『見えた!』


雷が放出され。


暗雲が晴れ。


その中に隠れていた『ゲスト』が姿を現す。


友軍が、時空干渉域に捉えたことで、カナデやミユにも補足が可能になる。


「見えた!」


カナデの叫びが、左手の重機関銃のトリガーを引く。


けれど、情報の通り、その標的は小さく。

子猫ほどの大きさでしかない。


そしてその姿は、イカに似た形状をしていた。



それが、空を、超高速で移動する。



予想を超える高機動に。


重機関銃からの弾幕など当たるはずも無く。


マッハ2キロメートル近い速度で飛ぶ、ミサイルですら、『ゲスト』の縦横無尽の機動力に翻弄され……。


放たれた軽い雷撃で迎撃されてしまう。


もちろん、戦車砲弾を撃つなどは、愚の骨頂。



もはや、カナデの一挙手一投足が、隙となり。



時速350キロメートルの飛翔など、問題にならない程の速さで、『ゲスト』はどんどん、カナデとの距離を広げて遠ざかる。


『ゲスト』は、明らかに逃走している――。次の大落雷の機会を得るために。


それにカナデはまるで追いつけず、どのような手を尽くしても、命中弾は皆無だった。


「っく! 相性が悪すぎるわ」



さらに、4万フィートからの、超低圧縮広域モードで発射される、極太の太陽光レーザーが薙ぎ払うが。


それも軽くかわされ。


蝶型のレーザー攻撃用ドローンが、いくつも『ゲスト』を追いかけ、次々に小口径レーザーを射出するが。



それもビル群を縫うように飛び、盾にすることで。


上空から、地上に向けて、降り注ぐレーザーの雨すらも――。


巧みに躱される。



ドローンから発射されたレーザーを、ミラードローンで反射させ、誘導を試みても。


全てのレーザーを低圧縮モードにして、広域化しても。


結果は、全く変わらない。


手詰まりだった。


「予想以上に速くて小さい……!」


しかも、触手から放つ雷撃が、ドローンを的確に撃墜する。

このまま攻撃を継続しても、ミユはドローンを失っていくだけに見えた。

勝てる未来が見いだせない。



トンボのように、機敏に飛ぶイカに、カナデもミユも翻弄され、希望を奪われる。



「……このままじゃ――」


逃げられてしまう、せっかく補足できたのに。


そして。


もはや『ゲスト』は、繁華街上空をとっくに抜け、海の方へ抜けようとしている。


そのまま時空干渉域から脱出されてしまえば、ゲームオーバーだ。

現状で、カナデの領域はとうに抜けられ、ミユの領域もあと少しで抜けられてしまう。



もう、無理だ。



カナデとミユがそう思った時。







一直線に、ソレはやってきた。







漆黒の猛禽類、あるいは、闇色の戦闘機を模る、巡航形態。



それが、『マッハ3,7』で飛来し、瞬く間に通り過ぎていく。


遅れてやってくるジェットエンジンの騒音。


その音響の中。


通信用のドローンを介し。


高度1200メートルと、高度10000メートルでの、回線が開かれる。


 

「あれは……まさか、ノゾミ!?」


「ノゾミ? それって、カナが言ってた新しい娘?」


「ええ……ってことは、この、バカ広い時空干渉域は――」


 その影は――既にはるか遠く。


『ゲスト』を追って夜空を奔るF14に似た、黒い鳥を目で追いながら。


「へえ。さすがは、レベル・セブン」


「……普段はそうは思えないんだけどね……、やっと本気になったかしら?」







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