第12話 収入不足はやりくりで
今日も街の近くの川沿いでアイシャたちが薬草採取をしている。
俺の仕事はシールドの維持と川辺で馬に水をやったり運ばれてくる袋詰めされた薬草類の積み込みだ。
「お、これはうさぎかな?」
積み込み作業をしていると、シールドに何かが接触した感覚。
「スパイク!」
「ピッ!」
感覚がした方向のシールドの魔力を変化させてシールドの一部を棘のように変化させる。
鳴き声からして多分仕留めたかな。
「やっぱり野うさぎか……うーん。いつもアクシスで保存食を買ってきてはいるけど、たまには新鮮な肉も食べさせてあげたいよなぁ」
ちょうどスパイクに首を貫かれていたうさぎを逆さにして適当な木の枝に紐で括り付ける。
アイシャやルビィ、ノルは今日も一生懸命雑草だらけの中から薬に使えそうな葉を探してくれている。
三人にもっと栄養のあるものを食べて貰いたいと思う。
アイシャはきっと美人になるし、健康になれば大人なので今より色々頼めることも増えるだろう。
ノルは育ち盛りの男子だから肉を食べて体が大きくなれば他から仕事も任せられるかもしれない。
ルビィは——ルビィはまあ、元気ならそれでいいか。
昼食代を節約できれば馬車の修理もできるし、何より部屋を借りるためのお金を貯められるかな。
三人は仕事のとき以外は相変わらず、犯罪奴隷たちの宿舎で暮らしている。
仕事を始めたことでやっかみは減ったようだが、一部のタチの悪い連中はアイシャたちのことを獲物と認識してしまっているのか、たかりはまだあるとノルが言っていた。
どうせなら三人のことも本来は罪人ではないのだしなんとかしてやりたいところだ。
何も罪を犯していないのに……普通に生きることができないなんて寂しいもんね。
「よし! 今日の昼は焼肉パーティにしよう!」
決めた!
魔物はまだ狩りに行かなくてもできることから努力していこう。
周囲に展開したシールドに意識を集中……ここだっ!
「ピピッ」
「ピィ!」
草の陰、木の上から野うさぎや鳥の鳴き声がしたあと、バサバサと地に転がり落ちてきたのを拾って木に吊るす。
「何か、あった?」
「どうぶつさんのこえがしたよー!」
ノルがルビィの手を引いて急いで駆け寄ってくる。
異変を感じてルビィを真っ先に俺のところまで引っ張ってくるとは……ノルはやっぱり心優しい少年だ。
「はぁふぅ……二人とも足が早いですぅ! ご主人様、なにかございましたか!?」
少し遅れて駆けてきたアイシャさんが顔を赤くして呼吸を落ち着けながら心配そうに周囲を警戒する。
「驚かせてごめんね。近くにうさぎや鳥が居たようだったから今日のお昼に振る舞おうと思って何匹か捕まえたんだ」
ほら、と木に吊るした2羽のうさぎと3羽の鳥を指し示す。
「うわぁ! おにく! ルビィおにくだいすきだよー!」
「ルビィ、あれはセレストさんのだ」
ぴょんぴょん飛び跳ねて嬉しそうにしていたルビィがノルの一言で口をあんぐりとあげて驚いた顔で天を仰ぐ。
「心配しなくともルビィとノルも食べていいんだよ。もちろんアイシャさんもね」
「よろしいのですか!?」
「もちろん。美味しいものを食べて健康で居てくれた方が雇い主として助かりますしね。だからルビィ、ノル。遠慮なんかしたらだめだぞ」
驚くアイシャさんに苦笑しつつ、ルビィとノルのあたまをくしゃくしゃと雑に撫で回してやる。
「じゃあ俺は下処理して料理の準備をしておくんで、それまでは適当に続きをお願いしていいですか?」
「はい。それじゃあ行きましょうか。さっきお料理に使えるハーブも生えていましたからそれも採ってきましょう」
「あっ! ツーンってする匂いの葉っぱだね! ルビィ覚えてるよー! あっちー!」
ルビィがアイシャさんの手を取ってとてとてと駆け出していく。
「ん? ノルはどうした?」
「あの……迷惑じゃなかったら……手伝いたいです。経験はないけど……その……多分、オレはそういうの、頑張らないといけないと思うから」
不安そうに目を泳がせながら語るノル。
確かにこのメンバーに俺以外に男はいないし、いつかノルにはルビィには頼めないようなことを頼みたいとは思っていたけれど……ノルの方からこうして歩み寄ってくれるのは——なんていうか、嬉しいな。
「よっし! じゃあ解体の仕方を教えよう。最初に俺がやって見せるからよく見ておくんだぞ」
「はい!」
元気に首肯するノルに少しだけジェドの姿が重なって見えて、思わず笑みが溢れてしまうね。
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