102;七月七日.25(姫七夕)
21歳に、なりました。
終了予定時間を少しオーバーしたメンテナンス明けはこれまでに類を見ないほどに繋がりが悪く、十数年振り、と言うほどのサーバーパンク状態が発生したみたいです。
それはもう、運営があんなアナウンスを報じるから……新規参入者がこぞってキャラクターメイキングを行い、総プレイヤー数は何と倍どころか三倍にまで膨れ上がったそうです。
そのため、ぼくとシーンさんがログイン出来たのは結局午前零時を過ぎてからでした。
通常、ログアウトを自室以外で行った場合、ぼくの行動様式を模倣したAIがその場でぼくがするような動きを取るのですが――クエスト中の
部屋から出ると、すぐにシーンさん――アリデッドさんからメッセージが飛んで来ました。
アリデッドさんもギルドの自室で目が覚め、ぼくたちは示し合わせて直ぐに【ウルバンス】へと向かいます。
ぼくたちがシステムによって強制ログアウトされた場所――いるわけも無いでしょうが、ナツキ君を探すためです。
「よっ」
「スーマン……」
「スーマンさん……」
でもそこにいたのは、ジュライでは無くてスーマンさんでした。ぼくたちならきっとこの場所を訪れるだろうと、レイドクエストの報酬で温泉に浸かりながらゆったりまったり待っていてくれたのだそうです。
と、そこに、アイナリィちゃんからのメッセージが飛んで来ました。彼女はこのタイミングでどうにかログイン出来たようで、ぼくたちが居場所を伝えると直ぐに向かうと言ってくれました。
「じゃあ、役者が揃うまで待ちますか」
「その様子じゃ、あの後何かあったみたいだな」
「っていうかスーマンさんは……その、強制ログアウトは?」
「いや? オレはログアウトしなかった。オレだけじゃない、ジュライも、それから――ロアもだ」
「ロアも!?」
ぼくは顔から熱が引いていく、嫌な感触に囚われました。
このゲームのトップレベルプレイヤーもまた、ジュライやスーマンさんと同じ――現実ではすでに死んでいる方、だと言うことです……
「システムのエラー、ってわけじゃ無いんだろうな……」
「寧ろオレの方が“死んでる勢”かって訊かれたよ。ジュライはロアに着いて行った、その辺りはアイナリィが到着してから詳しく話すよ」
「助かるよ」
「なぁに――アリデッド、あんたには借りっぱなしだからな。これくらいで埋まるとは思っちゃいないけど……それに、」
スーマンさんが、ぼくを見ました。
「……セヴンの元に、ジュライを返してやりてぇって思うよ」
「スーマンさん……」
「そうだな。それは、俺もそう思う」
アリデッドさんもそれに続きます。
本当に成り行き任せの出逢いですが、ヴァスリを始めてからと言うもの、本当に素敵な出逢いばかりで多謝です。
「で、だ。スーマン、お前に話しておかなければならないことがある」
「ん? 改まって何だよ」
恐らくそのお話は、ぼくたちが今朝からともに動いてきた――スーマンさんのプレイヤーであった須磨さんの家族を訪ねたものです。
その口火を切ると途端にスーマンさんの表情が凍り付いたようになり、とても険しく、でも何処か哀願するような視線をぼくたちに投げかけます。
「結論から言うと――やっぱりお前は死んでたよ。葬儀も家族だけで済ませたそうだ」
「……そうか」
◆
東京都板橋区小豆沢。都営三田線の志村坂上駅から歩いてすぐのところに、その病院――黄道院大学附属板橋病院はありました。
ぼくとシーンさんの住まう神田須田町の最寄駅は岩本町駅。同じ東京都内、しかも23区だからすぐに行けるだろうと思っていましたが――よくよく思い返してみれば、ぼくは住まいから近い秋葉原くらいにしか足を運んだことはありませんでした。
シーンさんに至っては東京は
「岩本町駅からですと……あ、神保町って駅で乗り換えられるみたいです」
「ああ、悪いが案内は頼む」
危うく東京メトロ半蔵門線に乗り間違えそうになりましたが、何とか無事に志村坂上駅に着きました。
スマートフォンの地図アプリを駆使して病院へと到着したぼくたちですが、しかし院内の入院・面会手続きカウンターであっけなく撃沈したのです。
「須磨静山さんに関しては、お教えすることは出来ません」
いいお時間でしたから、駅前まで戻ってそのままハンバーガー屋さんでお昼ご飯を食べました。
「やっぱり、亡くなられているんでしょうか?」
「十中八九そうだろう。俺が漁った電子カルテには脳死としか書いてなかったが……生命維持装置を着けて延命するにしろ金がかかるし未来も不確実だ。諦められるんならそれに越したことは無い気がするな」
何処となく、含みのある物言いでした。きっと、お兄さんのことと重ねているのかもしれません。
行方不明になり、シーンさんはその姿をヴァスリの中に求め、探し続けています。きっとシーンさんは、何度も諦めようとしたんだと思います。でも結局はそれでは納得できなかった。
須磨さんのご家族は、もう諦めきれたのでしょうか。
ぼくは――――いえ。諦められるとしたら、ずっとずっと、それこそ何年も先のことなんだと思います。もしかしたら十年以上、何十年もかかってしまうのかも知れません。
「須磨さんのお家は何処なんですか?」
「ああ――」
シーンさんが恐らく違法に入手した須磨さんの住所を地図アプリに打ち込み
そして昼下がり、太陽が漸く高度を落とし始めた頃に、ぼくたちは須磨家へと到着しました。
閑静な住宅街にある一軒家。その呼び鈴を鳴らし、インターフォン越しに須磨静山さんの友人であることを伝えます。
「……静山のご友人、ですか?」
出迎えてくれた、少しやつれた表情の女の人。きっとお母さんでしょう。ですがあからさまに疑いの目を向けています。
それはそうです。ぼくはまだしも、シーンさんは見た目からバリバリの欧米人。身体だって大きいですし、ガタイもかなりいい感じです。ちょっと強面なところもありますし。
「はい。静山さんとは
シーンさんが丁寧にそれを告げると、お母さんの顔が変わりました。
「ゲームの中でひょんなことから意気投合して、パーティも一緒に組んだんです」
「そう、ですか……ご迷惑をおかけはしませんでしたでしょうか?」
「それがもう……手を焼きました。静山君とは最初対立する間柄だったんですが、意表を突いて来るわ裏を掻いて来るわで……ですが仲間になってからの彼はとても頼もしく、出来ることなら、これからもずっと、仲間としてやって行きたいと思っていました。いや、今もそうですね」
通された居間でテーブルを挟んで座るぼくたちは短い中での共に過ごした冒険を語って聞かせました。主に語るシーンさんの色に着色された話ではありますが、それは勿論そのまま語って聞かせるわけにはいかないからです。
「ぼ……わたしは、その……好きな人と、ゲームの中で喧嘩をして、ですね……」
お母さんの目がぼくに向きます。
「その……静山さんに、その人の所まで連れて行ってもらったことがありました。動けなかったぼくの手を引いて、このままじゃダメだ、って」
「そうですか……その人とは? 今は、どうなんですか?」
「いえ……まだ完全には……でも、ちゃんと、もう一度繋がりたいって思っています」
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