東方三博士の禮拝
24日、20時。アイカと闊歩するはずだった新宿ではなく八王子を私は独り歩いていた。京八駅からJR駅までに道すがらクリスマス用にライトアップされた商業的な店舗の数々、そんなものを尻目に私はタマキと約束したJR八王子駅へと向かう。
「こんばんは、銀鶏」
周囲には如何にもパーティーに出席しますと言った手合いの女どももいたが、それとは一線を画すファッション――ぼろぼろに加工されたセーターにインナーは白シャツ、黒のロングコートに黒いスキニーを穿いている。足元は真っ赤なヒールだ。手にはエナメルのクラッチバッグ。髪はアップスタイルにしている、これには時間と手間がかかりそうだ。
「銀鶏、少し時間が早いし、お茶でも飲もうか?」
「ああ」
私達は徒歩で少し移動して、チェーン店の (出口と会った店とは違った)喫茶店に腰を据えた。
「Tru'nembraで軽食も出ると思うけど、飽くまで軽食だから何か食べようか?」
そういえばこの店はデニッシュの上に山盛りソフトクリームを盛りつけたデザートが売りなのであった。だが甘いものの苦手な私はそれは御免被りたい。
結局タマキもそれは苦手なのか、私はサンドウィッチ彼女はトーストをコーヒーのほかに注文した。
一通り食べきると私は口を開いた。
「あんたはあの店の専属で描いているのか?」
「んー厳密には違うんだけど、ほぼ専属といったところかな」
「つまり他にもライバルは居ると?」
「そゆことかな――」
彼女は紙ナフキンで口元を拭くと、それには多少残った口紅の跡が付着した。紫がかった濃い赤だ。
「それを決めるのはあのEnergy drain?」
「そうね……Tru'nembra自体が彼が共同出資して作った店だから。半分彼のものみたいな感じよ」
「なるほど、私にもチャンスはありそうだ」
「あなたが好敵手なの? これは手ごわいな、でも――」
「でも?」
でも一体何だというのだ、タマキは口籠ったが漸く喋りだした。
「未だかつて、Energy drain本人に直にあった人がいない」
Tru'nembrに着くとあのもぎりの男が居た。ドア越しにも響く爆音。
「やあ、タマキ。こんばんは今宵は"Midnight Antichrist Party"へようこそ! そちら様は連れ?」
「ええ」
「楽しんでらっしゃい」
――なるほど、内輪のパーティか、好き勝手やっているのは判った。反キリスト。
そしてこの店に集まってくる連中の性質も――だから初めから居心地が悪くなかったわけだ、道理で。
私は店のバーカウンターから、紙コップに注がれたハイネケンに口をつけ、踊るタマキを見ていた。
預言者エノスがキリストを打ち破ると、地上と惑星は地獄に落ちて世界が浄化される。
ではその英雄たる預言者は誰で、偽りの王、世界の王であるキリストはいったい誰だというのか?
「『王』とは世俗の王侯のことではない、決して」
不意に声を掛けられた私は驚いた。
私は件の内容を口に出していたらしい、尤もこのパーティーではそこかしこで話題に上ってそうな気もしないでもない事であるが。
それに最初タマキかと思ったが、それは男とも女ともつかない声だったからだ。
振り返ると声の主は黄色いコートを着込んで――こんなパーティーだからだろう、青白い奇妙な面で顔を覆っていた。
「全くその通りだ。では貴方は何者だ、こんな晩だ東方の三博士の一人か?」
仮面の奥の血走った目が一瞬こちらを見遣った気がしたが、黄色い服の主はフラフラと消えてしまった。
――なんだ? あいつは?
「どうしたの? 銀鶏」
「あの黄色いコート、見たことあるか」
こちらへ戻ってきたタマキに私は尋ねた。
「黄色いコート? さあ……見たことないけど、ねえどうしたの」
「いや、なんでもないさ」
喧騒は一晩中続く――反キリストを謳った、馬鹿騒ぎが。
>absorption Consciousness.
>ID XiJ48BCc
>start
>
>5%
羔羊その七つの封印の一つを解き給ひし時、われ見しに、四つの活物の一つが雷霆のごとき聲して『來れ』と言ふを聞けり。
>20%
また見しに、視よ、白き馬あり、之に乘るもの弓を持ち、かつ冠冕を與へられ、勝ちて復勝たんとて出でゆけり。
>30%
第二の封印を解き給ひたれば、第二の活物の『來れ』と言ふを聞けり。
>50%
かくて赤き馬いで來り、これに乘るもの地より平和を奪ひ取ることと、人をして互に殺さしむる事とを許され、また大なる劍を與へられたり。
>Serious error!
>Can't absorb.
>Infeasible
>Suspend the process.
「停止しろ、このままではシステムに重篤な危機を齎す」
この冬は終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます