天からの祝福

朝日が差込み、顔に当る陽の光で良司は目を覚ました。

目覚めたのは寝室のベットの上。

昨夜は確か教会に居たはずだが、どうやって帰ってきたかも覚えていない。

教会での出来事は、もしかしたら全て夢だったのかもしれない。


しかし良司の心の中には、あの天使が残した言葉が引っかかっていた。


”恐らく、神の使いは私の罪を知っている”


良司はグラグラする頭を抑えながら、部屋を出て階段を降りた。


「お父さん、おはよう。今日は遅いね? 」


良司に声をかけてきたのは、双子の弟のミハルだった。

廊下では子供達が学校へ行く準備をしている。


「ミツル!先に出てるよ! 」


「あっ、待って 」


ミハルはさっさと準備を済ませて、玄関のドアを開け外へ出る。それを見て、焦ってはいるがミツルはモタモタとまだ荷物を纏めていた。

親の目から見ても、正直ミツルは利発な方では無い。ただ、少し変わった子だと言うだけなのだ。


「ああ、そうだ。ミツル、次の礼拝に参加してみるかい? 行きたくなければ行かなくてもいいけれど 」


良司の提案に、ミツルはポカンとした顔をしたが「いいの?行ってみたい!」とすぐに返事をした。


礼拝に連れていくことで、ミツルに何らかの兆候があるかもしれない。

それは良司にとって、ちょっとした賭けだった。



次の日曜日。


教会へと続く裏庭を楽しそうに歩くミツルの様子を、良司はじっと観察する。


” この子が神の御使い…本当だろうか ”


ミツルは良司にとっては普通の子供であり、その言葉をにわかには信じがたかった。


だが、ミツルを礼拝が行われる教会に連れてきた事により、良司の疑念は覆る事になる。


「ねえおじいさん、もしかしてここ痛い?」


礼拝を終えた教会の中で、ミツルは高齢の男性に声をかけていた。

その老人は、キョトンとした表情でミツルを見ると、ぎこちなく笑った。


「ああ、ちょっと前から少し痛みがあるけど、もうこんな歳だからね。あちこちガタがくるんだよ。だから大丈夫だよ 」


ミツルは男性の言葉に首を傾げる。


「絶対に病院行った方がいいよ。これはよくないから」


ミツルは真っ直ぐに男性を見据えて、淡々とそう言い放った。

その表情は穀膳としており、慌てて近寄った良司は、それがいつもの息子ではない様な違和感を持った。


まだ弱冠8歳でしかないミツルの言動に気圧されてしまった男性は、その場で「分かったよ」と答えるしか無かった。


しかしその日の夕方、教会に来ていたあの高齢男性が良司の自宅を訪れる。


「あの…貴方のお子さんに言われた事がどうしても気になり、病院に行ったんです。そうしたら医者から、初期段階の癌の可能性があると診断されました。この通り高齢なもので、このまま進行していたら手術する体力も無かったでしょう」


「え……?」


「ありがとうございます。是非、あの子にもお礼を言いたい 」


良司は半信半疑のまま、他の兄弟と遊んでいるミツルに声をかける。

父に連れられるミツルを見て、弟と妹は不思議そうに顔を見合わせていた。


「おじさん、良かったね」


男性と対面し、良司に説明を受けたミツルは、そう言って笑顔を見せた。


「本当にありがとう。もし長期入院にでもなったら……」


「うん。おじいさんにも家族がいるもんね。ワンちゃん達も心配してるよ 」


ミツルは男性の足元を指さす。

どうやら、ミツルには足元に彼を心配する犬の姿が見えている様だ。


「えっ、確かにウチに2匹犬は居ますが 」


老人は信じられないといった様子で、二人に再度礼を述べると家に帰って行った。


「ミツル、前にも光や色がって……」


「うん。今まではぼんやりだったけど、今はよく見えるんだ。多分これは、その人から出てる生命の色と、その人を取り巻く思いの色なんだよ 」


次の日から、高齢男性の噂は広まり、その噂を聞き付けた近所の住民達が、良司の家を訪れる様になる。

勿論、その目当てはミツルの特別な力を頼っての事だった。

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