第86話 二回目の決算会議

 みんなで旅館に泊った日から数か月が経ち、二回目の決算会議の日になった。


 それとあの日から半年ごとに泊り会をする事になった。


 またそれとは別に女子会って言って、お母さん達だけで毎月泊りたいとの事で、快く旅館を貸す事にした。



 あの日、温泉でナターシャお姉ちゃんが思いついたモノがある。それは『化粧水』と言うモノだった。


 『化粧水』はナターシャお姉ちゃんと魔道具研究所で開発を進めていた。『錬金水』に幾つかの薬草を混ぜる事によって、高性能の『化粧水』が出来上がったという。


 開発に数か月も掛かってしまったが、その甲斐あってすごい性能の商品となった『化粧水』。もちろん値段は凄く高くなってしまった。


 しかし、僕の予想を遥かに超えて、五回目の『ライブ』の時にナターシャお姉ちゃんから発表があり、それが素晴らしい宣伝となった。


 貴族はもちろんの事、多少余裕のある平民――――主に女性がこぞって購入した。


 ライブが終わった後から、世間の女性から一番贈って欲しいモノとまでなったと噂を聞いている。


 高額商品だから売れ行きはボチボチだと思ってたのに、販売期間がたったひと月にも関わらず、売れば完売を続けている。



 そんなこんなで新しい商品の販売も力を入れるようになり、今期の決算はどうなるのか心配でならない。


 前回の『配当金』は金貨三千枚――――つまり白金貨30枚分だ。


 その後、配当金と伯爵からの報奨金で白金貨160枚をアカバネ商会に投資している。


 投資と言っても僕的には貯金しているのと変わらない感覚だったけどね。


 それから注文があるからと『無限魔道具』もたくさん作ったし、賃貸用の『水』は今でも作り続けている。




「それでは、二回目の決算会議を始めます」


 アカバネ商会も大きくなったので、会議の中身は従業員達には聞かせていない。経営陣のみで行うそうだ。


 ダグラスさんから各部門の詳細報告を受けたけど、細かくてよく分からなかった。


 人数も多くなったし、運営されている金額も銀貨という言葉すら使わなくなっているくらい桁が上昇している。



「――――、以上が詳細でございます」


 やっと終わったみたい。


「最後になりますが、今期の配当金でございます」


 ダグラスさんだけでなく、経営陣のみなさんの顔が少し強張る。


「総額――――500枚になります」


 ん??


 500??


 へ?


 ああ! あれか! 金貨500枚ね!


 そうかそうか!


 ……。


 …………。


 あれ? 金貨じゃないの?


 白いの?


 白い金貨?


 …………。




 僕は声にならない声で叫んだ。




 ◇




 ◆ダグラス◆


 遂にやり遂げた!


 あのオーナーを…………遂に心から驚かせる事に成功した!


 ディゼル殿や経営陣全員でガッツポーズをした。



 あのオーナーに助けられ早二年。


 何も恩返しが出来ずに、商会資金から始まり、商売魔道具の提供から人助けまで行った上に、今度は島を作り住処まで提供して頂いた。


 さらには我々従業員達には、とんでもない好待遇まで…………。


 俺達はできる範囲でみんなで誠心誠意で働いた。そのおかげで多めの経費を引いても、配当金がなんと――――白金貨500枚にも上った。


 その結果を持って、本日…………無事オーナーを驚かせる事に成功した!


 この日のためだけを目指して頑張ってきた数年。これで我々も報われる。


 俺だけじゃなく、ディゼル殿達も熱い涙を流していた。




 ◇




 ◆ナターシャ・ミリオン◆


 私はここ一年、クロウくんのために一生懸命に働いてきた。


 『アイドル』になった事により、外を歩くのもままならなかった。


 でもクロウくんはそんな私の悩みも直ぐに解決してくれた。


 言っても別に私のためではないけどね。


 それが『アカバネ島』。


 アカバネ島はクロウくんが認めた者しか立ち入れない島となっている。


 おかげで私は自由にこの街を歩けるようになった。


 それから商品の開発だったり、歌や踊りの練習も頑張ったわ。



 決算会議でとんでもない金額の配当金になった事で、あのクロウくんが驚きすぎて椅子から転げ落ちたのを見て、思わず笑ってしまった。


 そんなクロウくんは、早速来期の給金を上げると決定すると――――私の給金がとんでもない金額になってしまった。


 クロウくん的にはダグラスさんやお父さんよりも、私の方が多く貰うべきだとの事で、従業員の中で最高額の給金になった。


 これから増えるかもしれない『アイドル』達や他の従業員の夢にも繋がるので、貰って欲しいと言われたら断る事ができなかった。


 私は人生で初めて手にする――――白く輝いている金貨一枚をしっかり握りしめた。




 そして、今年初めての試みとして、『ライブ』で私と一緒に踊ってくれる踊り子を募集した。


 最初は給金も貰えず、一年間食事と寝る場所のみを与える事にした。


 一年後、受かった数人だけが私と一緒に『ライブ』で踊る事になる。


 彼らの事は『テンツァー踊る者』と呼ぶ事にした。



 既に前回の五回目の『ライブ』で告知しているので、多くの応募があった。


 今は一か月という時間を掛けて『テンツァー踊る者』の前身となる『オペル』を50名決め、一年間競争して数人だけ『テンツァー踊る者』となり正式的に従業員にする予定だ。


 クロウくんからは、私の提案なら大丈夫だと太鼓判を押してくれた。


 毎回『ライブ』を楽しみにしてくれるクロウくんに飽きられないよう、これからも私は色んな事を試しながら楽しませようと思う。






 この『テンツァー踊る者』の誕生により、世界が大きく動く事になるなど、今のナターシャはまだ分かるはずもなかった。

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