リーリウムの行方
jane_doeが待つまでも無くあやのは通常チャットで会話し始めた。
あやの:お待たせしちゃった。まるこめXを回復すればいいの?
jane_doe:そんなこと出来るのか!?
あやの:だってわたし錬金術師よ? 任せてよ。それとアイテムの鑑定もね☆
jane_doe:リーリウムはTiger chaserのスキルはロックされていると言っていた……
あやの:Tiger chaserねえ。
jane_doe:どうかしたのか?
あやの:それってハッキリ言ってレアクラスよ? それと太刀を持っているでしょう。
jane_doe:これか、これがどうかしたか。狭い所での戦闘に向かなくて困っていたんだが――
あやの:太刀は、肝心の虎を仕留めるとき以外に使っちゃ駄目。
jane_doe:そうだったのか! リーリウムめ……そんな説明は一言も無かったぞ。
あやの:そのリーリウムだけどこのゲームから完全に削除された様子よ?
jane_doe:何だって!?
あやの:この間の緊急メンテナンスで。
そう言えば、まるこめXはメンテナンス後からゲームを開始したがリーリウムを知らない様子だったが、まさか! では何故運営は彼女を削除したのだろうか? 替わりのナビゲートシステムが存在するのかそれとも――
あやの:キャラメイクだけどwiki製作班有志に拠れば、リーリウムを介さないバージョンに置き換わったようね。
jane_doe:そうか……
あやの:ではさっさとこのまるこめXを回復させましょうか。
あやのは通常チャットを切り上げると、薄汚れたjane_doeのマイハウスのベッドに横たわるまるこめXに向き直った。
そして何やら手元で合成(?)するとそれをまるこめXに飲ませた。
「これでよし」
「ありがとう、あやの何から何まで」
「も少ししたら彼女も目覚めるでしょう、その間貴女の持ってるアイテム鑑定していてあげる」
「恩に着る!」
「ねえ、jane_doe前から思ってたんだけど……」
「どうした?」
「貴女、本当は男だってことを口調で隠さないのね」
結局、地下水路で手に入れたのは些末な投げナイフや回復薬ばかりだったが、あの若頭LV10から???が奪った物は結構な値打ちである事が判った。
「ウーン、打刀LV12ね。かなり、現時点ではTiger chaserの武器としては使えるものよ。大事にしてね」
そこで、白い髪に褐色の膚の少女――まるこめXが完全眼を覚ました。
「あれここどこかな?」
「私の家だよ。忘れたか、まるこめX」
「アッー、ええとjane_doeさんn……w ってもう一方はどなた?」
「わたしは、あやの。宜しくね」
「はじめまいsて、あやのさんn」
相変わらずのミスタイプ癖は治ってないようだ。
「成程、貴方は獣使いね、じゃあ従属獣を捕まえてレベル上げないと意味ないよ」
「あああ、そんなクラスを選んだ覚えがありました」
「ちょっと待て、クラスを選んだ!? だと」
思わず私は色めきたった、何故ならリーリウムが私を強制的にTiger chaserに任命したからだ。
”それは貴女次第よ、D.D.T onlineの世界で頑張って、としかいう他にないわ。虎は貴女の
畜生! 無責任にも色々と押し付けて行きやがった、リーリウムめ!
「どうしたんですか? jane_doe?」
「あ、……そのいや私はリーリウムに勝手にクラスを決められてしまったんだ」
まるこめXの問いかけにようやく返答したが、私はまだ混乱が収まらないままだ。
「レアクラスの人って運営に決められたってケースが殆どって聞いてるんだけど、jane_doeさんもそうなのかな」
「ということはあのTiger chaserも……?」
「恐らくはそうで間違いないですね。で、これからどうします?」
「これからというと?」
「このハクスラフリーシナリオMMOは何でもアリなので、先ずはまるこめXさんの従属獣でも捕まえに行きますか?」
「え、いいんでうsか!」
「あーでも……やってると朝どころか昼になってしまいそう?」
jane_doeはそうやんわりと言った。嘘だ、このままゲームに耽溺してゆくのが怖かったのだから。
「そうですね、取りあえず連絡先を教え合ってまた落ち合うことにしますか」
あやのはにっこりと笑い三人はメアドを交換して、その晩遅くに銀鶏はPCの電源を落とした。
真っ暗な部屋、デスクの前で銀鶏は思い切り脱力していた。
駄目だ、こんなんじゃ駄目だ。乾燥した室内を空調だけがカラカラと周っていた。
なにをやっているんだ私は、仕事も、アイカとの交際も全て忘れてD.D.T onlineにのめり込んでるじゃないか! このまま、あやのと、まるこめXのメールアドレスも消去しようかと思ったが、私は思いとどまった。そんなことをして何になる? また新たな仲間がこのゲームをアンインストールしない限り出来るだけだ、しかし私にはその勇気もないのだ。
これは銀鶏としてではなく
出てくるな! 百頭女は出てくるな!
デッサン用のレプリカの頭蓋骨はまるでKの亡骸のようで――
またもや百頭女の哄笑は部屋いっぱいに響きはじめていた。
そして、まんじりともせぬまま夜は開けて、朝――
不意に母から電話が掛かってくる。この世の外から。
「
「別に好きに使う気はないが――いったい突然どこへ?」
「有馬温泉、ゆっくり過ごします」
この冬は終わらない。
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