アンハッピー † デス † エンド
0gⅢ
20××年 東京都 某所 にて -Prologue-
都心より離れた、県境にも近い場所。
そこには、小さいながらも立派な造りの白亜の教会がある。
いや、今や ”あった” と云うべきか。
まさに今この瞬間、激しく燃え上がる炎にその美しく白い躯体は黒く染めあげられ、ゆっくりと崩壊への道を辿っていた。
そんな逃げ場すら無い程に激しく燃え盛る教会の中に、対峙する影が二つ。
「ひっ……!近寄るな!化け物め!!」
怯えるように後退する男。一人はこの教会の持ち主で、神父をしている人物だ。
「やれやれ、先程までは”天使様、天使様”と私の事を盲信していたのに、それが今や”化け物”とは些か失礼ではないでしょうか? 」
そしてもう一方、ゆっくりと男に近づく人影がある。
崩落した瓦礫の後ろから姿を現したその人物は、頭からつま先まで全身がほぼ白で統一され、外套から覗く純白の羽がまさに天使としか形容できない容姿をしていた。
細身ながらもしなやかな身体付きから、歳の頃は二十歳前後の青年の様に見てとれる。
その青年は目深にフードを被っており顔の全貌は分からないが、時折見える絹のような白金の髪から覗く瞳は、血のように紅く、そのアンバランスな異様さを際立たせていた。
「しかし、私からしてみれば”天使”も”化物”も同義ですので…やはり不快と言ったらありませんね 」
ぎろりと冷たい視線が射抜き、男からヒッと声が洩れる。
割れた窓から吹き込んだ風が爆風を巻き起こし、激しくはためくフードから見えたその顔は、精巧に作られた美しい人形を思わせた。思わずそれを人形と表現したのは、整ったその顔が、余りにも無機質な表情をしていたからだろうか。
「お、お前が天使様を騙るからだ!天罰が下るぞ!」
その言葉に、天使と揶揄されていた青年はフッと笑みを見せると、その場で被っていたフードをゆっくりと下ろしてみせた。
フードに隠されていた白金の髪がサラリと揺れ、その顔の全貌が顕になる。
火の粉が舞う教会の中、薄らと微笑みを湛え佇むその姿はどこか妖しく、しかし神々しくもあり、男は思わず息を飲んだ。
―だが、それも束の間。
直後に男は、彼のフードの下にあった真実に愕然とする事となる。
天使がずっと見せることが無かった顔の全貌。
その頭部には、後頭部から側頭部に沿い、象牙の骨の様な角が突出していたのだ。
「あ……ああ……ソレは、まさか 」
男は言葉が続かずに、はくはくと、餌を待つ魚の様に口を動かす。
「ええ。そのまさかです 」
自分の過ちに気づいた男は、呆然としてその場に膝を着いた。
「重い罰を受けるのは、貴方の方ですが 」
そう告げた青年の微笑みは、天使の様でもあり、悪魔の様でもあった。
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