『は?』


「ようこそ、愛川幸来あいかわゆきなさん」


 ミサキに案内された幸来を、予想に反する歓迎の言葉が出迎える。

 出迎えた人物は、スーツに身を包んだ女性、風見主任だった。


 そしてその部屋は、いつかノゾミが通された応接室でもある。




 今すぐにでも死刑宣告が来る。

 そんな戦々恐々とした心が半分。

 それに反する、冷静さを有する心が半分。


 熱さと冷たさで中和された無の心で、幸来は挨拶を交わす。 


「……こんばんは」


「では。まず、ノゾミちゃんの件ですが。彼女は、『ゲスト』の血を浴びたことによる、地球外性感染症でした。今は、特殊な抗生物質によって、治療が終わっています。二、三日中には、また復帰できると思います」



「つまり妹は無事なんですね?」


「ええ、間違いなく。彼女は無事です」


よかった。

姉は胸をなでおろす。


しかしそうすると、色々な疑問がわく。

が、それを訪ねることは憚られた。

聞いてはいけないことのように感じるからだ。


そこに、ミサキ班長が口を挟む。


「二次感染は心配しなくていいんだな?」

「ええ、他の者に感染すうつる心配はありません」

「そうか」


となると、あとは幸来の処遇の件だ。

一般人が『イシイ製薬』の秘密を知ってしまった以上、通常ならば消さねばならない。

 

 固唾をのむ幸来に変わり、ミサキが聞く。

 

「……こいつはどうするんだ?」


「そのことですが……」


 風見の視線が、幸来に向かう。

 やはり死刑宣告か?


 今にも殺せと命じられそうなミサキと幸来は、互いに覚悟を決めて、横目で見つめあう。


「ミサキ戦闘官」


突然の形式ばった呼称。


「……」


るのか?

猛虎のような、鋭く真剣な表情で身構えるミサキ班長。




「……幸来さんに、VITの施設を案内してあげてくれる?」




「は?」


思わず、ミサキは生返事で返した。


「案内だって?」


「ええ、彼女には、私の元で働いてもらいます。もちろん、大学にも行くでしょうから、アルバイト、という形になりますが」


「それは……?」

幸来も驚く。


「つまり、このVIT開発室のスタッフとして迎えるという事です。あなたが我々の秘密を知りつつも、生きていくためには、これ以外の選択はありません」


 それは、幸来の処遇は、半ば反故になったという意味だった。



「それは、風見主任の提案か?」


「いいえ。カナデ戦闘官です」


「あのお姫様が?」


「カナデ戦闘官は、幸来かのじょの存在が、ノゾミ戦闘官のさらなる能力ちからを引き出すのに利用できるという点、VITに抱え込むことで、ノゾミ戦闘官が暴走した際に、人質とできる点をあげて、恭司室長を説得したんです」


 

「はん、それであのセンコーは首を縦に振ったってのか」


無言の風見がなにより『イエス』と答えていた。


「ったく、アタイ達の言葉はきかねえくせに、あの野郎……」

ミサキはカナデを特別扱いすることに納得できない様子だが、すぐに気持ちを切り替え。

「……ま、それとこれとは話が別だな。で、案内するってのは、どのレベルまでのことを言ってるんだ?」



「C区画以外の全てです。被験体達の調整室、処置室、当然、強化素体リインフォースの部品保管室も含みます」


「了解、『アソコ以外』、全部だな」


そうして、幸来は、ミサキと社内見学に乗り出した。

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