144.柱塔の次は…

 僕はお姉ちゃんを抱えて、恐る恐る空の向こうへ飛んでいた。


 自然界もだけど、ダンジョンでもこういう無茶ぶりはした事がなかった。


【折角、飛べるんだからやってみたらいいのに】


 と言われた。


 僕はあまり冒険はしない主義だからね!


 え? 今まで全然自重していないのに何言っているの? あれ??



 既に僕達がいた柱塔が形くらいしか見えなくなっていた。


 そのとき、


 ゴーン


 僕の頭が何かにぶつかった。


 天井面を触ってみると見えない壁があった。


 通常ダンジョンの横側にも、こういう見えない壁があって、先には進められなくなっている。


 それと同じ見えない壁だった。


【まあ、予想はしていたけど、やっぱり上にも見えない壁があるんだね】


【そっか~、この見える景色も向こうには行けないものね】




 そのとき、僕はある事を思い付いた。


 セレナお姉ちゃんとディアナ……だけではなく、皆もだけど、高い所から飛び込むのが好きだよね。


 橋から飛び込むのでも精々五十メートルくらいだ。


 それで楽しんでいるのならば――――




 ここから飛び込んだらもっと喜ぶのでは?




 と思い付いてしまった。


【ねえ、お姉ちゃん?】


【どうしたの?】


【ちょっと一つ思い付いた事があるんだけど、一つ試してみてもいい?】


【いいわよ?】


 よし、お姉ちゃんの許可は取った。



【ソフィア~】


【ご主人様~どうしたの?】


【ソフィアの分体も擬態って使えるよね?】


【私の分体って、私と同性能だから同じ事出来るよ!】


【そっか――ではこういう事出来る?】


 僕は幾つかソフィアに尋ねた、ソフィアからは全て出来ると言われた。






【よ~し、お姉ちゃんお待たせ!】


【ん? 今からするの?】


【そうだよ! ではお姉ちゃん楽しんでね!】


【ん~、良く分からないけど分かったわ】


 そう話し、僕はソフィアに頼んでいた、特殊な分体をお姉ちゃんの背中にくっつけた。


 ソフィア自身に粘着性があるので、くっつけるとまず外せられない。


 そして――




「いってらっしゃい!!!」




 僕は――――


 セレナお姉ちゃんをげた。



「え!? きゃああああああああああ」


 セレナお姉ちゃんの悲鳴と共に、お姉ちゃんが落下して行った。


 そして僕は一足先に地上に戻って来た。



「あら? クロウ様、セレナ様はどこに?」


 ディアナが首を傾げていた。


 僕は二ヤっと笑い、空を指差した。




 そこにはダンジョン天井から落ちてくるお姉ちゃんがいた。




「セレナ様!? ……!!! 楽しそうです!!!」


 え!? 感想が楽しそうって!?


 あんな高い所から降りるんだよ!?


 最初は吃驚したものの、何となく今のセレナお姉ちゃんもとても楽しそうだ。


 何か空中でグルグル回ったり、空中ダッシュしてみたり、色々やっている。


 うん、楽しんでくれて何よりだよ。



 暫くして、落ちて来るお姉ちゃんは、段々とゆっくり落ちるようになり、最終的に柱塔にゆっくりと着地した。


「クロウ! 滅茶苦茶楽しかった!!!」


 とても満足したようで、満面の笑みのお姉ちゃんだった。


「でもどうして最後段々ゆっくりになったの?」


「それはね、お姉ちゃんの背中に付いているソフィアの分体が『飛行魔法』でゆっくりにしたんだよ」


「え!? いつの間に付けたの!? そっか、上でコソコソしていたのはこれだったのね」


 お姉ちゃんの背中に付いていたソフィアの分体が、スリスリとお姉ちゃんの肩に上がって来た。


「クロウ、あれってもう一回出来るかな?」


「え? また飛びたいの!?」


「勿論、また飛びたいわ。でも出来ればディアナちゃんにも飛んでみて貰いたいの」


 それを聞いたディアナの尻尾が揺れた。


 うん、飛びたそうにしていたので飛べるようにしてみようか。



 まず、適当に扉を作って、さっきいた天井に転移して、天井面にも扉を作った。


 その二つの扉を繋ぐと、下の扉に入ると天井面の扉から出るのでそのまま飛び降りる事が出来る。


 ディアナの背中に先程のソフィア分体をくっつけて、ディアナには扉に飛び込んで貰った。



 空を見上げていると、飛び降りてくるディアナが見えた。


 うん、ディアナも凄く楽しそうだ。


 ディアナもお姉ちゃん同様、クルクル回ったり跳ねたり色々やっている。


 ディアナが飛び込んでいる間にお姉ちゃんから、


「あれ? ソフィアちゃんの分体でゆっくりしたって言ったよね?」


「ん? そうだよ?」


「それなら私達ってそのまま飛べるの?」


 成程――、今度はそのまま飛んでみたいのか。


 その気になればそのまま飛べるとは思う。


「もしかしたら飛べるかも知れないね」


 お姉ちゃんの目がキラキラしていた。



 降りて来たディアナが凄く楽しそうに笑っていた。


「クロウ様! とても楽しかったです!」


 うん、ディアナも楽しそうで良かった。



 そんな僕達を見つめていた人がいた。


 ダグラスさんだ。


 そのダグラスさんは――――




「遅かったか――やはりオーナーは自重出来なかったか……」




 と呟いていた。


 あれ? 僕、もしかしてまた自重していない?


 これは全てお姉ちゃんのためにした事なんだけどな……。


 まぁ、笑ってるお姉ちゃんも見れたからどうでもいっか。

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