短編集
戦士
擬音精舎の鐘の声
「我々にいま最も緊急的に迅速にかつ速やかに必要なのは”擬音”ではないだろうか諸君!!」
狭い部室の隅々に響く声で部長は我々に問いかけた。
「なんか言葉が渋滞してますよ部長」
と気怠そうにつぶやいたのは今年からこの小説同好会に入った1年である。
「なんと!!大事な第一声がそれでは読者がすぐに引き返してしまうな!まあそれもこの私の個性と思えば何の問題も無い!むしろ履歴書に書くネタが増えてラッキー極まりない!!はーーーーーーっははははははっはははは!!!!!」
非常に暑苦しい部長だがこんなんでもいてくれないと困るのである。
なぜならこの同好会には部長以外で熱意を持って活動しようとする部員など一人もいないのだから。そのせいで毎年部員は減っていき、ついには今年から同好会に・・・
「おい!梨蔵!!おまえは誰と話してるんだ!ちゃんとこっちを向いて大事な会議にさんかするべし!!」
「無駄ですって部長。梨蔵さんのナレーター病は今に始まったことじゃないんですから、会議に戻りましょうよ。ええと議題なんでしたっけ?ジークジオン?」
「擬音だ擬音!!何にも聞いてないじゃないか!まあいい。ごほん、いいか諸君この偉大なる小説部が設立されて」
「小説同好会です」
「ええい黙って聞いておけ!この偉大なる小説同好会が設立されて10年先輩方の尽力と我らの努力によって今日までやってこれたわけだが!しかし!小説同好会は廃部の危機にさらされている!!それを何とかするために至急入部希望者を集めねばならない!!」
「それっていつまでですか」
「この1話目が終わる前にだ!」
「じゃあ無理ですねあいつが1話で話をすっきり完結させたことないでしょ」
みなさんご存じのあいつはあいつである。
アイディアはあっても表現力と集中力に乏しいあいつはこれまでも話を何個か書いてきたが全て途中で集中力が切れて適当なところで終わらせしばらくトンズラこくようなろくでなしであることは我々はよく知っている。
「そう!文章をあーでもないこーでもないと考えてるうちに眠りこくあいつだが
そんなあいつでも文章を書きまくるかつ部員もわんさか寄ってくる最高のアルデンテをもってきたのだ!!」
アイディアだろパスタでも茹でるのかよと渋い顔をしながら1年はそのアルデンテに耳を傾けた。
「それが”擬音”!!!作品に擬音を加えまくることによりインパクトが出てあいつも飽きることなくそのインパクトに未来の新入部員がこの部室になだれ込んでくるというからくりなのだ!なんという革命的発想!!まさしく令和のナポレオン!!いや
ナポリタン!!」
「そんなんで人が集まりますかねぇ」
「やってみなければわからないだろ!!実践あるのみ!だあああああああん!!!!」
ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
部長が勢いのあることを叫ぶとどこからともなく爆発音が部室中に鳴り響いた
「うるせええ!ちょっと擬音ってこんなにうるさいんですか!」
「ばか者!このくらいうるさくないとインパクトがないだろう!はあああああああああああああああああ!!!!!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
「うえええええ!!ちょっと勘弁してくださいよ!こんなんじゃストーリーもくそもなくなるじゃないですか!!!というか小説に求められるインパクトってこんなんじゃないような」
ドヨヨヨヨヨヨヨヨヨオオオオオオオオオオン
「なんだこの擬音!?とうとう僕の発言にも擬音があ!」
ぱっこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん
「てか擬音適当だろこれ!!」
ひゅるるるるるるーーーーーーーーーーーーん
「いいぞいいぞどんどんインパクトが出てきてるぞお!それ!
それ!ふううううううううううううううううん!!!!!!」
びゃぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぐ!!!!!
ぢゅらああああああああああああああああああああああああんん!!!!
りゅりゅりゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんん!!!
「もう止まらないですよ!!!どうするんですかこれ!!!」
じゃぱあああああああああああああああああああああああああああん!!!!!
がちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!
ぴゅるるるるるううううううううううううううううううううううううんん!!!!
「完璧だ!!!!こんなにインパクトがある小説がいままであったろうか!!!さいこうだあああああ!!!!!!!!!!!!」
ぐりゃああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!
せぷてええええええええええええええええええええええええええええええん!!!
ぼおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
ぴゃぴゃぴゃぴゃああああああああああああああああああああああああああ!!!
騒音の中で梨蔵が話を締めくくった。
結局話がまとまることは無かった。まあそうなるとは思ったけどね。
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