第10話 勝利を確信したからね…フフ…・凛子視点

 間違いない。


 拓郎くんたちはゲームをしている。先輩たちと教室に向かうと、彼らは酷く怯え焦っていた。勉強をしていたのなら、邪魔が入り鬱陶しがるのはわかるけど、あれは別種の感情だった。


 あのもっこりも、今にして思えばゲーム機を隠していたのだろう。


 視界に入ってきたインパクトが強すぎて、正常な判断ができなかった。我が目を疑い目蓋をぱちくりさせ、とんでないもの見た、ありがとうございます、と思わず感謝してしまった。

 そのあといじめを受けたけど……。昔からスケベだと罵られ、変態コールまでされた。わたしのいったいどこが変態だというのか! いたって普通の女の子だというに。


 この怨み晴らさでおくべきか……。


 そう思っていたけど、あとで拓郎くんに謝られ、ココアを買ってくれたので許しちゃうことにした。わたしのために――わたしのためだけに買ってくれたのだから。記念に缶を残そうかと思ったくらいだ。


 放送で呼ばれたが、雪さんに許可をもらい突撃することにした。拓郎くんたちを出し抜き、油断しきったところで現場を押さえようとしたが失敗に終わった。

 見張りが厄介であった。現行犯逮捕が手っ取り早いのだが、敵中突破は至難の業である。断念した方がいい。


 証拠を集めるしかない。そして言い逃れできない証明を。

 二つ、証明しなければならならない。

 勉強をしていないという証明と、ゲームをしているという証明。

 どれか一つ欠けてしまえば、意味はない。この二つを眼前に突きつけ、言い逃れできなくしてやる。


 わたしはすでに、手掛かりを掴んでいた。


 放課後になり、わたしは職員室に向かった。別棟の三階の教室の鍵を借りるためだった。


 地山先生から鍵を受け取ると、

「あの教室って、拓郎くんたち以外で使ってる人っていますか?」

「ん? いないぞ」

 先生は椅子を座りなおすと、足を組んだ。

「じゃあ、最近、授業で使われたりしました?」

「使われていないな。かれこれ一月くらい使ってないんじゃないかなぁ。一応、掃除はしてるんだが綺麗なもんだ。ほぼほぼやることがなくて、生徒たちも喜んでいるがな。ハハハッ」

「そうですか」

「どうした、なにかあったのか?」

「いえ、なんでもないんです」


 わたしは愛想笑いを浮かべた。


 職員室をあとにすると、別棟の三階の教室に向かった。


 鍵を開け中に入る。

 電気がついていないため薄暗く、しんと静まり返っている。

 くっつけていた机は元の位置に戻され、黒板と向かい合っていた。嘘でも勉強をするという理由で借りたのなら、放課後もこの教室を利用したらいいのにと思う。そういった点の詰めも甘いのだ。


 明かりをつけると、しゃがみ込み床を観察した。掃除が行き届いているのか、利用者が少ないからか、床はとても綺麗だった。続いて机の上も見ていく。綺麗なものだった。


 ゴミ箱の前に立つと、蓋を開けた。七粒ほどの一口チョコのゴミが入っているだけで他にゴミはない。


 わたしは教室を出ると、後ろ手に扉を閉めた。


 しばらくじっとしたまま、ほくそ笑んだ。


 欲しい材料は、すべて揃った。

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