誕生編

プロローグ

 ふらふらする頭を抱えてその場に疼く少年が一人。


 彼の近くに倒れ込んだ少女がいて、二人とも顔から全身に痣だらけの姿であった。


「リサ……本当にごめんな…………俺がちゃんと守ってあげれなくて……本当にごめん…………ダメな兄だけど……もし生まれ変われるなら…………また兄妹で…………」


 意識が朦朧もうろうとした少年は、全身を襲う痛みの中、少女に被さるように倒れた。




 ◇




「こほん、そろそろ起きるかい?」


 どこからともなく声が聞こえる。


 初めて聞く声だけど、誰なんだろう?


 そして、目を開けると真っ白な景色が目の前に広がっていた。


 周りを見渡すも真っ白い景色ばかり見える。


 声がした方へ目を向けると、そこには初めて見る人がいた。


 白い髭を生やして白い髪のお爺さんはとても優しそうな顔をしていた。


「ほっほっほっ、やっと目覚めたのぉ」


 お爺さんが微笑みを浮かべてこちらを見つめている。


「っ!? リサ……リサは!? ここは!?」


 周りを見回すよりも先に直前の生々しい記憶を辿る。


 父親の虐待が毎日続いて、碌に食事もとれず、逃げることもできないまま妹と倒れたのを覚えている。気を失うその時まで鮮明に覚えていた。


「ほっほっほっ、目が覚めてすぐに妹さんを気遣うのは良い兄じゃのぉ」


「っ………………良い兄じゃ…………ありません…………俺は妹を守れなか……」


 自然と涙が流れた。


 俺に少しの勇気があったら妹を守れたのに、それが出来なかった。


「俺が……ちゃんと守ってあげれたら…………」


 守ろうとしなかった訳ではない……。父親の虐待に全力で抗ったけど、それが引き金になって俺にも妹にも風当りがより強くなってしまった。


 その日は酷く酒に酔って帰ってきた父親は、有無うむを言わさず俺達を殴り続けた。


 いつもよりも酷い状況が続き、俺も妹も全身を襲う激痛で立つ事もできなくなった。


 きっと……俺も妹もあのまま死んでしまうんだと悟っていた。


「もし神様、でしたら、俺のことは、どうなってもいい……どうか、妹を……幸せに…………」


 いろんな感情が込みあがってきて、上手く喋ればない。


「うむ、君達の状況は調べが付いておる。ただし、君はどうなっても良いから妹さんを幸せにして欲しいと言うが、それを妹さんが望むとは思えんのぉ、君達はとても仲良い兄妹だったのじゃからのぉ、ほっほっほっ」


 守ることができなかった俺を妹がまた望んでくれるかは分からない。でも…………。


「まぁ、妹さんの事は一先ず置いて、先ずは君のことじゃ」


 お爺さんの優しい目に吸い込まれるように目を合わせてしまう。


「君は前世で大変な目に遭いながらも、妹さんを守ろうと頑張っていた。でも報われる事は無かったのぉ」


 今まで誰からも言われたことがない言葉に、涙が止まることはなかった。


「そんな君には、地球とは違う、別の世界に生まれ変わる事になってのぉ、まだいろいろ気持ちの整理も出来てはおらんのだろうけど、新しい世界で、君がしたい事、成し遂げたい事をやってみると良い」


 お爺さんが話していたとき、俺の体が光り始めた。


「時間切れのようじゃ、少年。一つ助言をしよう、新しい世界でいもう――」


 え? いもう――? 新しい世界??


 そこから俺は気を失った。

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