第28話 走れカミヤ!

 ──


「……ふぅ」


 そんな訳で、夕日も沈みそうな午後の放課後。俺は学園の外れを散歩をしながら、バイトが出来そうな場所を探していた。


 あんな風にかなり無茶な指示をみんなに出した以上、俺が誰よりも先に行動しなきゃいけない、って思っていたのだが……


「どこで働くべきかな……」


 未だに俺はバイト先選びに悩んでいた。この学園は遊園地だのゲーセンだの映画館だの、楽しい場所がある分、働く場所も多いのだ。これは嬉しい悲鳴とでも言うべきか……ちなみにどこも人出は足りていないらしいので、基本は選びたい放題である。


 ……まぁ。蓮にあんなことを言った俺だが、正直ゲームで稼ぐのはさほど難しいことではないと思うんだ。こんな風に女の子とイチャイチャしてばかりだと忘れてしまいがちだが、一応俺はすんごいゲーマーなのである……嫌味に聞こえるかもしれないけど、実際そうなんだから仕方ないだろ。プンプン。


 それに久しぶりにネット覗いてみたら、案の定『Kamiya死亡説』が流れてたもん。『ああ、我らの神は死んだ……』ってやかましいわ。ちゃんと生きてるよ。


 ……まぁかなり話が逸れたけれど。それでも俺が頑なにバイトで稼ごうとしているのは、それなりの理由があるんだよ。それは蓮にも言った通り、この時点で『ゲーム』によって注目されるされるのは、かなりリスクがある行為なんだ。


 それにノーマークだった謎の人物が、いきなりランキングの頂点に君臨するのは、中々衝撃的なことだろうから、きっと美味しい展開になるだろう…………って。


「……えっ?」


 思わず俺は足を止めてしまった。何故かって……それは俺の目の前に、制服姿の女の子が。歩道上にうつぶせの状態で倒れていたからだ。


「……………………へ?」


 人間、予期せぬ状況に遭遇した場合、しばらく動けなくなるってのは本当だったらしくて。俺は数秒固まったままで、上手く頭が回らなかったんだ……何だ、どうして、俺はすぐに気が付かなかったんだ! よそ見しながら歩いていたからか!?


 そもそもこの子はいつから倒れて……! この場所はそこまで、人通りは少ないって言うのか……! 俺はどうすりゃいいんだ…………!?


「……おっ、落ち着け。しっかりしろ、神谷!」


 そうやって俺は口に出して、自分に言い聞かす……そうだ。後悔するくらいなら、次の策を一秒でも早く考えるんだ! それが最強ゲーマーの思考法じゃないか……!


 俺は急いでその子の方に駆けつけて、声をかけた。


「なぁ、君っ! 大丈夫か! 意識はあるか!?」


「……」


 反応は無い。脈は………あるのか? こんな冷静じゃない自分が、医者みたいなことをしたって無意味だ。それなら俺は、意味のある行動をしなくてはならないんだ。


 救急車を呼ぶべきか? そもそもこの島にあるのだろうか? ……多分あるよな。こんな学園だし、無い方がおかしいもんな。いや。だけど。こんな路地みたいな場所に救急車が、来ることが出来るのだろうか?


 この辺には道路らしい道路も無いし。来れたとしても、相当な時間を要するだろう……だが。このままこの子が、目覚めるのを待っているのも無理だ。不安で頭がおかしくなってしまいそうだもん。


 それなら……かくなる上は。


「マップ! 病院の場所を教えてくれ!」


 端末を取り出して、マップで病院の場所を検索した。そしたらすぐに機械音声が返事をして、北のほうにあるらしい病院の場所を、赤いピンで突き刺した。


 ……約一キロか。少々遠い気もするけれど……運べない距離ではない。


「ごめんね。ちょっと触れるよ」


 緊急事態とは言え、こんな道で遭遇しただけの男に触れられるのは絶対嫌だろうけれど。最悪訴えられるかもしれないけど。


 ……俺は後悔したくないんだ。見捨てるなんて真似は、絶対に出来ないんだよ!


「……ふっ!」


 俺は少女を持ち上げた。少女の身体は予想以上に軽くて、とても華奢で、精巧に造られた人形のようで。少しでも雑に触れてしまったら、いとも簡単に壊れてしまいそうな……そんな感覚を覚えたんだ。


 そして彼女は透き通るような真っ白な肌をしていて、持ち上げても地面についてしまいそうな、長い髪も印象的であった。


 間違いなくこの子は『美少女』である、と俺の中のセンサーか何かが暴走しているのが分かった……だが、今はそんなことを思う余裕など無い!


「よし、急ごう!」


 それから俺は少女をお姫様抱っこのような形で抱えて、一心不乱に病院の方向へと駆けていくのだった。

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