第5章 夏の終わりと秋の到来! 不思議な依頼と龍への備え

第41話 マイホーム!

 8月の終わりから9月の頭に掛けて雷雨を含む小さな嵐が2度程起きたが、その全ては絶対防御アブソリュート・シールドによって防がれ、拠点の建築は無事に進み……いよいよ本日、俺たちは完成した家に移り住むことになった。


「まさか本当にこの短期間で仕上げて下さるなんて、バンズさんには感謝してもしきれません」


「バカを言うな。お前さんのわけのわからん魔法がなけりゃここまで早く完成はしなかったさ。雨だろうが嵐だろうが何の影響もなく作業ができちまうせいで休みが無ぇと部下共が嘆いてたよ」


「よかれと思ってしてたんですが……それは確かに、彼らには無理をさせましたね……あはは」


 拠点の門の前、作業を終えて撤収するバンズさんたちを見送る為に挨拶に来たところ、想定外の返事に苦笑する。

 確かに、雨が降ろうが雷が落ちようが俺の居る場所は何の影響も出ないのだから仕事は休みにならない。

 職人さんたちには悪いことをした。


「これはほんの気持ちです。バンズさんたちにはこれからもお世話になると思いますので、皆さんでお酒でも飲んで休みを満喫して頂ければ」


 胸のポケットから取り出した小さな皮袋をバンズさんに放る。

 中身は数枚の金貨と銀貨。


「悪いな。そういうつもりじゃなかったんだが」


「いえ、俺の故郷では家を建てたら周囲の人に感謝の気持ちを込めてお祝いをする習慣があるんですよ。俺には新大陸に親しい知り合いは少ないですから、俺の思い出のために楽しんで貰えれば嬉しいです」


 ばつの悪そうなバンズさんにそう答える。

 これは思いつきや嘘ではなく、本当にゼノファリアではそういう文化があるのだ。


「そういうことなら有難くいただいとくぜ。家は頑丈に作ってあるし、お前さんの魔法があれば問題ないとは思うが、何か困ったことがあればギルドに連絡を入れろ。メンテナンスしてやるよ。金は貰うがな」


「バンズさんに見てもらえるなら心強いですね。その時はぜひお願いします」


「けっ。お前さんはどこまでも出来た野郎だな。それじゃあまたな」


 そうしてバンズさんは部下たちと引き上げていった。


 門扉を閉じて振り返る。

 石の土台に木造の2階建て。

 一般的な市民の家を2つくっつけた程度の大きさの家だが、建材には新大陸産の丈夫な材料を使用して貰っている。


 実家の侯爵家の邸宅程とはとても呼べないが、十分に立派な家だ。

 内装や家具などもバンズさんに紹介してもらった職人に依頼して既に揃えて貰ってある。


 旅立ちから半年近く、こうして俺はようやく自分の家を手に入れた。



 ◇



「アイシャさん。キッチンの使い方はどうです?」


「魔道具を使用したコンロを使うのははじめてですが……とても便利ですね。でもどうして私でも使えるのでしょう?」


「俺の魔力を予め保存しておける魔石を取り付けて貰っています。家の照明やお風呂にも魔石を取り付けて貰っているので、よほど長期の不在にならない限りは俺がいなくても扱えますよ。ただ、ルビィには内緒ですよ。うっかり火傷されても困りますから」


 新居のキッチンでエプロン姿のアイシャさんにキッチンの使い方を説明しながら一緒に夕食の準備をする。


 今日は新居に引っ越しするお祝いの日なのでちょっと豪華な食事にしようと思って頑張っているところだ。


「ルビィのことよんだー?」


「こら、ルビィ! キッチンには入っちゃダメだって言われたろ! すみませんセレストさん! ほら、ルビィあっちを探検しよう」


「うん! ルビィがいちばんにこのおうちを冒険するんだぁ! おにいちゃん、アイシャ、ばいばい!」


 ひょこっと顔を出したルビィが慌てて追いかけてきたノルに抱きかかえられて姿を消す。

 ノルは冷や汗をかいていたが、ルビィはとても楽しそうで何よりだ。


「これはルビィは疲れてすぐに寝ちゃいそうだね。早めに仕上げてご飯にしないとね」


 せっかく家が建って、お風呂まで作ったのだから寝る前には温かいお湯でさっぱりさせてあげたい。

 料理の手を早める。


「あの……ご主人様」


 並んで料理をしていたアイシャさんが手を止めて、意を決したような顔でこちらを見ているのに気づく。


「あの……えっと……あの、も、もしよろしければ今夜、こどもたちが眠ったあとに少しだけお部屋に伺ってもよろしいですか?」


「……? 構わないよ。俺もちょうどアイシャさんに渡したいものもあったしね」


「……!! ありがとうございます! ご主人様!」


 顔を赤くして嬉しそうにするアイシャさんの姿がどこかいつもと違って見えたけれど、何か重要な話かな?

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