179.我の名は

 ふう、これで『魔樹木』の伐採も終了したし、『テーマパーク』予定地も確保出来た!


 僕は後ろを振り向いた。


 ――――そこには、想像もしていなかった光景が広がっていた。



 まず、リサ。


 何でジト目で僕を見ているの!?


 ただの伐採だよ?


 あれ? セレナお姉ちゃんとディアナは何処か元気がなくなってる!?


 リィリさん!? どうしたの!? 立ったまま気絶してる!?



 ん? 町では大騒ぎになっている。


 どうしたんだろう?


 まあ、僕の魔法で沢山の木が空を飛んでいたから、きっとそれに驚いたんだろうか?


 良く分からないけど、あとでちゃんと謝っておこう……。



【ご主人様! ただいま!】


「ソフィア! お帰り!」


 ソフィアには飛んでいる『魔樹木』の回収を頼んでいた。


【『魔樹木』、全部で約十万本だったよ~】


「十万本!? ソフィア、疲れてない?」


【全然疲れてないよ!】


 僕は胸元に飛び込んできたソフィアを撫でてあげた。




 僕とソフィアの仲睦まじい姿の後ろには、住民達がこの世の終わりみたいな顔になっている事など、僕は全く知らなかった。




 ◇




 数時間後、復活したリィリさんに、遊園地の予定地を見せて、町の騒動の後始末をお願いした。


 勿論、沢山謝った。


 リィリさんのおかげで、町が少し落ち着いた頃――


 またもや新たな事件が起きた。






 グオオオオオオオオオオオオ






 クリア町に大きな遠吠えが響いた。


「え!? なにこの声?」


「え? クロウ! 湖の方!」


 セレナお姉ちゃんの声に僕は湖を見た。


 そこにいたのは――――



「へ――」


「くろにぃ! 冗談言う場合じゃないから! ドラゴンだから!」


 あ、そっか、蛇ではないのか。


「もしかして、アクアドラゴン様?」


 あ~、確かに、ここってアクアドラゴンの湖だものね。



 そのアクアドラゴン様は、真っすぐ僕を見つめていた。


 そんな視線の前にソフィアとディアナが立ちはだかった。


【ご主人様は私が守るもん!】「クロウ様、危険ですので私の後ろに!」


 むむむ……


 どうしよう……


 このまま、あのアクアドラゴン様が攻撃してきたら、町に大きな被害が出るのは間違いなさそう。


 逃げるのは簡単だけど、住民達を守らなければ……


 しかし、よりによって、何故このタイミングで出てきたのだろう?




 ◇




 ◆アクアドラゴン様?◆


 くう~出るタイミングが良く分からなくて、変なタイミングで出てしもうたわ。


 あの魔法を使った、小僧……小娘?


 小僧を見つめていると、隣にいた小娘とスライムが前を立ちはだかったわい。



 ん? あれ?


 あのスライム……


 はあああ!?


 おまっ、もしかして『アルティメットスライム』か!?


 は!? 『アルティメットスライム』がなんで人に従っているんだよ!?


 ちょ、ちょっと、スライムさん、我を睨まないで欲しい!



 く、くっ……どうしよう……


 出てくるんじゃなかったわ……


 大人しく、湖の中にいたら良かったかな……



 むむむ……


 このまま睨み続けられると心臓が持たなさそうじゃ。


 取り敢えず、挨拶にでも行こうかの……


 はぁ、久々に起きたら……なんでこんなとんでもない奴に出くわすのじゃ……




 ◇




 アクアドラゴン様がゆっくり、僕の方へ近づいて来た。


 しかし、ソフィアとディアナに、セレナお姉ちゃんとリサまで、何故僕を庇っているの!?


 皆、僕の後ろに……


 あれ? 女性陣ってこんなに腕力強かったっけ?



 遂に、アクアドラゴン様が陸に上がり、そのまま僕の方に歩いて来た。


 良くみると、蛇みたいに長い胴体にちょいちょい足が付いているのね。


 漸くアクアドラゴン様が僕の前に辿り着いた。


 というか、顔が目の前に辿り着いた。



 近くで見ると中々の迫力だ。


 でもつぶらな瞳は、ちょっと可愛いかな?



「皆、多分戦いに来た訳ではなさそうだから、そろそろ警戒しなくて良いと思うよ?」


 僕の言葉に納得してくれたのか、皆、警戒心を緩めてくれた。


 それでも、ディアナとセレナお姉ちゃん、リサはちゃんと武器に手をかざしているし、ソフィアは触手を数本短く出していた。


「初めまして~、貴方様がアクアドラゴン様ですか?」


【ふむ、我は――――】


「凄い!! アクアドラゴン様の声が聞こえる!!」


【へ?】


 アクアドラゴン様の声が頭に響いた。


 感覚的には、ソフィアと従魔のパス会話に似てる感じだった。


 ただ響いている声の性質的に、ソフィアとは電話で話すような感覚で、アクアドラゴン様はスピーカーから聞こえる感覚だった。


「私にも聞こえたわ」


「はい、私にも聞こえます」


「うん、私も私も」


 どうやら、セレナお姉ちゃん達にも届いたようだ。


【むっ、我の――――】


「凄いね! 今までだとソフィアとヘレナとしかこういうパス会話出来てなかったから!」


「ソフィアちゃんとのパス会話と言うのは、こんな感じで聞こえるの?」


「うん、ちょっと個人向けな感じで聞こえるけどね」


「へぇー! 今度ソフィアちゃんとも話してみたいわね」


 そう言いながら、セレナお姉ちゃんはソフィアを撫でてあげた。


 そんな僕達に――――




【お前らが聞いたんじゃろがぁあああ!! 名前くらい名乗らせてくれ!!!!】

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