天からの祝福
朝日が差込み、顔に当る陽の光で良司は目を覚ました。
目覚めたのは寝室のベットの上。
昨夜は確か教会に居たはずだが、どうやって帰ってきたかも覚えていない。
教会での出来事は、もしかしたら全て夢だったのかもしれない。
しかし良司の心の中には、あの天使が残した言葉が引っかかっていた。
”恐らく、神の使いは私の罪を知っている”
良司はグラグラする頭を抑えながら、部屋を出て階段を降りた。
「お父さん、おはよう。今日は遅いね? 」
良司に声をかけてきたのは、双子の弟のミハルだった。廊下では子供達が学校へ行く準備をしている。
「ミツル!先に出てるよ! 」
「あっ、待って 」
ミハルはさっさと準備を済ませて、玄関のドアを開け外へ出る。それを見て、焦ってはいるがミツルはモタモタとまだ荷物を纏めていた。
親の目から見ても、正直ミツルは利発な方では無い。ただ、少し変わった子だと言うだけなのだ。
「ああ、そうだ。ミツル、次の礼拝に参加してみるかい? 行きたくなければ行かなくてもいいけれど 」
良司の提案に、ミツルはポカンとした顔をしたが「いいの?行ってみたい!」とすぐに返事をした。
礼拝に連れていくことで、ミツルに何らかの兆候があるかもしれない。
それは良司にとって、ちょっとした賭けだった。
◇
次の日曜日。
教会へと続く裏庭を楽しそうに歩くミツルの様子を、良司はじっと観察する。
” この子が神の御使い…本当だろうか ”
ミツルは良司にとっては普通の子供であり、その言葉をにわかには信じがたかった。
だが、ミツルを礼拝が行われる教会に連れてきた事により、良司の疑念は覆る事になる。
「ねえおじいさん、もしかしてここ痛い?」
礼拝を終えた教会の中で、ミツルは高齢の男性に声をかけていた。
その老人は、キョトンとした表情でミツルを見ると、ぎこちなく笑った。
「ああ、ちょっと前から少し痛みがあるけど、もうこんな歳だからね。あちこちガタがくるんだよ。だから大丈夫だよ 」
ミツルは男性の言葉に首を傾げる。
「絶対に病院行った方がいいよ。これはよくないから」
ミツルは真っ直ぐに男性を見据えて、淡々とそう言い放った。
その表情は穀膳としており、慌てて近寄った良司は、それがいつもの息子ではない様な違和感を持った。
まだ弱冠8歳でしかないミツルの言動に気圧されてしまった男性は、その場で「分かったよ」と答えるしか無かった。
しかしその日の夕刻、教会でミツルが声をかけた高齢男性が良司の自宅を訪ねてきた。
その高齢男性は、とても信じられないといった様子でゆっくりと口を開く。
「あの…貴方のお子さんに言われた事がどうしても気になり、病院に行ったんです。そうしたら医者から、初期段階の癌の可能性があると診断されました。この通り高齢なもので、このまま進行していたら手術する体力も無かったでしょう」
男性の言葉に、良司と妻は首を傾げた。
「え……?いや、偶然だとは思いますが、お役に立てたなら良かったです 」
「本当にありがとうございます。是非、あの子にもお礼を言いたい 」
良司は半信半疑のまま、他の兄弟と遊んでいるミツルに声をかける。父に連れられて部屋を出ていくミツルを見て、弟と妹は不思議そうに顔を見合わせていた。
「そっか。おじいさん、良かったね 」
男性と対面し、良司に分かりやすく説明を受けたミツルは、そう言って笑顔を見せた。
「本当にありがとう。もし長期入院にでもなったら……」
「うん。おじいさんにも家族がいるもんね。ワンちゃん達も心配してるよ 」
ミツルは男性の足元を指さす。
どうやら、ミツルには足元に彼を心配する犬の姿が見えている様だ。
「えっ、確かにウチに犬は2匹居ますが 」
男性は独り身で犬を飼っていること、自分が居なくなったら犬の世話をする人が居なくなることをずっと心配していた。なので、早い段階で病気が見つかった事を喜び、ミツルに再度礼を述べると家へ帰って行った。
高齢男性の背中を見送るミツルに、良司は半信半疑に声をかける。
「なあ、ミツル。前にも光や色がって……」
どう切り出そうかと声を詰まらせた良司に、ミツルは父親の目を見てハッキリとこう答えた。
「うん。今まではぼんやりだったけど、最近はよく見えるんだ。きっとこれは、その人から出てる命の色と、その人を取り巻く思いの色なんだよ 」
しっかりとしたミツルの言葉に、良司はあの天啓は本物だったと確信を得るしかなかった。
次の日から、高齢男性の噂は広まり、その噂を聞き付けた近所の住民達が、良司の家を訪れる様になる。
勿論、その目当てはミツルの特別な力を頼っての事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます