第16話 拠点づくり開始!

 薬草や料理に使う香草の採取を三人に任せ、いつも通り絶対防御アブソリュート・シールドを展開する。


 さて、俺も自分の仕事に取り掛かることにしよう。

 最初にやらなければいけないことは、開拓範囲を決めることと看板の設置、そして可能なら運んできた道具を雨風から凌げるように屋根付きの簡単な荷物置き場を作りたい。


 支部長からは開拓地の位置と範囲をギルドに報告するように言われているので、まずは範囲や拠点の設置場所を考えていこう。


 まず、この場所はアクシスの街の南西地点にあるので南側は緩い丘があり、その先は傾斜になって海に繋がっている。

 反対に北側には未開拓の森が広がっていて、西側には小川、対岸にはこれまた森。

 やや北寄りの東側がアクシス方面だ。


 簡単にまとめると森と海の中間にある草原の丘というところ。


「薬草がよく採れるのは西側と北側だから薬草園を作るなら西と北に家を建てるのはなし。まあ無難に南側の丘の手前かな」


 川に近い方が便利だけれど、新大陸の気候をまだ把握できていないのでわからないけれど、雨季などがあるようなら川に近すぎるのは怖い。


 そしてだいたいの家の建設予定地を決めて、レイナから貰ってきた羊皮紙に周辺の環境を書き込み、建設予定地にマークを付ける。


 南の拠点と西の畑の位置とバランスを取って正方形になるようにしていこうかな。

 実家やギルドの敷地に比べたら狭いけれど、最初からあんまり広くし過ぎる必要もないしね。


 ということで、今度はペンを鉈に持ち替えて適当な低木を切り落として建設予定地の四方の隅の地面に突き立てていく。


 更に何周かしながらその間に同じように木の棒を突き立てて、それらを細いロープで結んでいく。


 最後に東側のアクシスとの往復路として馬車を走らせてできた轍のそばに、ここは開拓中の土地だと主張するための看板を設置。


 看板は予め昨日のうちに作っておいたのでハンマーで叩いて地面に刺すだけ。

 今のところ一番の重労働だ。


「ふぅ……疲れた。アイシャさんのことを痩せ過ぎだなんて言っている場合じゃないな」


 俺の体もはやく成長してくれないと建築どころじゃない。

 さすがに家を建てるのは職人を雇うことにするけれど、簡単なものは自分で作ったり直したりできる技量と筋力は欲しいところだ。


「私がどうかしましたか?」


「ん? ああ、ごめん。口に出しちゃってた? アイシャさんは体がもう少し元気になってきたらもっと美人になるんだろうな、って思ってさ。あ、もちろん今でも美人だけどね」


 女性に向かって太れとは言えないので笑顔でごまかす。


「ご主人様はお優しいですね。けれど私なんてこれからは年を取るばかりですよ。ご主人様は奴隷から解放してくださると仰いましたけれど……その頃にはもう……」


 なんとなくアイシャさんの言いたいことはわかる。

 この開拓地がアクシスの街の中に取り込まれて、アイシャさんたちが解放されるのは数年先の話だ。

 3年か、5年か……まだ小さいルビィやノルのように新しい人生を踏み出すというのは不安もあるのかもしれない。


「奴隷から解放されるのは怖い?」


「そうですね……ご主人様と出会ってからの生活はとても良くなりました。けれど……数年先の私が、グランバリエで暮らしていた頃の様に戻れるとは思えませんから……あっ、でも先ほどの話はとても嬉しかったのですよ。こんなに優しいご主人様の元で働かせて頂いて感謝しています」


 わざわざ言及はしてこなかったけれど、アイシャさんは俺のことをご主人様と呼ぶ。

 きっとそれは大人だから弁えているというだけではなくて、過去の自分には戻れないという思いもあってなのだろう。


「アイシャ、俺はまだ見ての通りこどもだ。大人の君が傍に居てくれるから安心していられるんだ。少なくとも俺ひとりじゃルビィやノルの世話は出来なかっただろう。アイシャが大人であることは俺にとって大きな魅力だよ。決してアイシャを不幸にさせたりはしないさ」


「ご主人様…………ふふっ。なんだか今日のご主人様はとてもこどもになんて見えませんよ。まるで大きな――何処かの王子様のようです」


「……お、俺は貴族や王族なんかじゃないよ! アイシャさんが嫌だったら断ってくれてもいいし、いい相手が見つかったときはいつだって結婚したっていいんだから! 自由にしていいんだよ!」


 目を潤ませながら照れたように笑うアイシャさんに慌てて言い訳をする。

 どうやら無意識のうちに実家に居たころの振舞いが出てきてしまったらしい。

 気を付けないと。


「そういうところは大人ではないのですね」


 慌てた俺の姿がどういう風に映ったのか、アイシャさんは頬を膨らませてくすりと笑ってみせた。

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