第55話 魔物の卵

 今日は『魔物の卵』を孵化させる事にする。


 お姉ちゃんも見たいからとディアナちゃんを連れ、一緒に魔法訓練所へやってきた。


 『魔物の卵』は触れられないように、透明な箱に入れられていたので、取り出してみる。


 取り出そうとして触れた瞬間から、僕のMPが吸われるのを感じる。


 魔法はスキル『MP消費超軽減』があるので、最近では急激な減りはあまり感じなくなっていたので、久しぶりにMPが大量に減る感覚を味わう。


 減る速度から1時間も触れていると久しぶりにMP枯渇状態になれるかも知れない。


 『MP超高速回復』もあるのにこの勢いって凄まじい速度だ。



「ねぇ、クロウ? どんな感じ?」


「うん、凄い勢いでMP吸われてるかな」


「へぇー私も触って見ていい?」


「良いけど、ちょっとだけだよ? 凄い吸われるから」


「うん、分かった」


 恐る恐る卵に手を掛けるお姉ちゃん。


 2秒程して手を離した。


 お姉ちゃん顔が汗だくになっている。


「え!? クロウ!? そんなに長く触れてて大丈夫なの!?」


「ん~まだ大丈夫かな?」


「ねえクロウ、頭痛くなったらすぐに手離すのよ? MPが無くなったら頭が凄く痛くなるからね?」


 あ……お姉ちゃん……MP枯渇状態の事ね……僕はもう痛くならないんだ……ごめんね?


「う、うん! 分かった!」


 それから1分置きにお姉ちゃんに心配された。


 お姉ちゃんからこんなに心配されるなんて、実はこれ役得か?


 あれから1時間が過ぎた。


「ん~もう限界~」


 と言い、卵を元の箱に戻した。


「い、1時間も……あれに……」


「お姉ちゃん、だって僕『賢者』だよ? MP多いから」


「そ……そうだけど……本当に頭痛くない?」


 お姉ちゃんが僕のおでこに手を当ててくる。


 お姉ちゃん近い、めちゃ良い匂いする。




「しかし、この卵どうやって持ち歩いたらいいかな?」


「ん~担いで歩くには箱が大きいね」


「私がお持ちしましょうか?」


「えー、でもそれじゃディアナちゃんが大変だからダメかな」


「いえ! 私強くなっていますので、大丈夫です!」


「う~ん、でもせっかくだから一緒に散歩したいし、う~ん」


 助けてお姉ちゃん知恵袋~。


「箱が駄目なら袋に入れる?」


「ん~袋だと、人とぶつかった時割れない?」


「割れるかもね……ん~」


「出来れば、直接肌と触れたり、離したり出来るようにしたいかな」


「え? なんで?」


「MPが回復したらすぐ吸わせてって繰り返そうかなって」


 僕達三人は真剣に悩んでいた。


「あ、クロウ様、それでしたら以前クロウ様がお使いになられた……あの黒い影の手? で持つ事は出来ますか?」


 ん? 闇の手の事かな?


「やってみようか」


 闇の手を2本程出して、卵を包んだ。


 うん、これなら持ち運びが楽だな。


「それを頭に乗せられますか?」


「頭??」


 ディアナちゃんに言われるがまま頭に乗せてみる。


 うん、しっかり乗せてるとMPがしっかり吸われる。


 触れてるのは頭でもいいのか。


「うん、これは大丈夫だけどこれからどうするの?」


「クロウ様のMPがなくなったら、頭から少し上に上げると離れませんか?」


 ちょいと浮かせば頭に当たらないので吸われなくなった。


「うん、出来る」


「はい、その状態で頭の上をすっぽり隠せる帽子を被ればいかがですか?」


 おぉ! ディアナちゃん知恵袋凄い!


「おぉ! ディアナちゃん良い考え!」


 褒められて嬉しそうに笑顔になるディアナ。


 お姉ちゃんやナターシャお姉ちゃんがいるから目立たないけど、ディアナちゃんも大概美人である。


 笑顔のディアナちゃん可愛い!




 それから魔法使いの帽子というのが商品スペースにあったので、取り出して被ってみた。


 たしかに、これなら卵も目立たなくて良い!


 念のため、帽子が抜けないように闇の手のもう2本取り出して、頭から帽子を固定させる。


 お姉ちゃんに帽子を引っ張って貰っても抜けなかった。



 それから僕達は貿易街ホルデニアに移動した。


 商会を後にする時にナターシャお姉ちゃんに見つかって、一緒に行きたいけど『アイドル』になった今では外に出ると大騒ぎになるからと肩を落としていた。


 それならナターシャお姉ちゃんに霧属性魔法でも掛けてナターシャお姉ちゃんに見えなくしようか? と聞いたら凄い勢いでお願いされた。


 それから僕達四人はホルデニアの屋台を回ったり、買い物を楽しんだ。



 ふと、屋台の隅にアクセサリーを売っている店にディアナちゃんが食い入るように見ていて。


「何か欲しいものでもあるの?」


 そう言いディアナちゃんの隣に立つとディアナちゃんは顔が真っ赤になり驚く。


「い、いいえ! 綺麗だなと見ていたんですが……私なんかには似合わないですから…………」


「え? そんなことないよ、ディアナちゃん凄い可愛いし、ん~このヘアピンとか凄い似合いそう」


 そう言い肉球の絵柄のヘアピンを取って、ディアナちゃんの前髪に当ててみた。


 獣人族だから肉球絵柄がめちゃ似合う!


「おぉ! 可愛い!」


 いつの間にかお姉ちゃん達も来て可愛いと褒めた。


 褒められ慣れていないようで、顔が真っ赤になってモジモジしてて、尚更可愛い。


 それを見ていた店員の子供さんたちも可愛いって褒める。


 そのヘアピンをすぐ購入し、ディアナちゃんにあげると涙ぐんで喜んでくれた。


 ヘアピン一つで泣く程なの? 欲しかったらいつでも言ってくれれば買ってあげるよと言ったらディアナはナターシャお姉ちゃんにダイブしに行った。


 優しくディアナちゃんの頭を撫でるナターシャお姉ちゃんとモジモジしているディアナちゃん、うん、絵になるね。



 それからナターシャお姉ちゃんは服が欲しいからと、セレナお姉ちゃんは手袋が欲しいからと買ってあげたりと、買い物を楽しんだ。

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