――戦う意志はない。


 真剣なセレナディアの言葉と行動を感じ取ったレイラ皇女は、セレナディアの話し合いを承諾した。




 ◇




 二人は遠くから進軍する帝国軍を見つめていた。


「どうして……こんな事に……」


「全て教皇の所為かも知れないわ」


「どうして、そう言い切れるのです?」


「ホフヌグ町が消滅したわ、教会は私達に罪をかぶせたけど、あれを消滅させた魔法の名前――『グランドクロス』と言う魔法らしいわ」


「『グランドクロス』!?」


「ええ、それを使える人が、私達の所に三人いるけど、皆、勿論、使う理由がないし、使ってない……何ならあの町には私達の大切な人達が沢山いたわ」


「……」


「最後に可能性があるとすれば――」


「教皇……」


「ええ」


 レイラ皇女は悔しそうに拳を握りしめた。


「私もお父様も……あの教皇に大切なモノを握られていますわ」


「!?」


「だから……今度は私達はお返しする番だから、あのお方の為にも……この戦争を引き受けましたわ……」


「――――あそこにいる人ね」


「…………はい、私は彼のおかげて命が助かりました。だから、今度は私が助けたいんです……でも……」


「助けられるわ」


「えっ?」


「クロウがいるから」


「クロウ?」


 セレナディアは満面の笑顔になった。


「私の自慢の弟よ。クロウなら、すぐに教皇を懲らしめて、助けに来てくれるわ」


 その笑顔に、レイラ皇女の心にも一筋の希望が灯された。


 あの時、自分を助けてくれた誰かのように。


 希望を胸に、レイラ皇女はセレナディアと共に連合軍に合流するのであった。




 ◇




 とある一団が帝国軍の進軍を眺めていた。


「リーダー、準備出来ましたぜ」


「そうか。と言うか、そのリーダーやめろって言ってるだろう」


「え~いいじゃないっすか!」


「ちゃんと、ボスと言え!」


「え~僕としてリーターの方が好きなんですけど~」


 二人の若い男性が緩く冗談を言い合っていた。が、その鋭い目線は帝国軍から離れる事は無かった。


「しかし、アデルの旦那がああ・・なるとはね~」


「先日聞いていた通りになりましたね~」


「おう。あのクソ爺……裏でドスい事しやがって……」


「ボスも教皇嫌いでしたもんね~」


「おう、俺様はずっとあの爺が嫌いだったさ! いけ好かない笑顔だったからね、ほれ見ろ、やはりはドス黒かったじゃねぇか」


「ええ、取り敢えずは旦那の頼み通りにするしかないっすね」


「仕方ないだろう……はぁ、まさか自分が自分の同胞・・を撃たねばならないとはね~」


「この状況じゃ仕方ないでしょう。取り敢えず姫様んとこに合流しましょうや」


「え~やだよ! 男は危険な時に助けに入るからカッコいいのだ! 本陣がぶつかる時に出るぞ!」


「へいへい」


 一団は帝国軍を背に、連合軍の前線に向かって出発した。


「ボス! 調子乗って羽目外しすぎないでくださいよ! 仮にも――――『賢者』ですから」

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