100.アリサ

「こんにちは、アリサさん?」


「えっ……?」


 僕の挨拶で向こうのアリサさんが驚いた顔でこちらを見た。


 ここ穴場だから、誰もいないと思っていたのだろう。


「こ、こ、こ、こんにちはっ」


 何だか緊張した顔だった。


「こんな所に珍しいですね」


「あ……あはは……ちょっと……クラスに居場所が無くて……はぁ」


 彼女は何処か元気が無かった。


 あまり寝れていないようで目の下の隈が出来ていた。


 せっかくの美人さんが台無しだ。


「えっ……と、エクシア様? はどうしてここに?」


 恐る恐る聞いて来た。


「ふふっ、様はいらないですし、気楽にクロウって呼んでください」


「く……ろ……?」


「ええ、クロウティアだと名前が長いからクロウって呼んでください」


「あっ、あ、はい、ありがとうございます」


 とてもよそよそしかった。


 そんな彼女のあたふたしてる姿が何処か愛おしかった。



「そう言えば、さっき居場所がないって言いましたけど、どうしたんですか?」


「えっ!? いいいい、いいえ! 何でもありません!」


 そう言う彼女が立ち上がろうとした時、ふらついた。


 碌に寝れていないからだと思う。


「『ハイヒール』、アリサさん大丈夫ですか?」


「えっ!? 今の……中級回復魔法? え?」


 少し距離があったが、あの距離くらいなら回復魔法が届く。


「あまり寝れてませんよね? 気を付けないとダメですよ?」


「ッ……、そもそもそれもあ―――、……」


「あ?」


「……、そもそも、全てクロウくんの所為なんですよ……?」


「え? 僕が!?」


「はぁ……」


 それから彼女も諦めたように僕らの所へやってきた。



「先日、クロウくんが困っていたとき、私が出しゃばったでしょう? …………Aクラスの女子達からクロウティア様に近づこうと出しゃばったって干されてしまったのよ……」


「えええええ!? あれは僕を助けに……」


「そもそもクロウくんが誰かすら知らなかったのに……はぁ」


「それはその……なんかごめんなさい」


「いいえ、クロウくんの所為だけどクロウくんの所為じゃないですから」


 僕の所為だけど僕の所為じゃないって……何だか難しいね。


「その、もし良かったらこれ飲んで」


 そう言いながら僕はアカバネ商会の『アカバネポーション』の試作品を渡した。


 ポーションの性能が高いので、回復だけてなく精力的な回復も出来た。


「えっ!? 今何処から……?? あ、ありがとう」


 素直に飲んでくれた。


 彼女の身体から薄青い光が光った。


「凄いわ……何だか疲れが全部吹っ飛んだわ」


「うん、元気になったようで良かった」


 そう言うと、彼女も笑顔になった。


 元々凄い美人さんだけあって、笑顔にドキッとしてしまった。


 セレナお姉ちゃんやナターシャお姉ちゃん並ぶ美人さんだ。


「ええっと、貴方の名前、聞いても?」


 彼女がディアナを見ながらそう話した。


「はい、私はクロウ様の従士のディアナです」


「ディアナさんね……クロウくんっていつもこんな感じで誰にでも優しいの?」


 それを聞いたディアナがふふっと笑った。


「えぇ、クロウ様はとても優しい方なんです」


「ふ~ん……、そっか、そりゃこんな凄い薬をくれたり、回復魔法を簡単に掛けてくれるなんて凄いわね」


「ええ、自慢のご主人様です」


 あ―――、なんだか目の前で褒められると恥ずかしい。


「僕達はここでお昼休憩しているので、一緒にどう?」


「あら……、ディアナさんとのデートの邪魔をして大丈夫なの?」


「えええええ!? ごほん、ででで、デートじゃないので問題ないよ、ね? ディアナ?」


 ディアナを見つめると耳が垂れていた。


 え!? 滅茶苦茶がっかりしている!? なんで!?


「ふふっ、ディアナさんも大変だね」


「いいえ、私はクロウ様の隣に立てるだけで十分ですから」




 ◇




 学校が終わり、僕達はアカバネ商会の帰り道を歩いていた。


 帰り道、また彼女を見かけた。


「ん? アリサさん?」


「ッ? ……? クロウくん?」


 驚いた顔でこちらを見た。


「アリサさんも外暮らしなんだね」


「え、えぇ、お母さんと二人暮らしをしているわ」



 それから向かう方向が同じだったので三人で一緒に帰る事になった。


 しばらく他愛無い事を話しながら歩いた。


 生徒でこんなに楽に話せる人は初めて会えたかも知れない。


 しばらく歩いていると――。


「――――アリサ~?」


 正面からアリサさんにそっくりな女性が近づいて来た。


「ッ!? お母さん?」


 どうやら、アリサさんのお母さんのようだ。


 アリサさんをそのまま大人にした感じで、物凄い美人さんだった。


 と言うか……この方、ナターシャお姉ちゃんより綺麗じゃない?


 ナターシャお姉ちゃんより綺麗な方なんて初めて見たよ。


「あら、友達かしら?」


「えっ……いや、まだそういう訳ではないけど……」


「そう? アリサちゃんが仲良くしてる人なんて初めてみるものだから……」


「むっ、お母さん! それは言わないで!」


 むって顔になったアリサさんだった。


「初めまして、アリサの母です。これからも娘をお願いしますね?」


「初めまして、クロウって言います。よろしくお願いします」


「えっ……く……ろ?」


「はい、本名はクロウティアですが長いのでクロウって呼んでください」


「あ! そうだったの、ありがとうクロウくん」


 挨拶が終わり、アリサさんはおばさんと一緒に帰って行った。


 丁度道が分かれたので丁度良かった。


 そして僕達も島へと帰って行った。




 ◇




 あれから一週間程経った。


 特に何かあった訳ではないが、お昼休憩と帰り道はすっかりアリサさんと三人で過ごすようになっていた。


 最初こそお互いによそよそしかったけど、一週間もするとすっかり打ち解けており、ディアナとも楽しく話していた。


 女性だけにしか理解出来ない会話もあるので、ディアナがいてくれるととても助かった。



 そして、本日は珍しくセレナお姉ちゃんがやってきた。


 入学式から二週間程忙しくて全然顔を出せていなかったからね。



「え!? セレナディア様? 嘘っ!?」


 現れたセレナお姉ちゃんにアリサさんが凄く驚いた。


「あら、こんにちは。話には聞いていたけど、可愛らしいお嬢さんだね。初めましてアリサさん」


「ッ!? 何故私の名前を……」


「クロウから毎日聞いているから」


 お……お姉ちゃん……。


「そそそそ、そうでしたか……とても光栄です! セレナディア様の大ファンです!」


「ありがとう! あと私の事はセレナって呼んでくれていいわよ」


「ありがとうございます! セレナ先輩!」


 元気になったアリサさんにお姉ちゃんとディアナもふふっと笑っていた。



 何だか、そんな彼女を見てるととても和む。


 先週合った時はクラスに馴染めず疲れ切っていたのに……、僕も同じだけど。


 彼女のおかげで僕も何だか学園生活が楽しくなってきた。



 それから僕達はそのままお昼を取る事となった。


「しかし、クロウくんっていつも『アイテムボックス』からお昼出すよね? 良く冷めないまま保ててるね」


「ん? これはうちの商会の商品で特別な『アイテムボックス』なんだよ」


「へぇー、特別な『アイテムボックス』なんてあるんだね」


「クロウ、アリサちゃんはまだ商会に連れていっていないの?」


「うん? そうだね、まだだね」


「商会……?」


「うん、僕とディアナが所属している商会なんだ」


「へぇー、私もお母さんもあんまり買い物とかした事ないから商会とか行ったことないんだよね」


「珍しいね?」


「まあ、お母さんがちょっと特殊だったからね、買い物も出来なかったから」


 彼女はどこか疲れた顔になった。


「クロウとアリサちゃんって毎日一緒に帰ってるんでしょ? 今日連れていってあげたら?」


「そうだね、アリサさんさえ良ければ」


「行ってみたい! お母さんが今日も迎え来てくれると思うから一緒でもいいなら」


「うん、では案内するよ。僕の――アカバネ商会へ」















「え? あか……ば……ね?」


「うん、王国内でも中々有名な商会なはずだけど……」


「え? その商会ってクロウ・・・くんが作っ……たの?」


「うん、誰にも言わないでね、一応僕がオーナーしてるからね?」


「――――」


「???」


「あかばね……クロウ、あかばねクロ? 赤羽黒斗アカバネクロト……?」


「え? ――クロトって……どうしてその名を……」


「くろ……にぃ?」


「え? ―――り……理沙リサ?」


 そう話した彼女の目には大きい涙が溜まった。


「やっと……やっと見つけた、くろにぃ!!」


「りさ!!!」


 そこからは何も覚えていない。


 今まで一番泣いた。


 僕の胸の中で彼女……いや、前世の妹のリサも泣いていた。



 今日、僕は妹を探すための商会の名前のおかげで、遂に妹を見つける事が出来た。




「くろにぃぃぃ、あいたかったよ」


「うん、ぼくもずっとあいたかった」


 僕達は笑顔のままずっと泣いていた。

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