第8話 侮辱と決闘


 頭に二本の角を生やし、身長は2mを優に超え、肌は褐色、手には金属の金棒を持ち、その顔をまるで鬼のようなだ。

 その鬼は近くにいる、槍を持った男に襲い掛かる。

 キン、キン……と、金棒と槍がぶつかり合い、火花を散らす。

 男は金棒を受け流したり、避けたりしながら、確実に槍で鬼の体を刺していく。

 しかし、その身に纏う筋肉と魔力のせいでなかなか致命傷が与えられないようだった。


 

 ズドンと鬼が倒れる。

 永遠に続くかと思われたその戦いは、男の勝ちで終わった。


「はぁ~」

 

 三番目の通路の中ボスであり、B級モンスターのハイオーガを倒した俺は地面に腰を下ろし、ため息を吐いた。


「……ここが今の限界だよな」

 

 

 灰色の天使との戦いから2年が経った。


 その間に二番目の通路(オークが出てくるので、オークの間と呼んでいる)をクリアした。もちろん前のようなイレギュラーはない。三番目の通路の中ボスであるハイオーガを倒したところで、俺は伸び悩んでいた。


 あの戦いが終わってから、神の加護なのか知らんが、確実に魔力の質が上がった。他にも二年間魔力操作の練習をしていたため、その二つのおかげで身体強化の倍率なども上がったといえるだろう。


 他にはあの天使戦で手に入れた純白の槍だ。どうやらこの槍は魔法の武器らしくて、まずその魔力の許容量がとんでもなく多い。しかも元の耐久性や鋭さもミスリル以上だろう。

 魔力許容量とはその名の通り物質の持つ魔力を込められる限界値のことをいう。

 ちなみにミスリルはこの世界の鉱石で他にもオリハルコンやアダマンタイト、ヒヒイロカネなどの鉱石も存在している。


 そして俺がダンジョンで死にかけてから、この二年間リク教官に模擬戦形式で鍛錬を頼んでしてもらっていたので、槍術は明らかに上達しているだろう。教官にも槍術は超越級一歩手前だなと言われたほどだ。


 しかし、俺は加護?を手にしたはずだが、結局魔法を使えていない。だから魔力を有効活用できていない。身体強化や魔力浸透、魔力探知などといった魔術だけでは膨大な魔力を持て余しているのだ。全くもって贅沢な悩みだ。

 上位難易度のロストダンジョンのモンスターたちは固すぎるのだ、物理攻撃の限界だろう。

 

 そんなこんなで、俺は強くなるための案を考えながら、訓練所に帰った。



 ダンジョンから出ると、入り口の衛兵に声をかけられた。


「そういえば、リク教官がお前のこと呼んでたぞ」

「え?あのゴリラがですか?」

「多分、あの話だろうが、取りあえず行ってみろ」

「わかりました。ありがとうございます」


 この二年でここの衛兵、教官、一部の奴隷たちなどとは冗談がふざけたことを言えるくらいまでは仲良くなったもんだ。

 鉱山にいたときはこちらが仲良くなろうという努力を見せても無駄だったが、ここでは強さ至上主義なところもあり強くなった俺は人種とかは関係なしに、ある程度は認められているらしい。


 しかし、教官が呼んでいるらしい。俺がダンジョンで死にかけてから、この二年間リク教官に鍛錬を頼んでしてもらっていたので、あの話とはいつも通りの鍛錬の話だろうか? 俺はとりあえず行ってみることにすることにした。


ーーーー


 教官のところに行くと、新しく入ってきた奴隷たちを訓練しているところだった。

 訓練中に話しかけるのもあれだしと、休憩の時間までここで待つことにした。


 その間、奴隷たちの様子を見る。午後の時間なので、戦闘技能の訓練をしているところだった。

 リク教官はその大剣でも使ってそうな巨体に似合わず槍の教官である。しかも実は、力押しではなく、技巧派である。人は見た目じゃないんだな……と考えていると、教官が話しかけてきた。


「おう!もやし来たか……ずいぶん遅かったじゃないか」


 教官は俺の肩を叩いて言った。未だにもやし呼びだ、まあ他の奴隷は番号で呼ばれているので、それと比べたらまだましだろう。


「ダンジョンに行ってたので仕方ないじゃないですか……話とは何でしょうか?」


 教官は珍しく真剣な表情で言った。


「……うちの国と帝国が戦争するかもしれないらしい」


 帝国というのはヘイトス帝国といい、セイドリーテ王国の東に位置する国の名前だ。面積、人口ともに王国よりも多く強大だ。


 しかし帝国のさらに東に位置するアネロイ連邦国とも現在戦争しており、南に位置するゲーア共和国ともが仲が良くないはずだ。ここで王国に戦争を仕掛けてくるのは流石に強大とはいえ、厳しいはずだが……

 

「なるほど、それで俺が戦争に徴兵されるというところでしょうか?」

「そういうことだ、ここの奴隷たちも半分ほどは戦争に徴兵される。そいつらと一緒に戦争に行ってもらう、王国側が用意した指揮官がいるとは思うが、お前には奴隷たちの部隊のリーダーとなり、ある程度の指示を出しながら戦ってほしい」

「……俺はリーダーなんて柄じゃないですよ?」

「知っているよ、しかしお前にしか頼めないと俺は思っている。頭がいいし、見る限りだいぶ腕も上げたようだしな」


 ここの半分の奴隷だと200人ほどだろう、奴隷たちの中では腕もよく、座学の成績もよかった俺が奴隷たちを仕切れということか。柄ではないが俺の師匠ともいえる、リク教官に頼まれたら断りずらいしな……


「わかりました。やってみます」

「ありがとう!この戦争で活躍すれば奴隷から解放されて、市民権を受け取ることが出来ることもある、だから頑張れよ!」


 そういって肩を叩かれ激励された。

 でもやはり、奴隷から解放されると聞くとやはりやる気が出るものだ、


「あ、そういえば言うの忘れていたが、リーダーとして候補に上がった奴はお前を含めて二人いるから、そいつとどちらが部隊のリーダーに相応しいか戦ってもらうからな。俺はお前こそリーダーに相応しいと思うのだがな」

「え? じゃあ俺はリーダーじゃなくていいですよ」

「リーダー戦は明日に訓練所でだから、準備しておけよ。じゃあな」


 俺は候補がいるならリーダーじゃなくてもいいと言ったが、教官は俺の話を聞かずにそのままどこかに行ってしまった。


「まじかよ……急すぎだろ」


 

ーーーーー



 次の日になり、俺は訓練所に行くとそこには教官たちと、1人の女か男かわからない10代半ばほどで160㎝ほどの薄い青色の髪のやつがいた。


「おう、もやし来たか! 候補の奴らが揃ったことだしお互いにまずは自己紹介をしてくれ」


 リク教官が俺ともう一人のやつにそう言った。


「俺はクオンです。なんか戦うことになってしまったけど、よろしくお願いいたします」

「僕はルーイです。よろしくお願いいたします。僕はリーダーになりたいわけではないです。ただあなたのような無能には負けるのは嫌なので本気で行かせてもらいます」

「……はは、まあお手柔らかにお願いするよ」


 俺が無難に挨拶をすると、そいつは煽ってきた。少しムカッとしたので本気で行こうと思う。


「じゃあお互い自己紹介は終わったことだし、ちなみにルーイは第二段階目の加護持ちの希少級魔法師でもあるから、この戦いは魔法ありの戦いでやってもらうがいいな?」


 どうやらこいつは希少級魔法師らしい。自信はそこから来ているのだろう、魔法の使えない俺に負けるはずがないと。しかしなぜ奴隷に落ちたのだろうか?


「あなたの噂は少しは聞いています。魔法の使えない無能にしてはやる方だと。ですが、僕は別に魔法なしでもいいですよ。無能は魔法を使えないんだしそっちの方がフェアでしょう?」

「いや、それで負けて言い訳されても嫌だし、魔法ありで俺は全然大丈夫だけどな」

「僕があなたのような底辺の人間に負けるわけがありません」

「それはどうだろうな? 俺もお前みたいなチビのクソガキに負ける気はしないけどな」


 俺とルーイが言い合っていると、教官が咳払いをした。


「魔法ありで行くぞ! お互い全力でやらないと意味がないだろう! ほらとっとと戦う準備をしろ」


 教官にそう言われて、俺たちは対峙する。

 俺は初めは負けてもいいと思っていたが、さんざん煽られたので本気で勝ちに行こうと思う。


 この世界に来て初めての魔法師との戦いに俺は不安よりも怒りがあった。


★★

主人公の基礎能力


魔力量:S+

身体能力:C

魔力操作:B+

精神力:D

魔法:?の普通級加護

槍術:B

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