第297話「マネージャー就任は前途多難!?」

「とにかくー、あたしは絶対認めないからね。それは他の子も同じだよ。イケメンなら兎も角。男の寮母なんてないから」



翔と笹島は、一応客として広間に通された。


ここは年季の入った革張りのソファとマホガニーの優しい色合いのテーブルが並んだ応接室になっているようだ。


そのソファに腰掛けた笹島は、隣でムスっとした顔で出されたミルクを飲む翔の様子を伺った。


細いヒールのブーツを脱いだせいで、上背は低くなってはいるが、俺様な態度は変わらない。


彼の目はやけに威圧感のある少女、司馬のえるに注がれている。


のえるは外国の血が混じっているのだろうか、ややエキゾチックな顔立ちをしており、金髪に小麦色の肌が実年齢以上に彼女を大人びさせていた。



「あの、蓮さん。寮母ってなんすか?」



「うっせ。お前はまだしゃべんな。黙ってそこで見てろ。おい、のえる。他の三人はどうした。今日は出かけるなって言ったよな?」



のえるは唇を尖らせてツンと顔を背けた。




「そんなの知んないし。カラオケでも行ったんじゃないの?」




「あのなぁ…お前ら全然やる気ねぇな」




「別にないわけじゃないよ。でもレッスンばっかでテレビの仕事もないし…」




「そんなの当たり前だろ。お前らのレベルでテレビの仕事が出来ると思ってんのか?」




「話違うし。東京来てからずっと篭ってレッスンばっかで全然遊べないし。デビュー日も決まらないし」



「なんだよその語尾の三段活用。しょうがねーだろ。お前ら歌はそこそこだけど、他が全然ダメ。そんなんでデビュー出来るワケないからな」




「あーっ、もう。うるさいなぁ。支倉センセ、アイドルの彼女出来て調子こいてんのはわかるけど、最近ちょっとウザすぎ」




「はぁっ?何だそれは。関係ねーだろが」




「ウチに言われたくなかったら、最初から付き合ってるなんて公表しなけりゃよかったじゃないんですかー?」




「あー、お前マジムカつく。あれはなぁ、あいつ庇って腹刺されたって事もデカかったけど、それより目撃者が多かったんで、もみ消す事も出来ねぇし、どうする事も出来なかったんだよ!」




翔がカップを割りそうなくらい力を込め始めたのを見た笹島は慌てて彼の手からカップを取り上げる。




「ちょい待ち!ちょっと落ち着きましょうお二人とも」




笹島はこの二人のやり取りを傍観しながら思った。

多分、のえるは翔の事を異性として意識しているのだと。

翔はそれに気づいているのだろうか。


しかし、それをこの場で言うと更に酷くなりそうなので黙って飲み込んだ。



「……うっ。まぁ、そうだな。ふぅ…あのさ。こいつと他に三人いて、そばうどんなんだよ。曲は僕が作る。で、お前は何とか四人を使えるアイドルに仕上げて欲しいんだ」



「えっ、でも…」




笹島は言葉に詰まった。

翔の言いたい事はわかったが、それにはこの少女をどうにか説得しなくてはならない。


しかしどうも彼女は笹島を気に入ってはいない。

するとのえるがまた笹島を睨んできた。



「じゃあせめてもう少し時間ちょうだい…。それまでに他の子たちと話し合うから」



「僕がこいつ連れてくって言ったの二週間前だぞ。それまでに何も話ついてねーのは何でだよ。もう待てねー。おい、ササニシキ。そんなの無視して今日からここに住め」



すると翔は更に俺様な態度で笹島の肩を叩いた。



「ええっ!?だって俺、そんな事になるなんて聞いてなかったから荷物とか、それに家族にも言ってないっすよ」



「はぁ…もうめんどクセ。じゃあ来週まで待つ。それまでにお互い準備しとけよ。もうプロジェクト動いてんだから」



「プロジェクト?」



笹島は不安げに聞き返す。



「あぁ。コイツらのお披露目は渋谷でゲリラライブ敢行だ。勿論歌う曲は全部新曲だ」



「ええーっ!?」



これは笹島とのえる、二人同時に叫んだ。

笹島は更にびっくりしてのえるの方を見たが、すぐにのえるには顔を背けられてしまう。



「なぁ、ササニシキ、ワクワクしてきたろ?やる気になったよな?」



「ふっ…不安でしかない」



転職先を間違えたかもしれない。

そんな思いで一杯な笹島は天井を仰いだ。







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