第19話 あかりんの膝枕はとっても柔らかい
そしてスポットライトの光は1箇所に集まり……青と白の華やかな衣装を着た少女が、マイクを片手にステージ裏から出て来た。
「うおおぉおおぉっっ!!!」
観客席は大きな歓声に包まれる。
最前列にいた俺からは、その子の顔をハッキリと見ることが出来たんだ……うん、確かにとても可愛いお顔をしている。
そしてスタイルも抜群だ。スレンダーな体つきかと思えば、たわわに実ってる部分もよく目立っている……まぁすっげぇ下品っぽく言うのなら『ボンキュッボン』って感じだな。
これは学園中の男達を魅了してやまないのも頷けるなぁ……
そんなゲスなことを思いながら、俺はステージ上を眺めていると。あかりんはニコッとこちらに笑顔を見せて、口を開いた。
「みんなー! 今日もあかりんのライブに来てくれてありがとね!」
「うぉおおおおおっっ!!!」
あかりんの呼びかけに、オタク達は地を揺らす程の雄叫びを上げる。す、すげぇ……鳥肌たったぜよ。
「それじゃあ早速1曲目いっくよー!」
そしてあかりんの合図で、メルヘンチックな歌が始まった。
……聞いたことのない曲だな。もしかしてオリジナル曲なのか? というかあかりん、歌唱力も高いな。マジでアイドルじゃん……!
「……はいっ、せーの!」
「世界で1番可愛いあかりん!!!」
いや、何だよそのコールは。俺知らないってば。
……しかし。こちらは最前列を譲って貰っている立場だし、このまま棒立ちの状態でいるワケにもいかないよな。とりあえず、それらしい動きでもしておくか。
俺は見よう見まねでペンライトを振ってみる……そしたら織田っち先輩が、俺に見せつけるように大きく、そして素早くペンライトを振ったのだ。
ええ……? もっとこのくらい振れと? そんなプロの指揮者みたいな動き、俺にはできっないってば。無茶言わないでくれよ……
「……」
だけど。チラッと見えた、織田っち先輩の横顔はガチだった……ちょっと。あの優しい先輩はどこに行ったんすか。ねぇ。
「……神谷殿」
先輩は俺の耳元でこっそり言う……ああ、分かりましたよ。やりますよ! 全力でやってやりますよ!!
そして俺は恥を捨て。織田っち先輩の動きを真似て、キレッキレなオタ芸みたいな踊りをライブ中にずーっと行っていたのだった。
もう途中からあかりんを見る余裕もなかったのは、言うまでもない。
──
「はぁ……はぁっ……ぐがはぁ……」
「お疲れですぞ、神谷殿。初ライブにしては、中々冴えた動きをしていたように思えましたな」
そんで……ライブを終えた俺は疲弊しきって、フラフラの状態になっていた。多分軽い熱中症になってしまったのかもしれない。
「はぁ……めっちゃ動きますねこれ……応援舐めてましたよ……ううっ。気分悪い……」
「まぁこの熱量だと体調を悪くするのも無理はないですな。ライブにタオルとかスポーツドリンクは必須品ですが……流石にこれらは貸すワケにはいけませんからな」
ドリンクは分かるけども。タオルも駄目なのかい。
そして織田っち先輩は心配そうに。
「しかし……我はこの後、ファンクラブの方と感想を語る集まりに行くので、神谷殿とはここでお別れすることになりますが……本当に大丈夫ですかな。1人で寮まで帰れますかな?」
「あっ、ああ……大丈夫っすよ。ちゃんと帰れますから」
実際は全然大丈夫ではないのだが。これ以上、織田っち先輩に迷惑かけられないもんな。
「ええ、分かりましたぞ。それではまた!」
そして俺の言葉を信じた織田っち先輩は、手を振ってここから去って行ったのだった。
それで他の観客もみんな帰って行く……しかしこの群れにまた揉まれると、本当に吐いてしまうかもしれないよな。
だから少しここで休んでいこう……うん。ちょっとだけならいいよね。ここの日陰のベンチに座って……横になって……眠りに……
──
「……んっ?」
俺はぷにぷにで柔らかい。その謎の感触を頭に感じながら目を覚ます。
「あっ、起きた?」
「……ふぇっ?」
声の主を確認すべく、俺は急いで起き上がる。そして隣を見ると……そこには。
「おはよー。もう大丈夫?」
「あっ、もしかして……キミ、さっきの!」
制服姿に変わっていたが……紛れもない。さっきステージ上で見た、あのアイドルの『あかりん』が座っていたんだ。
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