95.成長

 十歳の誕生日から数か月が経ち、お姉ちゃんとの勉強会も終わった。


 貴族としての礼儀作法等色々学ぶ事が出来た。


 お姉ちゃんはあと数か月後に学園に入るのでそれまでまた稽古に励むとの事だった。


 稽古も基本的にはディアナちゃんや『スレイヤ』の皆さんと狩りに行く事が多かった。


 二人共しっかりレベルを上げていた。



 ナターシャお姉ちゃんの方の『ライブ』も順調だった。


 今回の『ライブ』は更に進化して、ナターシャお姉ちゃんだけでなく『テンツァー踊る者』達による臨場感を出す踊りに多くの者達が更に発狂した。


 本当に『アイドル』らしくなったナターシャお姉ちゃんだった。



 アカバネ商会も順調に進んだ。


 特に大きい事件も起きず、『新聞』や『手紙』も順調に進んだ。


 王国の多くの貴族も利用するようになり、各貴族は毎回『新聞』を定期購入していた。



 無限魔道具の賃貸も順調だった。


 王国魔道具ギルドの事件があり、賃貸した全ての貴族や大手商会は誰も分解しようとはしなかった。




 ◇



 それとバレイント領の大橋が予定よりも早く完成した。


 完成が見えてから全ての職人達を投入で一気に終わらせた。


 完成日はバレイント領で大きな祭りとなった。


 これから大橋祭りという事で毎年開く事になった。



 ギムレットさんは泣いて喜んでいたけど、完成したから今の生活の何かが変わるかと言われると変わらないから苦笑いしていた。


 元々この橋も領民の生活のために目指していた事だけど、代々受け継いで来た『賢者の石』が大きな役に立った事だからどちらも本望だろうと結果良ければ良しと領民もギムレットさんも喜んでくれた。



 それから記念すべき十回目のアカバネ祭が行われた。


 その発表会で大きな発表は、


 先ず、以前『テンツァー踊る者』になれなかった『オペル』の五十四人の行方だった。


 何と五十四人全員で踊り隊を結成した。


 ナターシャお姉ちゃんの後ろで踊るのではなく、五十四人が連携した見事な踊りを見世物にする事になった。


 当日『ライブ』前の前座として踊る事になった。


 思っていた以上の盛り上がりになり、彼らはこれから毎月各地のステージで踊る事となった。


 『オペル』達は講演後、握手会を開く事が確定しており、未来の『アイドル』になれるかも知れない彼らを応援する軍団も誕生した。



 十回目のライブも終わり、三回目の決算会議で前回よりも高い配当金を貰い……そのまままたアカバネ商会に全額預ける事になったりと時が過ぎて行った。




 ◇




 また冬が終わり、春が来た。


 遂にこの日が来てしまった。


 セレナお姉ちゃんの入学の日だ。


 『剣聖』という事もあり、お姉ちゃんは既に最高クラスが確定していた。


 一応試験のようなモノはあるが、既に『剣聖』であるセレナお姉ちゃんと打ち合える者もそうそういないはずなので軽く見せるだけのようだ。


 そしてお姉ちゃんが「行ってきます」と言い、王都へと旅立った。



 その日から僕は一週間程寝込んだ。




 ◇




 一週間後、なんとか立ち直ったのでアカバネ島に行ったら真っ先にディアナちゃんが来てくれた。


 どうやらディアナちゃんもセレナお姉ちゃんが学園に行ってしまって寂しがっていたようだった。



 そんなこんな話していると、ディアナちゃんから意を決したように話した。


「クロウ様、一つお願いがございます」


「どうしたの?」


「――――、私をクロウ様の護衛にして頂けないでしょうか」


 そう言いながらディアナちゃんが僕の前で跪いた。


 確か数年前そんな事言っていた。


「えっ、でもこんな僕なんかの護衛なんて……」


「いえ、私はクロウ様に助けられたあの日からずっとこの日のために頑張って来ました。ちゃんと強くなっているつもりです。まだクロウ様には程遠いかも知れませんがこれからも精進して行きます」


 そもそもディアナちゃんは銀狼族の天才の黒銀狼である。


 その強さは『剣聖』にも並ぶ。


 それに、毎日鍛錬も忘れず、日々日々強くなっているのを僕もよく知っていた。


 そんな彼女を拒む事こそが失礼だと思えた。


「うん、分かった。それではディアナ――、これから僕の護衛として働いてくれるかい?」


「はい、我が主の心のままに」


 ディアナちゃんは涙を流し、喜んでくれた。


 そんなディアナの姿を見て、何処か僕も嬉しくなった。


 こんな僕なんかのために……ここまで一生懸命に訓練に打ち込んでくれてありがとうね。


 ディアナが嬉しそうな表情で僕を見上げてくれた。


 その瞳からは噓偽り一つ感じさせない熱い眼差しを感じられた。


 そんな彼女に僕は手を差し伸べた。


 そして彼女は僕の手を握り「光栄です」と話した。


 そんな彼女の手は――――













 マメだらけの……今までの努力を語る手だった。

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