第22話 緊急ミッション開始
翌日、俺たちはギルドの前で待ち合わせてから中にはいる。中は普段と違いどこか緊迫感に満ちていた。いつもは酒を飲んでだべっている連中も、真面目な顔をして何やら話し合っている。
俺たちがクエストボードをみると一つをのぞいてクエストがはがされて、大きい紙に「緊急ミッション」と書かれている紙がある。内容はもちろん、オーク討伐だ。どうやらライムに話を聞きに行く時間はもうないらしい。俺とカサンドラはお互いうなずいてから、まっすぐに受付に行く。するとアンジェリーナさんと目があった。
「おはようございます、シオンさんにカサンドラさん……あなたたちにギルドから緊急ミッションの依頼が来ています。受けていただけますか?」
「もちろん受けます。俺にとってこの街は第二の故郷ですから」
「私も受けるわ。ギフト持ちオークを倒したら追加報酬ももらえるんでしょう?」
俺たちはあえて大きな声でアンジェリーナさんに返事をした。これで受けるか迷っているやつらも依頼を受けてくれればいいのだが……正直俺が受けても、あんまり影響はないだろうが、昨日Bランクのイアソンを倒したカサンドラも受けるのだ。多少は心強いだろう。
「もちろん俺たちも受けるぞ。昨日の借りは返すからな、シオンと赤髪の女ぁ!! 冒険者はパーティーで動いてこそ意味があるんだ。お前のように一人だけ強くてもなんの意味もないんだよ」
声のした方をみるとイアソン達がいた。後ろにはメディアと、聖騎士の青年に、狩人の少女がいる。何度かギルドで会ったことがある顔で、二人とも実力派で有名だ。今回のためにパーティーを組んだのだろう。その二人は俺と目があうとイアソンにばれないようにこっそりと頭を下げた。すっごい気まずそうな顔をされてしまったのだが、俺はもう、気にしてないんだけどなぁ。むしろライムと冒険できたり、カサンドラとパーティーも組めたし、いい経験だったと思う。
「あらあら、負け犬が何やら騒いでいるわね。ごめんなさい。私は犬の言葉はわからないの。シオン『翻訳』してくれるかしら」
「くそおんなぁぁぁぁぁぁ!! 後で吠え面かかせてやるからな!! お前ら作戦会議をするぞ!! ギフト持ちのオークは俺たちがいただく!!」
「あとね、ひとつだけ訂正させなさい。あなたは一人だけ強くたって意味がないって言ったけど、シオンだって強くなったんだから」
「あのな……あんまりイアソンを刺激するなって。一応今回は仲間なんだからな……」
「はっ、だったら、俺達より活躍してみろよ!! お前らがギフト持ちのオークを倒したら裸踊りでもやってやるよ」
そういうとイアソンは中央のテーブル席にどっかりと座った。相変わらず元気な奴だ……俺がイアソンをみていると肩をトントンとされたので振り返ると、カサンドラが唇を尖らせていた。なんか不機嫌そうなんだけど……
「あなたの相棒は私よ。いつまであいつをみてるの? あんた元カノとか引きずるタイプでしょ」
別に未練があってみていたわけじゃないんだけど……でもこれって嫉妬してるのかな? ちょっとかわいいな。てか元カノどころか彼女すらいたことないんだけど……
「心配しなくても俺の相棒はお前だけだよ。俺たちも作戦会議をするぞ」
「ええ、あの男に吠え面をかかせてやりましょう!!」
「敵はイアソンじゃなくてオークなんだけどな……」
「すいません、私達にもお話をきかせてくれませんか?」
「おい、ポルクス!! 僕はまだいいなんて言ってないぞ!! 大体こんなやつの知識なんて借りなくても僕がお前は守って……」
「兄さん黙ってください、シオンさん達に失礼です」
俺たちが作戦会議を始めようとすると見知った二人組の冒険者が声をかけてきた。Bランクの肩書のおかげか、それとも、俺たちが報告書を書いていたことが知られているのかは、わからないが頼られるのは嬉しいものである。
やってきたのは彫刻のように美しい顔をした礼儀正しそうな少女と、中世的で美しい顔を不満そうにゆがめている少年だ。二人とも金髪に、緑の目をしており、髪型が一緒だったらどちらがどちらかわからないくらいそっくりだ。『魔けん士』のギフトを持つポルクスと『守護騎士』のギフトを持つカストロの双子の冒険者パーティーだ。
「久しぶりだな、二人とも。お前らもこのミッションに選ばれるとはギルドに期待されているんだな」
「ふん、当たり前だ。僕はポルクスのために強くなるって決めたんだ。いつかお前だって……ごはぁ!!」
「愚兄が失礼しました。お久しぶりですね。シオンさん、色々あったようですが元気そうで何よりです」
「ああ、お前らもCクラスにランクアップしたって聞いてるよ、よくやったな」
「えへへ……シオンさんに色々と教わったからですよ」
そういって頬を赤らめるポルクスは可愛らしい。妹がいたらこんな感じなのだろうか?
「ちょっと待って、この少年、あなたに杖でみぞおちをたたかれて悶えているけどそのままでいいの?」
カサンドラが、ポルクスに思いっきりお腹を突かれて悶えているカストロを指さすが、俺もポルクスも気にしない。いつもの事だからだ。最初はびっくりしたが、毎回の事なので正直馴れた。なぜかカストロのやつは俺を敵視しているので突っかかってくるのだが、いつもポルクスが物理的に止めているのだ。
「それで……ギフト持ちのオークと戦ったそうですがどうでした?」
「ああ、正直俺では歯が立たないな。明らかに気配が違うからな。会ったら逃げるんだ。戦おうとしてはいけない」
「ふん、それはお前が弱いからだろ……」
「兄さん……私とシオンさんの会話の邪魔をしないでくださいね」
「ひぃっ!!」
カストロが満面の笑みを浮かべているポルクスをみて悲鳴をあげて後ずさる。はたからみたら異常だが、まあ、この二人はいつもこんな感じである。二人なりのコミュニケーションの取り方なのだろう。こんな感じでも一緒に暮らしているし、パーティーを組んでいる時の連携には目を見張るものがある。
「なんというか、不思議な関係ね……」
「まあ、双子だからな、こんなんでも以心伝心みたいだし、仲はいいんだよ」
「へぇー、私たちもこんな感じで行く? シオンちょっと変なこといってみてよ」
「いいよ、カサンドラの昨日のパンツの色は……ひぃぃぃぃ!!」
「あ?」
うおおおおおお、目線だけで殺さるかと思った。さすが元Bランクソロ!! 殺気が違うぜ。オークに殺されかけた時より怖かったんだけど……
「冗談だって。俺は何もみてなかったし、昨日の記憶はなかった。俺たちは今までみたいな感じでいいって。あとカサンドラにつっこまれたら、骨が折れそう……」
「私だって手加減くらいするわよ…たぶん。でも以心伝心ってあこがれるのよね……」
「まあ、俺たちは俺たちなりの関係を築いていこう」
カサンドラは俺の言葉に、不満そうに唇を尖らせている。今たぶんっていったよね、昨日の爆撃を思い出して俺は冷や汗を流す。彼女的にはずっとソロだったからか、こういうのにあこがれがあるみたいだ。でもさ、そういうのって時間が解決してくれると思うんだよな。
「パンツ……? え、お二人はそんな関係なんですか? でも……確認して誤解とかじゃなかったら立ち直れなそう……」
「心配するな、ポルクス。俺はそこの男と違って清廉潔白だぞ!!」
「ちょっと考え事をしているんで兄さんは黙っててください!!」
そうして、少々脱線しながらも、ダンジョンの地図をみながら俺たちは簡単な作戦を話し合うのであった。この時俺たちは初の「緊急ミッション」ということで少し油断していたのかもしれない。
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