もえぎ園
<もえぎ園>。
そう看板が掲げられたそこは、民間の児童養護施設だった。開設は戦後すぐ。元々は戦災孤児を保護する為にある人物が私費を投じてつくったものであった。
その人物の名は
それから既に七十年。数百人の孤児や捨て子を保護し続けたその園に、新しい子供がやってきた。
「へえ、この子が新しい子? ふふん、こんな状態でも寝てられるとは、大したタマね。気に入ったわ」
ベビーベッドに寝かされた赤ん坊を見下ろしながらニヤリと笑ったのは、癖の強い短めの髪を跳ねまくらせ青いワンピースを身に付けた十歳くらいの少女だった。いや、身長や体格から見るとそのように見えるのだが、しかしその少女(?)の表情は、とても十歳くらいの子供とは思えない、老成したものでもあった。表情だけを見ていれば、成人でも何もおかしくないと思われた。
少女(?)の名は
そんな宿角蓮華の脇に、困惑したような表情を浮かべながら、一人の女性がやはり赤ん坊を見下ろしていた。こちらは二十代前半くらいの、まだ完全には体に馴染んでいないスーツを纏い、やや赤みがかったショートボブがどこかあどけなさも醸し出す若い女性だった。
彼女の名は
「さ~て、取り敢えずこの子に名前を付けなきゃいけないわね。京香、なんて付ければいい?」
蓮華に突然そう振られて、京香は「あ…、えと……」と戸惑うばかりだった。
それでもじーっと睨まれて思わず、
「いしだ…あおい……?」
と、どこかで聞いたような本当に何となく頭をよぎった言葉を口にしてしまった。
「OK、
などと言われて焦ってしまう。
「あ、いや、それは……!」
しかし後の祭りだった。戸籍を作る為の書類に名前が記される。実際の提出は赤ん坊の親の判明が長引きそうと判断されてからのことになるが、蓮華はもうそのつもりだった。
「名前なんてよっぽど突拍子もないモノでなければなんでもいいのよ。むしろ平凡で地味なのがいいの。この子には地に足の着いた生き方をしてもらいたいからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます