陣痛

「他人を口汚く罵る人は、意識してるのかしてないのかはそれぞれかもしれないけど、自分の親が他人から悪く見られることを望んでるんでしょうね」


幸恵ゆきえの辛辣な言葉に、好羽このはは言い返すこともできなかった。『全部が全部そうじゃないんじゃないか?』と言いたかったけれども、じゃあ具体的に自分の周りでそれに当てはまらないのがいるかと考えてみると、誰一人思い付かなかった。


自分の親もそうだ。普段はいい人ぶった態度を取っているけれど、裏に回れば他人のことをボロカスに言っていた。その両親の親、つまり好羽にとっては祖父母に当たる人達も同じだった。そして、そんな祖父母のことで両親が愚痴をこぼしているのも知っていた。


友人達もそうだった。陰口とか当たり前の子は、自身の両親についても陰口が止まらなかった。たまに親のことが好きと言うのがいても、あくまで自分に甘いから好きと言ってるだけで、よく聞いてみれば完全に親を見下して馬鹿にしているのが分かった。金づる程度にしか思っていない。つまり、本人にとってはその程度の親だったということなのだろう。


好羽の周りには、そういうのしかいなかった。


改めてその事実に気付いて、彼女は愕然となった。幸恵の言ったことを打ち消せる例が一つも思い当らなかった。


幸恵が問い掛ける。


「自分の周りの人のことを思い浮かべてみた?」


「……」


それに彼女は応えることができなかった。


「そう……でも、それも当然なんでしょうね。『類は友を呼ぶ』から、どうしても似たタイプが集まりやすいし。だけどね、なんにでも例外はあるの。親に問題があっても、何かをきっかけにそれを改めることができるようになるのも人間だから。


大丈夫よ。あなたも、あなたの赤ちゃんもまだ間に合う。あなたの赤ちゃんは私達が責任を持って大切に育てる。あなた自身も、あなたが望むのなら今からでも遅くないわ」


そう言われても、やはり実感はなかった。『限りなく百パーセントに近い確率で親に問題がある』という幸恵の言葉がもし本当なら、あの両親の子供として生まれて育てられてきてしまった自分はもう、駄目な人間にしかなれないと思ってしまった。


『私には無理……こんな馬鹿な私には……』


幸恵に体をさすってもらいながら、好羽は自分のことがどうしようもなくみじめに思えて涙が止まらなかった。


それから半日が過ぎ、いよいよ本格的な陣痛が始まった。


「うぅ…うぅぅ……」


生理の時の百倍くらいって感じの痛みが絶え間なく襲ってきて、満足にしゃべることもできなかったのだった。


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