4章 誕生④

「立ったり座ったりで忙しくしている所を悪いんだけど、衣服を脱がしてくれるかしら」

「???」

「下着姿だと可哀想なんで、あたしのでよければ着せてあげようかと思って」

「『もの凄く派手な色合いだけどデザイン的には普通だよね、それに自分の洋服なんて着させてはもらえないだろうし』・・・お願いします」

奈津子は着たいか着たくないか分かりづらい曖昧な返答をした。

「そう、だったら早くなさい」

「は、はい」

今なら背後から襲いかかれば通り魔を取り押さえることができるかもしれない。しかし奈津子にはそんな度胸すら残っておらず、背後に回り込むと衣服を淡々と脱がせていった。コート,ワンピースの順に脱がせると下からは冠婚葬祭で着用する黒い上下の喪服(スーツ)が現れた。

「???『衣服の下になぜ別の衣服を、それも喪服なんて着ているのだろう』」

などと疑問に思っていると通り魔は手袋を裏返しにして喪服とお揃いの黒い手袋へと変えた。

「今度はあなたの番よ」

通り魔は再びベッドに腰掛ける笑みを浮かべた。

「下着たちがあなたのボディーを気に入ったように衣服たちもあなたに着てもらいたがっているわ。今のあなたなら分かるでしょう」

衣服には錆びた鉄のような匂いがこびりついて、所々に何かが飛び散った跡がシミとして残っていた。通り魔が身に着けている時には恐怖を感じる一部分でしかなかったのだが、全身を真っ赤に包まれた今では愛おしさすら感じられる代物へと変わり、心の奥底では身に着けてみたいと言う願望さえ芽生え始めていた。

「はい」

奈津子は躊躇することもなくワンピースに袖を通し,襟に頭を入れた。ワンピースにしては珍しいフードの付いたボディコンタイプ,素材はしっとりとしたソフトな肌触りのフェイクレザーでできていて、背中のファスナーを上げると身体にフィットした美しいボディラインを生み出した。袖は長く,裾は膝上までのミディアム丈,スカート部分には深いサイドスリットが入っていて奈津子の脚部を強調させる大胆なデザインとなっていた。続けてコートを手に取ると片袖に腕を通し,両肩に羽織,逆の袖に腕を通して身に着けていった。コートは柔らかくてしなやかな質感,肌触りの優れた上質なカシミア素材できていて、裾はくるぶしまでのロング丈,全身をしっかり包み込むスタイリッシュなロングトレンチコートであった。ボタンは上下に並ぶダブルの5段,ポケットは両脇に逆玉縁式と内側には大きな小物も収容可能なマガジン式,肩飾りとしてフェミニストなカジュアルテイストを演出するエポーレット,シルエットを美しく見せるためにサイドにはウエストベルト,袖口にもベルトループがあしらわれていて、大人の女性のための本格的なディテールが施されていた。ボタンを止めて最後にベルトを前側でリボン結びを行おうとした時、通り魔が話しかけてきた。

「ダメよ、それだと刃物が・・・いえ、せっかくの美脚が隠れてしまうでしょう。それとボタンは外したままがいいわ、ベルトを後ろで結んだ方が様になるはず」

「『刃物って』・・・いえ、これでいいでしょうか」

「ええっ、いいわ。その子たちって私には少々大きいんだけど、高身長な身の丈にはピッタリフィットするわね」

真っ赤な衣服たちに着られてしまった奈津子は自分の身体なのに自分ではコントロールできない、そんな不思議な感覚を思え始めていた。

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