Tokyo gamer's night(5)

「着いた~! 到着っ!」


 あやのが高らかに宣言するがそこは明らかに騎士団の地下牢であった。以前飛び降りた個所も見える――


「ここ前にqatasi突き落とされたところなんじゃないかな。。。」


「あー、御免、まるちゃん、jane_doe。地下牢に着ちゃったみたい、あはははははは……ってどうしよ?」


「いいんじゃないんですか? ぼくをここに入れる手間が省けるし」


 セシル少年は自虐的にそう言い放ったがそれはあながち偽りでもないようだ、何故なら、


「その通りだあやの一行、お前たちの献身には報いよう。彼を捕縛してきた成果として死を――」


 そこに現れたのは以前城で見た時よりは幾分簡素なドレスに身を包んだ、公女としてのジラルディンであった。左腕にはなにか業物としか思えぬ剣を携えて。


「やはりそうなると分かっていたがな、公女様」


 私は彼女の赤い眸を憎々し気に睨んだ。


「え? え、jane_doeは公女が裏切るって分かっていたの?」


「凄い系っ頚がんでう」


「彼女が約束を守るなんて一言も言ってないからな、初めからこうする積もりだったのだろう」


「ふん、jane_doeとやら、大した洞察力だ……そう私に与するならば、爵位と相応の栄誉を与えるが?」


「なっ……」


 あやのはこの申し出に一人で驚いていた。恐らくNPCとしては越権としか取れない行為を彼女はしているのに違いなかった。

 だからそれを知ってわたしはきっぱりとこう言い放ったのだ。


「断る、公女」


「ジラルディン、やはりNPCに中身が居るという噂は本当のようね! こんな一部のPCの優遇は赦されないわよ!」


「それについてはわたしから説明させて呉れないか?」


 そこに居たのは大柄な僧形の男、アーシュベック枢機卿。


「あーしゅべっぅさんでうs、おひさしぶり。。」


「久しいな、あやの一行よ。そして公女、剣を収めたまえ」


 アーシュベックの細い眼がジラルディンの小さく白い顔を睨むと彼女は赤い目を伏せ、剣を鞘へと仕舞った。


「どういうことなの? ジラルディン公女には中身がいる? そして枢機卿、貴男にも?」


「だとしたら?」


「あり得ない! wikiの作り直しだわ!」


 あやのは絶叫した。それはそうだろう今までそう信じて製作してきたものが瓦解してしまうのだから。


「中身は……NPC全員に存在するのか?」


 そう私は思わず枢機卿に尋ねていた。


「現段階では言えないこともあるが……わたしと公女、そしてシグムンド公子にはいるな」


「なんですって!?」


「あやのさんnさけmびすぎでうs」


 私の想定の範囲内であったが、改めて聞かされるとなんともやりきれない。何なのだ一体、この運営は――?


「さて真実をあなた方は聞いた」


「ゲームからキャラデりするの?」


 あやのは尤もだが、身を固くして枢機卿と公女を見た。


 暫くアーシュベックの緑色の目はあやのをじっと見つめていたが、不意に目を逸らした。


「諸君らは公女のミッションを果たした、地上へお送りしよう」


「え……」


 あやのは鯉のように口をパクパクさせているが。


「枢機卿!」


 公女は彼を止めようとしたがそれを制した。


「公女、NPCのPC殺しは規約違反だが?」


「………………」


 こうしてセシルを除く我々は枢機卿の手によって地上へと案内された。


「たすかったんですかえn」


「恐らくな」


「枢機卿、一つ確認したい事があります」


 あやのは深刻な様子でアーシュベックに質問した。


「なんなりと、あやの」


「この事実はwikiに記載しても?」


「一向に構わないさ」


「……わかりました。感謝します枢機卿」


「それともう朝だ、諸君らも解散したまえ、冬休みといえど時間は限られている」


「ええ、おやすみなさい枢機卿」


 私は彼に挨拶した。


「おやすみなさいいづ」


「おやすみなさい……」


 そしてこの地上の聖堂の隅に、あのドレス姿の公女が憤懣やるかたない様子でこちらを見ているのが、確認できた。

 やれやれ暫く彼女は敵なのか……困ったものだ。


 そうして三人はログアウトした。


 この冬は終わらない。

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