第39話 あくどい事はすぐに思い付く子供と大人
ミリオン商会の店だった店舗は現在改装が行われている。
ダグラスさんが商会ギルドに商会変更で出掛けている間に店舗の清掃等、従業員の皆さんが頑張ってくれた。
ダグラスさんがホルデニア支店に戻り、支店長となったディゼルさんに『次元袋』と『遠話の水晶』を渡して説明する。
それを知ったときのディゼルさん達は声にならない叫びで店舗内を駆け回った。
それと、アカバネ商会の商売の方向性が決まった。
未だ各地に敵対商会も多いので、店での販売は一切しない方向に決まった。
では店では何をするのか、それはひとまず買取専門だ。
ダグラスさん曰く「買取専門にする事で、売り物にケチを付けられないのが利点です」と。
ちなみに、買取リストも作成したが、基本ゴミ以外は大半買い取る事になっている。
アカバネ商会には『次元袋』があるので、どんなに買っても場所を取る事はないからね。
集められた商品はダグラスさんが時を見て、売り出す仕組みだ。
資金は金貨100枚以上。十分過ぎる程の資金があるので、買い取るのに全く問題なさそうだ。
買い取る量に制限を設けない代わりに、全ての品は相場よりも3割程安く買う予定だ。
うちに売るより他所に売った方が利益にはなるが、今すぐ処分したい場合、確実に処分出来るのが利点だ。
それともう一つ、うちに売る事で得する事があるのだが、それはまた後程説明する。
数日後。
店の看板や内装の改装が終わり、開店まであと数日となった。
そして今日その祝いにアカバネ商会初のパーティーが開かれた。
メンバーは僕とダグラスさんアヤノさん支店従業員の6人で計9人だ。
料理人フィーネさんが作ってくれた美味しそうな料理がたくさん並ぶ。
フィーネさん曰く、僕から貰った食材用次元袋のおかげで色んな食材が新鮮な状態で保管出来るので、料理が増々楽しいと喜んだ。
「では、アカバネ商会の大きな一歩となるホルデニア支店に乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
美味しい食事を食べながら、従業員さん達の現状等を聞く。
皆さん開店をとても楽しみにしていた。
もちろん僕も楽しみだ。
「クロウ様! 私の看板娘としての準備も順調に進んでおりますわ」
回復から数日経ち食事もしっかり取り、やせ細っていた身体もすっかり元通りになっているお嬢様だ。
「そうですか! お嬢様ならきっとやれますよ!」
「むっ、クロウ様? 私の事はお嬢様じゃなくて! ナ・ター・シャと呼んでくださいまし」
そう、お嬢様は呼び捨てで呼んでくれと毎日のように言ってくるのだ……。
僕よりも年上の女性を呼び捨ては出来ないよ……。
「えぇ……呼び捨てなんて出来ませんよ……」
「いえ! クロウ様は命の恩人! ぜひ呼び捨てなさってください!」
「寧ろ、皆さんも僕の事に様なんて付けないで欲しいんですけど……」
そんなやり取りをしていると酒に酔っ払ったアヤノさんがフラフラと近づいてきた。
「むっ! もう二人とも~そんなに言うんなら~、ヒック、姉弟になれば、ヒック、いいんじゃ~」
そう言いながら、ソファーに倒れこむアヤノさん。
「アヤノ! 酒は弱いんだからそんなに飲むなと言ったのに……」
ダグラスさんが倒れたアヤノさんをソファーに寝かしつける。
「姉弟――――クロウ様と私が……姉弟……」
ちょっとナターシャさん!? 危ない目になってますよ!
「えっと……僕もナターシャさん……じゃなくてナターシャお姉さんと呼びたいな…………」
「はうっ!?」
悶えるナターシャさん。
「く、クロウ……くん」
照れてるナターシャさん滅茶苦茶可愛い…………元々美人さんだしね。
ナターシャさんは淀み一つない長い銀髪が綺麗で、以前はやせ細っていたが今はすっかり元通りに戻り、すらっとした健康体の身体をしているし、薄赤色の瞳と整った顔も相まって、とても綺麗な人だと誰もが納得するだろう。
「では、クロウくん、これからは私の事はナターシャお・ね・え・ちゃ・んって呼んでくださいね!」
「ひっ、は、はい、ナターシャお姉ちゃん…………僕に敬語なんていりませんよ?」
「――ッ!」
ちょっとナターシャお姉ちゃん!? 僕を見てるのに涎出てますよ!?
「んかぁいぃ……じゃなくて、うん! これからは姉弟として宜しくね! クロウくん!」
「あい~!」
「――ッ!」
ナターシャお姉ちゃん? 酔っ払ってるのかな? 酒は飲んでいないはず?
「それはそうと、クロウくん? 皆さんに私の仕事について説明してあげないのかしら?」
「あ、そうだったね。皆さん! これからナターシャお姉ちゃんの仕事を説明します!」
それを聞いた従業員の皆さんが集まってきた。
どうやら、みんな気になっていたみたいだ。
「ナターシャお姉ちゃんの仕事はただの看板娘じゃないですよ! ナターシャお姉ちゃんにはこれから――――――――
『アイドル』になって貰います!」
「「「「あいどる?」」」」
寝込んでいるアヤノさんの除き、全員が首を傾げる。それもそうよね……この世界に『アイドル』なんて言葉はないんだから。
アイドルは、前世のテレビで見た事があった。
派手な服を着た綺麗なお姉さん達が一生懸命に踊りながら歌っていた。
僕がアカバネ商会を立ち上げる目的。
それはアカバネ商会の名を大陸全土に広めるためだ。
そのために考えたのが、看板商品……ではなく、看板娘……つまり『アイドル』だ。
「えっと、ナターシャお姉ちゃんは凄く美人さんだから」
「えっ……美人…………恥ずかしい……」
「うちの娘は世界一美人ですとも! さすがオーナー、良く分かってらっしゃいます!」
ディゼルさんって親馬鹿よね。
「そんなお姉ちゃんには、アカバネ商会の『顔』になって貰います!」
「アカバネ商会の『顔』?」
「はい、ディゼルさん。もしディゼルさんがお客さんだとして、お店に行く場合、綺麗なお姉さんがいるお店と、厳ついおじさんがいるお店、どちらに行きますか?」
「ふむ……それは店によりけりとは思いますが、ただのお店だとしたら綺麗なお姉さんがいるお店でしょうか」
「そうです! ですがそれにはもう一つ大きい効果があるのです」
「効果……ですか?」
「それは、噂が広まる事です」
「噂……?」
「はい、以前ダグラスさんから商売を広げ過ぎて命が狙われると聞きました。その時に思いついたんです! そもそもダグラスさん達はどうして命を狙われるようになったのか、ダグラスさん達をどう特定したのか考えたんです。
その答えは『噂』だと思いました。あの商人が大口商売を行った。そんな噂がどんどん周辺に広がったのではないかと。ですがそれは逆に考えれば武器になるなと思いました。
この店に来れば『凄い美人さんと会えるかも知れない』『その店の名前はなんだ?』という疑問が出てくるはずです、それが商会の名前を広める一番の方法だと思うんです」
「ふむ、確かにオーナーの仰る通り一番の宣伝は人伝と言われていますからね。それで具体的にどうやって宣伝を?」
「はい、ナターシャお姉ちゃんは少し嫌がるかも知れませんが、僕の予想だととんでもない効果があると思われる方法を思いついてしまったんですよ!」
「ほぉ?」
「これは以前、とあるお店で見たんですが、食事を運んでくれた女性の手にわざと触れようとした人がいたんです」
「あぁ……そんな嫌らしい輩もいますね…………」
「その時の事を思い返して閃いたんです! これだっ! って! それはですね…………うちに一定額を売ってくださったお客様に、ナターシャお姉ちゃんと――――――握手が出来る権利を付けるんです!」
「「「「ええええええ!?」」」」
「勿論、あ・く・ま・で、握手のみですよ? しかも5秒だけです。それ以上何かしようとしたら…………フフフッ」
僕は邪悪な笑みを浮かべる。
あ、皆さんそんなに怖がらなくても! というかダグラスさんが一番怖がってるじゃないですか!
「ですが、これはまだ序の口です。まだ話せませんがこれからもっともっと凄い事が起こりますよ!」
「ほぇぇ……、ちなみにそれは……クロウくんの力になれるの?」
「勿論だよ! ナターシャお姉ちゃんにしか出来ない事なんだから!」
「私に
ちょっとお姉ちゃん!? なんでまた涎を!? 本当に大丈夫!?
「しかし、オーナーはいつも面白い事を考えますね。握手の権利ですか…………オーナー、握手の権利を『握手会』としませんか?」
「『握手会』? …………ん?」
「はい、これは俺の案ですが、握手会にする事で日を決め、その前日までに一番売り額が高かった数人だけが握手会へ参加出来るようにしませんか?」
「ん? 一定じゃなくて一番ですか?」
「はい、最初は一週間、次は一か月、最終的には半年と、半年の間一番売ってくださったお客様10名様をナターシャ嬢の握手会への参加権利を与えます、しかもあくまで権利のみです。
そうする事によってこの権利は界隈で物凄い
「ダグラスさん! それ凄く良いと思います! では名付けて『ナターシャ嬢握手会』を決まった日で開催し、それまでの売上の上位10名様に『握手券』を渡し、あとは使うも良し、使わないも良し、売るもよし!」
「はい! オーナーも悪い事を思いついたものですね! フフフッ」
「いやいや、ダグラスさんこそ、こんな名案をすぐ思い付くなんて! フフフッ」
僕とダグラスさんの
その傍で目がハートになっているナターシャお姉ちゃんが何かをブツブツ話している、うん、不気味だ。
この日、世界初の超絶美人の握手会イベントが誕生した。
これをきっかけにアカバネ商会では一大イベントになっていくのだが…………まだそれを知るモノはどこにもいなかった。
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