東部防衛線「魔法少女モノノベのモリヤ」
東部防衛線で何度死線をくぐり抜けようとも。
そのセルリアンへの晴れることのない不信。
千年以上に渡ってヒトを騙した積み重ね。
それでも頼らざるおえないと言うなら利用するまでだった。
最前線に広がる墓地はかつて防衛線の内側だったという。
度重なる侵攻に放棄せざるおえなく成った。
今やセルリアンが支配する領域、けれど。
いつ奴らが現れるかもしれないこの雨の中の静けさ。
所謂ジャパニーズホラーを墓地の魅力と言うなら。
輝きはまだ奪い尽くされてないと言える。
「忌まわしい。」
ただテラツツキにとってその信仰は忌むべき物だった。
【廃仏】の輝きのフレンズ型セルリアンとして。
仏教を取り込んだ
それでもこの東部防衛線を守る立場を退く訳にはいかない。
「ここには
だから小太刀を左手に雨の墓地で待ち構えていた。
そしてそれは地平線から顔を出した。
この距離からでも分かるヒト影。
隠す気のない巨人の足音と共に墓石を蹴散らして。
ジャパニーズホラーとは程遠い登場を果たした。
その巨人型セルリアンの顔は大仏だった。
「全く走る大仏なんぞ冗談にも程があるわい、それともかつて巨大セルリアンと呼ばれた汝としてはむしろしっくり来るんかアレックスよ。」
旧友の如く呼び掛けるが。
狂ったように。※獣ではなくヒトのように
何やら喚き散らしながら走るアレックスに反応は望めない。
まぁこの距離で聞こえてなくても無理はない。
等と悠長に身構えていたのも束の間。
その距離が酷く縮んでいた。
「あ?」
可笑しい、むしろ奴の腕振り足捌きの動き一つ一つが。
捉えられる程ゆっくりとコマ送りに見えていたのに――。
違う、奴の動きに合わせて雨までコマ送りに成る物か。
これは奴が速度を落としたのではなく。
こちらが遅く感じているだけ。
奴の記憶を奪う力、それで意識が一定間隔で抜き取られ。
しかも意識の空白期間は奴が近付く程増して――。
意識が戻る、身体が宙を浮いていた。
何が起こった?
テラツツキ、所謂アカゲラの妖怪として空は飛べるが。
自分は地上に降り立ち正面相対していた。
あぁだから路傍に転がる石のように蹴り飛ばされたのか。
完全に意識を奪われ堂々と眼前まで迫られた挙げ句。
そうして奴が通り過ぎたからか自己連続性を取り戻したと。
……普通なら脳震盪が疑われる一発だったが。
外的損傷は多少のヒビ割れのみでむしろ問題は。
自分を気にも留めず一心不乱に走り去った奴の無関心さ。
その腹立たしさのまま右腕に小太刀を宛て、引く自傷。
されどヒト非ざるセルリアンの身から溢るるは火色の輝き。
「――変身。」
ボソッと唱える魔法の言葉。
輝きは外に解放されることなく右腕に纏わり。
フリルの袖と魔法の弓矢と化す。
まるで片腕だけ変身した魔法少女とでも言うべき姿。
そう魔法少女、輝きを直接纏ったこの姿は飾りではない。
弓引き、空に放った矢は一見明後日の方向。
だが矢はキツツキの如く空中で軌道を変えて奴の足元へ。
保存されオリジナル遜色ない【廃仏】の輝きが足を
『――!?』
地面に縫い留められた奴はようやく自分を見る。
よいぞよいぞ、頬が緩むのを抑え語り掛ける。
「驚きかのぉ、無碍にも汝に蹴飛ばされた
あくまでも認知されていた前提で話している途中。
射抜いた足の傷口から大量のセルリウム、
「そう言えば大仏の中身は空洞であったのぉ、かつての身体同様無尽蔵のセルリウムを溜めておけると。」
それと共にハンターセルが湧き矢の拘束から抜け出す。
……までは許せたが、あろうことか奴は再び背を向ける。
「ほぅ、吾を何処まで無視すれば気が済むのじゃアレックスよ。」
なら振り向くよう再び矢を構えるのみ。
ハンターセルの群れが獲物を求め迫り来るが。
輝きその物が放たれる矢の前に蹴散らされ。
矢はその勢いのまま走り去る奴に追い付く。
が、まさに射抜く瞬間奴は反転。
振り向きざま迫り来る矢を叩き落としてみせる。
「ほぅ……!」
今度は頬が緩んでしまう、お陰で反応が遅れる始末。
勢い殺さずターンした奴は跳び掛かって距離を詰める。
不味い、咄嗟に上空に飛び回避と距離を取るが。
自分がいた場所に着地した奴はすぐさま垂直跳び。
上空で視線が合った瞬間、飛ぶ意識。
気付けば地面まで叩き落されていた。
当然弓構えていた矢は意識失った間に適当に放ってしまい。
着地した奴は悠然と向かって来る。
「動きは大雑把じゃが近付かれたらどうしようもないわな、にしても『私ハ何処』か……。」
さっきまで喚きにしか聞こえなかった奴の声。
上空で接近してようやく聞き取れた以前と変わらぬ目的。
「だから汝が見捨てられぬのじゃ。それと軍事氏族であった物部守屋、その【廃仏】の輝きを受け継ぐ吾を叩き落したからとて舐めるでないわ。」
先程適当に放ってしまった矢だがまだ制御下にあった。
上空で旋回待機させていたそれを油断した奴の後頭部へ。
奴を頭から地面に叩き付け縫い留めてみせる。
当然頭からも湧くハンターセルが矢を外しに掛かる。
等許す訳もなくこちらも左腕を弩に変身させ連射。
弓と比べ一撃とはいかないが。
無数の矢でハンターセルの阻止と奴の両腕の拘束を行う。
そうして上半身を縫い留めたのち右腕に溜めた輝きを放つ。
……目論みが拘束がハンターセルに追い付かなく成る。
増殖速度は変わっていないのに、この違和感まさか。
振り向けばすぐ側まで奴の
――足を縫い留められた際に切り離しておいて伏兵に。
「考える、ことは、同じ、かえ。」
嬉しくはあるがすぐ倒さなければ。
左腕の弩を奴へ撃ちながら右腕の矢を口で弓構え伏兵へ。
奴の足指ごと討ち飛ばし意識の速度が戻るが時遅し。
拘束の矢を外し切った奴が駈け再び意識はフェードアウト。
『私ハ。』
フェードイン、蹴り飛ばされながらも頭に残る奴の言葉。
感傷に浸る間もなく奴は付かず離れずの距離で絶え間ない、
『本当ノ
攻撃を繰り返す奴の言葉。
「そんな、物はなっ。」
返すように攻撃の合間合間に矢を射る。
とても狙い等定まらない、
意識が再開した瞬間から奴の位置を逆算して当ててみせる。
脳震盪の昏倒を考慮せずに済む妖怪アカゲラ由来の荒技。
「ないんや!」
そう、倭にキツツキ等いなかった。
不自然なことに一度も生まれて来ないアカゲラのフレンズ。
疑問に持ったヒトはその事実を知ってしまった。
慣れ親しんだ倭のアカゲラは“寺つつく”という由来通り。
死後も寺を壊さんとキツツキに化けて出た。
物部守屋の【廃仏】の、祓い切れてなかったその輝きを。
千年以上も実在の動物と信じ込んでいたこと。
故に輝きのフレンズとして生まれるもすぐ消える定め。
その消えゆく姿を保存して生まれた自分は偽物の偽物。
だから奴を見て見ぬフリ等出来ない。
無差別に記憶を奪うのは女王だった
そんな仮定でしか語れぬ程過去の失われた星で藻掻く奴を。
「あ?」
弓構えようとした両腕がなく成っていた。
砕けた、ヒビ割れを無視して奴に食らい付いた限界。
武器を失いついで寸胴、巨人の手はさぞ掴み易かったろう。
奴に全身握り締められてからは自分にとって一瞬。
奴はじっくりと時間を掛けた。
意識喪失の自分を舐め回すように見たのち。
ゆっくりと大きく開いた口元まで運び。
記憶がたっぷりに詰まったその頭部を石ごと噛み砕いた。
……………………。
――。
『?』
パッカーンという感触がしない。
それが持っていた輝きで満たされる感覚も。
「――吾なら、」
声がする。
食べ残した鼻唇溝から下が一人でに動いて。
「ここじゃ。」
開いた口から長く垂れ下がった舌先に。
石があった。
“吾の脳でもあるセルリアンの石は頭の中にあるのじゃが、それがアカゲラ俗に言うキツツキと同様に長い舌にくるまれる形で守られておってな。”
事前に頭から取り出していた。
気付いたが大仏の身体は動かない。
牽制以下で特に防がず刺さったままの矢が。
殴る蹴る度ヒビ割れから浴びていた輝きが。
火色をしたキツツキの群れに化けて邪魔をする。
放っておいても意識を奪う力で吸い取れるが。
だからこそテラツツキ否その輝きに宿る
「――変身。」
変身時間は稼いだ。
あとは任せた、――アカゲラ。
頭の断面から溢れ出した輝きが舌先の石に纏わる。
形作られるテラツツキに似た。
けれど全身を魔法少女の衣装に包み込んだ輝きのフレンズ。
その顔はヒトに非ず鳥人、嘴を持った動物のアカゲラ。
彼女が弓構える。
腕だけ変身した時とは比べ物に成らない全力の輝き。
『ア、アアー。私、私ハ――!』
目も眩むような輝きの中。
大仏をした奴は衆人のように彼女へ救いの手を伸ばす。
「大丈夫、次も付き合ってあげるから。」
遊びの約束をする位に彼女は矢を放って。
――晴れ空が見えた。
奴の身体の中心から向こう側の雨雲まで一直線に。
大きく穴が穿たれていた、勝負は決した。
大仏という器いっぱいに溜め込まれたセルリウムでさえ。
受け留め切れない輝きの奔流に内側から破裂する。
目の前にいた彼女は当然モロにセルリウムを浴びて。
目を開けた次には身体を成形し直した自分が代わりに立つ。
……完全変身の彼女は十数秒しか顕現出来ない。
奴が残す大量のセルリウムでの復活を前提とした最後の手。
「……次はもっと楽に倒せる姿で来て欲しいものじゃ。」
でもこれで最期ではない。
自分達が倒したのは奴の外装だけで本体はわざと逃がした。
いずれ新しい
そんな利敵行為に等しいことを何度も繰り返している。
……こんなことがいつまでも続くとでも許される訳がない。
分かっておる、それでも。
このような過去に囚われた輝きから生まれた。
魔法少女モノノベのモリヤに夢を見たから。
「まぁ正直に言えば変身は恥ずかしいから変えて欲しいんじゃが……。」
変身する時と同じ位ボソッと呟いた本音。
内に宿る彼女には聞こえて文句を返された気がした。
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