ディルについて(第4章より)

 ディルは別に天才少年ではない。ただ、分別がつくのが平均より早く(これは個性に近い)、ついでに頭の回転が速い子、とでも言おうか……。


 また、彼は確かに「ただの王都育ちの書記見習い」なのだが、その来歴は同じ立場の子供たちのなかではいささか少数派。


 それは、途中で仕える家が変わっている、ということ。

 もちろん珍しいというほどのことではないが、基本は生涯にわたって特定の家に仕えることが多く、それだけに主家の断絶は大事なのである。

 多くの使用人は路頭に迷うことになるし、野垂れ死にも珍しくはない。一般に平民の扱いは軽いので、お気の毒さま、くらいで済まされる話でもある。


 そんななか、ディルの一家がすぐにリリー男爵という新たな主人を得られたのは、ひとえに彼の父が書記という少々特殊な層の人間だったからに他ならない(識字率が大変低い社会なので、文字の読み書きができるというのはそれだけで希少な人材)。


 というわけで、ディルの一家は閉鎖的な貴族の館に新参として加わったのである。アウェイ感半端ない環境で、どうにか適応して居場所を築いていたのだ。

 そういった経験をしているため、同じ身分の同年代の子供より、物事に対して少し引いた視点を持っている。言い換えれば多少なりとも視野が広い。


 突然主人の屋敷を追い出され、荒っぽい野盗に混じっての底辺生活を余儀なくされ、それでもどうにか真っ当な心を失わずに生き延びられたのには、そういうちょっとした経験値の違いも大きく影響している。


 ……という設定(長いな)。

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