セルリアン防衛戦線
図書記架
南部防衛線「Kはダンクルオオオカミと深く繋がっています」
南部防衛線を誰が守っているか誰も知らない。
それは機密だからではなく。
文字通り記憶にも記録にも残せない異常性。
彼は反ミームと成った存在だから。
「――では行こう、君と僕と。十一日帝国が空を喰らう時、朝食のテーブルの上の蛤のように熔けるヒューマノイドのように。」
背中から落ちないよう首に片腕を回したKが布告する。
もう片手にガラスペンを構えながら開戦を或いは開幕を。
自分も彼の足を片腕で背負い一心同体。
と言いつつ考えていたのは蛤について。
ダンクルオステウスがいたデボン紀にはいただろうか?
貝類はオルドビス紀に誕生したので先輩かもしれない。
等と戦闘前に無関係なことを。
そもそもあれは宣戦布告に関係した内容なのか。
――少なくとも自分と彼は
考えたお陰で何者か再認識する。
自分は
古代魚ダンクルオステウスの装甲で頭を覆う頂点捕食者。
……ダンクルオオオカミというアイデアの擬人化。
彼はあるヒトの少年のコピーにして。
今はセーラーワンピで足を曝け出す。
……反ミームの代償で人魚化した下半身を。
「あぁお前を連れて行こう、それが俺の役割だ。」
駆け出す、歩けない彼の足として。
見据える海からは海底火山より這い出た無数の黒き
それらを率いるここらでは
対して足を取られる砂浜で使える腕は片方のみ。
「生憎ハンデにすら成らないな。」
こちらには彼がいるのだから。
彼がガラスペンを振るえば空中に黒い足場が現れる。
乗った矢先から崩れる足場で先鋒を飛び越えて。
群れの内側から喰い荒らす。
とは言えルーラーが率いるだけあってすぐ立て直される。
のは織り込み済み空中へ離脱済み。
奴らが見上げる中彼は足場を再び描く。
空中に出来た死角そこから飛び出す影あれば追ってしまう。
それは彼が形取った身代わり。
本物の自分達はまんまと背後を取りヒット&アウェイ。
けれど考えることは敵も同じようで不意撃ち。
背後を突く紫弾、は背中の彼が即興の盾で防いだ。
「? アナタ、イツカラカラソコニイタノ。ソレニ、アナタノジョウホウ“保存”シツヅケラレナイ。」
狙撃を防がれルーラーは彼の存在にようやく気付いた様子。
彼は気にした風でもなく教える。
「僕は反ミームだからね、情報保存に長けた君達でも忘れてしまうような。でもお陰で僕の想い出が君達に盗られても形を保てずすぐ崩れる、この通り。」
彼はガラスペンで目の前に滑り台を描く。
奴らの原材料で出来た黒泥インクに想い出を込めた結果。
再現された造形物はすぐ崩れ。
自分達の姿もそこから消えていた。
「――ハナシノトチュウデ、フイウチダナンテ。」
「お互い様だ。」
崩れるのと同時に滑り台の階段を駆け上がり。
飛び掛かった自分達をその場で見上げるだけの文句
「ソウダネ、ワタシモ“再現”ハトクイ。」
突如空中で足が床に付く。
自分とルーラーの足元に廊下が一瞬で敷かれていた。
挙げ句廊下は一瞬で伸びルーラーを暗がりの奥へ運び去る。
空間異常、海岸にいた自分達はいつの間にか。
ルーラーが再現した洋館の中に閉じ込められていた。
当然そこは奴らの伏魔殿。
ヒット&アウェイをする隙も間もなく囲まれ。
閉鎖空間において満足に動ける大型肉食獣
そうして勝ちを確信したルーラーの元に。
彼の不敵な声が届いたのは十秒後のこと。
「確かに世界広しと言えどこんな閉鎖環境に適応した狼はいないよ、ただ一種を除いてね。」
包囲網は何層にも仕掛けた筈なのに近付いて来る声。
廊下を埋め尽くす弾幕を張るが一秒後。
「君の縄張りだろうと関係ない、ダンクルオオオカミはね異空間のホテルを狩り場に進化して来たんだから。」
彼を背負いながら最後は頭の装甲で強行突破した自分が。
大広間まで逃げたルーラー目掛け爪を振り下ろす所だった。
「っ……、ち!」
だけど水のような手応え。
瞬間液状化したルーラーが自分達を取り込もうとして。
……洋館内を縦横無尽に狩りしてみせた自分が。
咄嗟に彼を背中から突き飛ばす他為す術なかった。
「っ……、ダンクルオ!」
名前を叫ぶ彼に。
取り込まれた自分は水槽越しに泡を吐くしか返せない。
「シッテル? ワタシノカラダハ、ミズニトケルンダヨ。」
「……それでいっそ自分の身体を水に置き換えたって訳?」
「クスクス。」
人間サイズの水の球体から顔だけ再現したルーラーは。
彼の問いに含みで答える、いや彼の足を見て笑っている。
「何がそんなに可笑しいのかな?」
「“群レ”ハ、イッショダカラカガヤク。デモ、イマノアナタタチバラバラ。ジタバタスルシカナイアシナラ、ギセイニナルベキハアナタダッタ。」
実際の所足をジタバタ等はしてない。
ただ床に打ち上げられた人魚の彼が気にしたのは。
「君は、群れが好きなんだね?」
「……ダトシタラ、ナニ? チッポケナ“群レ”ニハ、キョウミナイヨ?」
「僕も好きだよ、――だから僕が大好きな“皆”を見せてあげる。」
一方的に話を進めるルーラーだったが。
意地っ張りで彼に敵わないと思い知る。
ガラスペンから一滴のインクが滴り落ちる。
黒泥は雫の形から人間の、いや友達の形を取る。
それは一つ目のカラカル。
違う雫からはサーバルが。
続きましてロバ、カルガモ、パンダとパンダ、イルカさんアシカさん。
アードウルフアリツカゲラナミチスイコウモリヒョウクロヒョウイリエワニメガネカイマンゴリラアフリカオオコノハズクワシミミズクヒトラッキーチータープロングホーンG・ロードランナーマーゲイロイヤルコウテイジェンツーイワトビフンボルトトキタヌキパフィンオグロヌートムソンガゼルオオセンザンコウオオアルマジロイエイヌカタカケカンザシリョコウバトオオミミギツネハブブタアライグマフェネックアムールトラ――。
かつて彼の絵が引き金と成った異変の再現。
一つ違うのは彼を守るようにルーラーへ立ち塞がる。
「!?」
唯一の数の優位性が一転。
迫り来る群れはすぐ崩れるが彼が絶えず描き続け。
押さえ込むのにルーラーは全リソースを余儀なくされる。
それでもインクが尽きるのが先の筈……。
そんなルーラーの読みを自分が内側から文字通り喰い破る。
ご自慢の水の檻からそうして脱出され理解不能のルーラー。
「ドウシテ……? ミズノナカデ、チッソクガンジガラメダッタノニ。」
「あいつが言ったんだよ、ダンクルオステウスが進化したのがダンクルオオオカミじゃないかって。だったらエラ呼吸で泳いでやるかと試した訳だ、まぁ感覚掴むのに時間掛かっちまったが。」
「……ソウ、ダトシテモ。ドウヤッテ、ワタシヲタベタノ。」
「生憎実体の伴ってない物は喰らい慣れてんだ。」
創作に行き詰った
それに反抗し溶かされた
箇条書きの描写アイデアでしかなくとも書かれたのは事実。
そして今その顎はルーラーの頭に喰らい付いた。
「ア。」
小さくそれが奴の断末魔と成った。
それと同じくして洋館は綺麗さっぱり元の海岸に。
残っている群れは彼が生み出した物だけ。
じきに崩れるそれらを彼は見詰めていた。
「悪ぃ、放り出しちまって。」
「こっちこそ、助けてもらったのにトドメは任せちゃった訳だし。」
「お前がこいつらで時間を稼いでくれなきゃ間に合わなかった、……やっぱり寂しいか?」
「大丈夫だよ、想い出は僕の中から消えないから。」
「俺との接続を切ったっていいんだぞ、そうすれば反ミームからもその足からも解放される。」
反ミームには異常でない物もある。
喩えば共有したくない秘密、或いは理解出来ない情報。
彼が見付けたのは乱雑で纏まりのないアイデアの備忘録。
そこにはダンクルオオオカミの記述もあった。
彼は反ミームの異常性を得る為その一部と成った。
ダンクルオオオカミに新たな設定を書き足すことで。
古代魚ダンクルオステウスから進化したという。
実在の保証を引き受けた結果が人魚の足。
「しないよ、皆のことを守りたいしそれに。」
だからその為の力を望んだ彼の答えは分かっていた。
「君との冒険をまだまだしたいからね。」
彼を背負う、彼もまた首に腕を回す。
彼の足として何処までも行こう。
「それじゃぁ潜れるように成ったみたいだし早速海底火山まで一緒に集めに行こっか、沢山使っちゃってインクが切れそうなんだ。」
「おいおい、こっちはさっき泳げるように成ったばっかだぞ全く。」
CC BY-SA 3.0に基づく表示
SCP-3999 - I Am At The Center of Everything That Happens To Me(私は私に起きることすべての中心にいる)
著者:LordStonefish
(本家)http://www.scp-wiki.net/scp-3999
(翻訳)http://ja.scp-wiki.net/scp-3999
この小説の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。
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