第33話 切り札は俺のすぐ傍に?

 ──


 それから俺は真白ちゃんの退院まで、この部屋に住み着いていたんだ。まぁ住み着くって言うと、ちょっと語弊があるかもしれないから……傍にいてあげたって言い換えておこうかな。


 そんで医院長はともかくナースさんの買収にも成功していたから、俺がここで寝泊まりしていたのは、比較的楽に隠し通すことが出来たんだ。まぁ、ほとんど病室から出られなかったけど。元から出不精の俺からすれば、そこまで苦ではなかったよ。


 ……で。藤野ちゃんたちにあんなお願いをしたくせに、俺が全く働いていないのは流石に忍びなかったので、俺もバイトをすることにしたんだ。


 もちろんこの場所から離れるわけにもいかなかったので、病室でも出来る内職みたいなのを探して、バイトをしていたんだ。例を挙げるなら、クイズゲームの問題制作とかサバゲーのマップ制作とか……この学園ならではの仕事が多くて、結構楽しんでバイトが出来たよ。


 まぁその作ったヤツが採用されなきゃポイントは貰えないし、採用されても振り込まれるポイントは少ないし、自分が制作に関わったゲームには参加できなくなるから……誰にでもホイホイと勧められるものじゃないけれどね。


 それでその俺の様子を見ていた真白ちゃんが「私もやってみたいです!」と言っていたので、途中から二人で内職をしたんだ。もうその頃には、真白ちゃんはすっかり元気になっていたから、安心してくれ。


 俺達はそんな生活を続け、真白ちゃんは無事に退院して。


 そして遂に迎えた四月の最終日────


「おい神谷……どうしてまた、お前の女が増えているんだ?」


 俺達はいつものファミレスに集まっていた。


「こらっ、蓮! 女性の方って言いなさい!」


「……どうして女性が増えているんだよ?」


 不満そうに言い直した蓮に向かって、俺は軽く真白ちゃんの紹介をする。


「ちょっと前に倒れている所を助けて、お友達になったんだ。とってもいい子だから、仲良くしてあげてね?」


 そして真白ちゃんはみんなに自己紹介をする。


「え、えっと私、汐月真白って言います。王子様のお友達とお話するなんて、とっても恐れ多いですけど……よ、よろしくお願いします!」


「……」「……」「……!」


 それを聞いたみんなは一斉に俺の方に視線を向けて。


「神谷……女に『王子様』呼びさせるって、どこまでエグイ性癖してんだお前」


「いやいや勘違いしないでよ!! 俺はそんな命令とかさせてないってば!!」


「ンな訳……」


 そんな全く納得していない蓮に向かって、真白ちゃんは。


「あっ、あのっ! 王子様って呼んでいるのは、本当に私が勝手にしていることですから……あまり王子様を責めないであげてください!」


 と。そしてそれを聞いた蓮はポカーンと。


「……何か弱みでも握られているのか?」


「ちょっと! 少しは真白ちゃんのことを信用してあげなよ!」


 どこまで蓮は疑い深いんだ! 少しは信用することを覚えてくれ!


 そして。そんなやり取りを見ていた藤野ちゃんは、優しく微笑んで。


「そっか。真白ちゃんにとって、神谷君は王子様みたいに見えているんだね!」


「……はいっ! 彼はとっても素敵で、私の……私だけの王子様なんです!」


「フン……どこがいいんだ。こんなヤツの……」


 不機嫌そうに透子ちゃんがボソッと言う。まぁ恋愛マスターの皆さんならお分かりでしょうけれど、これは完全に素直に気持ちを伝えられている真白ちゃんに対して、やきもちを焼いてるってことですね。


 ……なーんて偉そうに解説でもしたら、きっと俺が病院送りになるだろうから、お口チャックしていたけれど。


「それより神谷。前からお前に伝えたかった話があるんだ」


「えっ、何? メッセージでも送ってくれたらよかったのに」


「僕はお前の連絡先を知らないんだ」


「えっ? そうだったっけ?」


 よくよく思い返してみれば、蓮とフレンドを交換していないことに気が付いた。まぁ寮に帰ればいつもいたから、わざわざ端末を使って連絡することがなかっただけかもしれないな。


「まぁそれは後で交換するとして。話って?」


「ああ。僕は仮入学中に、強敵になりそうな新入生をリサーチしていたんだが……そのうちの一人の『田中』って奴が、既に学園ゲーム大会で上位に入賞する結果を残している。今、一番強い新入生って話も出ているらしい」


「へぇ……」


 そういえば蓮は、結構前に「やりたいことがある」って言ってたよな。それがこの強敵のリサーチだったのか。こういった情報は自分では調べる気にはならないので、蓮が教えてくれるのなら結構助かるな。


「ん、学園ゲーム大会って何だろう……?」


「結奈、ボクが説明するよ。学園大会は、学園側が月一で開くゲームの大会で、勝ったらポイントもたくさん貰える、凄い大会なんだ! ……ボクもシュウイチに止められてなければ、ゼッタイ出たのに……」


 恨めしそうに透子ちゃんは俺の方を見てくる。でも『出ても大会向けに対策してなきゃ、絶対勝てないと思うよ』って言ったら怒られるかな。


「情報あんがと、蓮。でもまだそんなに他プレイヤーを警戒しておく必要もないよ。それにこの時点で成績を残しても、きっとその田中って奴もマークされるから、動きにくくなるはずだ……」


「いや、だからな神谷。僕が言いたいのは『今月僕らが稼いだポイントを合わせても、田中に届かないんじゃないか』ってことだ」


「……ああーなるほど」


 それならちょっと話は変わってくる。これまで俺達は1位を取る前提の行動をしていたので、1位を取れなきゃ全ての計画がぶっ壊れてしまうんだ。


 それなら今から俺がカジノに行って、無理やりポイントを増やすか……? でもリスクがあるし、せっかくゲームを封印しておいたのが無意味になるよな。でも多少なら、致し方無いのか……?


「あっ、あの、王子様。王子様達は何をお話されているのでしょうか?」


 考え事をしている俺に向かって、真白ちゃんが聞いてくる。そういえば真白ちゃんには、作戦のことを何にも説明していなかったな。


「えっと、まぁ簡単に説明するとね。俺はみんなのポイントを合わせて、今月の一年生ランキングの1位を狙っているんだけど……」


「強敵が現れてピンチ……って訳だ」


 蓮は笑いながら付け足す。なんだ! なんにも面白くないぞ!


 そしてそれを聞いた真白ちゃんは、ハッと急いで端末を取り出して。


「そ、それなら王子様っ! 私のポイントも使って下さい!」


 俺に差し出してくれたんだ。


「えっ、本当にいいの?」


「はい! 王子様の為ならポイントだって……この身まで捧げられますよ!」


「…………ヤバっ」


 小声で透子ちゃんが言う。その言葉には少しだけ同意するが、ここまで愛してくれる人に出会ったのは初めてなので、何だか嬉しくなってしまうよ。


「助かるよ! 本当にありがとね、真白ちゃん!」


「えへへ……」


 真白ちゃんは照れたように髪を触る。ホント可愛いな、この子は。


「でもシュウイチ。そいつの……マシロのポイントがオマエに移ったところで、焼け石に水なんじゃないのか?」


「いやいや、そんなことはないよ! 彼女も俺と一緒に内職したんだから、きっと役に立ってくれるはず……」


 そこで俺は、真白ちゃんから受け取った端末を見てみて……


「…………は、へっ?」


 開いた口が塞がらなかったんだ。なぜなら彼女の所持しているポイントは……今の俺の三倍以上の数字を示していたからだ。

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