第14話 とっても頑張って交渉もしたよ
『すみません。うちは満室で……いまは長期で借りているお客さんが多くていつ空きが出るかわかりません』
一軒目の宿屋に断られ、レイナに書いてもらった地図を頼りにアクシスの街を歩く。
『満室だよ。厩舎でもよければ貸すけど、それなら仮宿のほうがいいだろ?』
優しいのか優しくないのかわからない言葉に返す言葉もなく苦笑してまた街を歩く。
『ひと部屋でしたら空いておりますよ。ですがその……当宿は大商会傘下のそれなりに格式のある宿でして一泊のお値段もそれなりです。そのため、お部屋をお貸しする際はお客様の収入の情報を調べさせていただくのですが構いませんか? ……え? 月収が銀貨20枚? お引き取りください』
◇
そして意気消沈した俺の足は自然とギルドへ向かい……。
「——っていうことがあってね。レイナー! どうしよう! 俺家が借りられないよー!」
「よしよし。セレストさんは一生懸命お家探しが出来てえらいえらいですよー」
「レイナー!」
「あなたのレイナはここにおりますよー」
「お前ら仕事もしないで何遊んでんだ?」
ギルドの受付カウンターで親交の深いレイナに慰めてもらっていたら聞き覚えのある渋い声に振り返る。
「……なんだ支部長か」
「なんだとはなんだオイ。相変わらず無愛想なガキだな」
「そうですよー、セレストさん。パパのことを支部長なんて呼ぶ必要ないですから、パパって呼んであげてください」
「呼ばれたくないし呼んだら殺すぞセレスト」
「呼ぶわけないじゃないですか」
お調子者のレイナに生真面目な支部長。
どうしたらこの人からレイナみたいな適当美人が生まれたんだろう。
お母さん似なのかな?
「……お前なにか失礼なことを考えてないか?」
「そんなことありませんよ。家探しがうまくいかなくて少し悩んでるだけです」
敢えて図星だと答える必要もないので話を逸らす。
むしろ本題に戻したともいう。
「あん? 家探しなんかしてんのか。お前くらいの冒険者なら外を開拓して家を建てればいいだろうに」
開拓して家を建てる?
「街の外に勝手に家を建てていいんですか?」
「そもそもここは開拓の街アクシスだぞ。長年かけて海岸から土地を開拓して街を広げてるんだよ。冒険者が新たに開拓した土地がある程度の規模になったら外壁で囲う。内側の壁は壊してスペースに大通りを作る。アクシスはまだまだ成長してんだぜ」
そういえばアクシスの街の外壁は石壁ではなくて木製だ。
広げることが前提になっているからだったのか。
解体後は建材や燃料にも使えるし無駄がない。
「たとえば俺がいつも薬草を採りに行っている近くの森とかを開拓して家を建ててもいいんですか?」
「お前らが行ってるのは南西の川沿いだったか? 街に近い川だからいずれ手は加えたいところだったな。大型の獲物が少なくて冒険者連中はあまり興味が無いようで後回しになっていたが」
支部長が言ったことを吟味する。
あの辺りでずっと採取をしているが大型どころか魔物に出会ったことがない。
冒険者も儲けにならないのであまり寄ってこない。
あれだけ薬草や花が生えてる土地なので土は栄養が豊富で畑もやれるかもしれない。
海に近い下流ではあるが一応川があるので生活用水には困らない。
アクシスとは馬車でならそう時間も掛からず行き来ができる。
冒険者にとっては近く、それ以外の者には十分遠い。
これは、かなりいい場所なのでは?
「支部長。そこを開拓したら俺の土地はどういう扱いになるの?」
「いずれアクシスが拡張するときに街の中に組み込まれることになる。独立などは出来んが、自分で開拓した範囲は基本的にはアクシスとくっついてからも自分の土地だぞ」
自分が開拓した場所は自分の土地になって好きに家を建ててもいいなんて……。
これってきっと今だからこその好条件だよね?
だって街の拡張なんてずっと続けるわけじゃないだろうし……開拓中の新大陸だからこそのチャンスのはずだ!
「ありがとうレイナ! パパ! 俺、頑張って開拓するよ!」
話を聞いてくれたレイナと支部長のお陰でやる気が湧いてきたぞ!
「誰がパパだっ! お前にレイナはやらんっ!!」
背後で剣が鞘から引き抜かれる音を聞きながら慌ててギルドから飛び出した。
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