16話 オリバーの罰


 ここはどこだ? 目を覚ましているのにあたり一面真っ暗だ。それにしても何をやっているんだろうな。オリバーに追放されて憎んでいたのに、結局命をかけて助けるなんて...。でも思っていたほど後悔は無い。


(は~。もっと生きたかった)


 もっとルビアと一緒に居たかった。リックさんやエリンさんとももっと話したかったし、ミア様の祖国にも行ってみたかった。


(やりたいことはたくさんあるのに...)


 でも俺が生きるよりオリバーが生きる方が世界に得があるに決まっている。あいつが死んでしまったら種族間でのバランスが崩れてしまう。だからなのかな。後悔がないのは...。その時どこからか声が聞こえた。


「...ア!」


 ??。誰だ? あたりを見渡すが誰もいない。


「ノ...ア!」


 誰かが呼んでいる。誰なんだ?


「起きてよ...。お願い...」


 俺だって起きたい。でもここから出る方法が分からないんだよ! そう思っているとなぜかあたり一面が明るくなっていくのがわかる。


(眩しい! どうなっているんだ?)


 するとあたり一面が変わるのが分かった。


(は?)


 ここは...。見覚えのないところで寝ていた。なんでベッドで寝ているんだ? 辺りを見渡すと隣には驚いている顔でこちらを見ているルビアがいた。


「ルビア?」


「ノア!」


 ルビアの名前を呼ぶと俺の腹部に顔を押し付けて泣き始めた。


「痛い! 痛いって」


 腹が痛い。多分あの時刺された場所に当たっているからだろう。それにしてもなんで俺は生きている? あの時確実に死んだと思ったのに...。


「生きてて良かった。本当によかった」


「あぁ。それよりもなんで生きているんだ?」


 生きていられたことへの喜びよりも、なぜ生きていられているのかが気になって仕方なかった。するとルビアが説明し始めてくれる。


 戦闘が終わってすぐマリアが俺に応急処置をしてくれたこと。その後ローリライ王国で宮廷魔導士たちが手術してくれたこと。それでも生きていられるかわからない状況だったらしい。そして一番驚いたことは俺が1ヶ月間も気を失っていたこと。


「オリバーはどうなった?」


「勇者様は今独房にいるわ」


「...」


 ここまで大事にしたんだ。オリバーがルビアを攫ったのですらやばいのに、それ以上に魔族に操られていることに気付かず国滅亡の危機までさらした。それだけの罰を受けるとは思っていた。


「他の二人は?」


「特に二人には何もなかったけど、勇者パーティは解散するそうよ」


「...。そうか」


「うん。じゃあ毎日お見舞いに来るからね」


「ありがとう」


 ルビアが部屋から出て行くのを見守ってボーっとする。


(それにしても生きて居られてよかった)


 今回助けに行った仲間は誰も死んでいない。それだけでいい結果だったんじゃないかな? そう思いながらいろいろと考えていたら就寝していた。


 そこから数日が経って国王に呼ばれて王室に入ると国王が座りながら頭を下げる。この行為に王室にいる全員が驚く。


「まずは疑ってしまい悪かった。それと本当に助かった。ノアが居なかったらルビアは...。国はどうなっていたかわからなかった」


「頭を上げてください。ルビアを助けたのは俺の仕事なので当然のことをしたまでです。それに疑うのだって国王の仕事だと思います。何一つ間違っていません」


「そう言ってくれると助かる。ドーイを殺してくれたことは本当に感謝しかない。あいつが居たらいずれこの国が危なくなっていた」


「...」


 人を殺してお礼を言われるなんて初めてだったため驚きを隠せなかった。それも言われた人が国王なのだからなおさらだ。国王に言われて人を殺すのがすべて悪だとは限らないってことが分かった。


「それでだが、勇者オリバーに会いたいなら会わせるがどうする?」


「会います」


 迷わずに即答する。こいつには話したいことがたくさんある。


「では今後のことは後にして、まずは会ってくるといい」


「はい。ありがとうございます」


 トニーさんに連れられて独房に案内される。


「生きていてよかったよ」


「はい。心配かけてすみません」


 少し会話をして、トニーさんはその場を後にしてオリバーのいる独房中に入る。


「オリバー...」


「ノアか...」


 痩せこけた顔。疲れ切った体。昔だと考えられない光景だった。


「なんで俺を助けた?」


「正直お前を殺した方が安全だったと思う。国が亡ぶ可能性も、ルビアを生きて返せる可能性も」


「だったらなぜ」


「理由は複数あるが一つ目は当然俺のために決まってる。お前のせいで俺は魔族に顔を覚えられてしまった。それも魔人七人将だぞ?」


 そう。魔人七人将に覚えられてしまった時点で今後命の危機が訪れるのは間違いない。


「悪い...」


「だったらちゃんと罪を償ってから魔王、魔人七人将をすべて殺してくれればいい」


「...」


「2つ目に俺が暗殺者だから。前までは誰でも殺してはいけないと思っていた。でもここ最近わかったんだよ。殺していい奴、殺してはいけない奴。お前は殺してはいけない奴だと思ったからだ」


「...」


「それにお前が俺に教えてくれたんだろ? 人を殺してはいけない。人は助けるためにあるって」


 そう。少なからずこいつからも学ぶことはあった。


「それなのに俺は...。本当に悪かった」


「口だけか?」


 するとオリバーは土下座をし始める。


「そんなので怒りが収まるわけねーだろ!」


 オリバーの顔を本気で殴った。


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


(あ、俺も腹が痛ぇ)

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