第16話 幸運の持ち主?
──
「おい、ちょっと! 待てってば!」
「……ん?」
カジノを出てすぐに、さっきの少女に呼び止められた。どうやらここまで追いかけてきたらしい。
「あー、さっきのボクっ子少女。どうかしたの?」
「だからその呼び方は止めろってば! ボクには
おお、今になって名前を知るとは。ならばここは俺も名乗るのが礼儀だな。
「ああ、ごめんごめん。俺は神谷修一。それで透子ちゃんは何か用かな?」
俺がそうやって聞くと、透子ちゃんは若干言いにくそうに、小さな声で。
「えっと、その……悪いから返すよ、ポイント。騙されて奪われたのは、ボクだけだからさ……オマエには関係ないだろ?」
「あっ、そう? それなら返してもらおうかな?」
「…………」
そしたら透子ちゃんは何か言いたげた顔をしたが……覚悟を決めたのか、端末を取り出してポイントの画面を開いてみせた。
……可愛い子を見ると、ついイジワルしたくなっちゃうのは、俺の悪い癖だよな。
「ははっ、冗談だよ。透子ちゃん、既にポイント全然無いでしょ? だからそれは、透子ちゃんが持ってていいんだよ!」
「ど、どうして分かるんだよ?」
「だって透子ちゃん、とっても騙されやすそうなオーラが出でるんだもん」
「騙されやすいオーラ……?」
どうやら自覚が無いらしい。
「うん。言い換えるのなら……とってもピュアで優しいオーラかな?」
「や、優しいって……オマエ、ボクのこと何も知らないだろ?」
「うん、知らないよ。でも当たっているでしょ?」
「そんなの、全然違うってば……」
「あははっ、透子ちゃんは可愛いな!」
「……ッッ!! 可愛くないもん!!」
照れ隠しだろうか。『そういう所も可愛いね』なんて言ったら、今度は本当に噛み付いてきそうだから、黙っておくけど。
そして透子ちゃんはこの話を続けたくなかったのか、焦ったように話題を変えた。
「そっ、それよりオマエ! 本当によくアイツらに勝てたよな! そんなに幸運の持ち主だったのか! スゴいな!」
「いや? あんなの全然凄くないよ?」
そしたら透子ちゃんは、またまた困惑して。
「はっ、えっ? だってあんなロイヤルストレートフラッシュだなんて滅多に出るわけが……?」
「ああ。あれは袖に仕込んでたんだ」
「えっ……!?」
衝撃を受けたのか、透子ちゃんは目を見開いて動きを止める。そして震えながらゆっくりと俺に指を向けて……
「しっ、仕込んでたって……まさかオマエもイカサマしていたのか!?」
「まぁそういういうことになるね。もしかして、ガッカリしちゃったかな?」
「……」
透子ちゃんは何も言わずに目を伏せて、悲しげな顔をした……うん、その気持ちはよく分かるよ。
自分を助けてくれた『ヒーロー』だと思っていた人物が、実際は相手と同じ行為をしたイカサマ野郎って気がついたら……多分俺だってそうなるもんな。
「まぁ……これは言い訳だけどさ、俺は基本的にズルはしないよ。ゲームをつまらなくするからね。でも……相手が不正を使うなら、話は変わってくるんだ」
そう言うと透子ちゃんは顔を上げて。
「じゃあどうやって……どのタイミングでカードを仕込んでいたんだ!」
「ああ、それは簡単だよ。カジノに入る前に仕込んでいたんだ」
「……えっ? そんなことが出来るワケ……」
「それが出来るんだよね」
続けて俺は、カジノの傍にある売店を指さして。
「あそこの売店で売っているトランプと……ここのカジノで使われているトランプ。これらは両方とも、全く同じ物だったんだ」
「ええっ! 同じ物なのか!?」
「俺も驚いたよ。もしかしたら、とは思ってたけど、本当にそうだったとはね」
まぁ、使うつもりはなかったんだけれど。
「……でもさ、少し不思議じゃない? わざわざこんな近くに、カジノと同じ種類のトランプを売ってる場所があるなんてさ。まるで『イカサマに使って下さい』とでも言いたげな感じだよね?」
それを聞いた透子ちゃんはハッと。
「えっ、まさか……学園側がイカサマを推奨しているってことなのかっ!?」
「まぁ表向きは不正禁止って、口を酸っぱくして言っているけど。本当はそういうことなのかもね?」
そして俺はポケットからトランプの箱を取り出し、それを透子ちゃんの小さな手にポンと乗せて。
「だから透子ちゃんも気を付けなよ。この学園ではイカサマを行う、俺みたいな悪いヤツばかりだからね?」
「…………ちがう」
「えっ?」
「オマエは多分……良いヤツだ。ヤツらみたいにイカサマをしたのかもしれないけど……それはボクを助ける為にやったイカサマだ! だっ、だから……」
透子ちゃんは言い慣れていないのか、恥ずかしそうに俺から目を逸らしながら。
「……あ、ありがとな。オマエがいなきゃ、ボクは本当にポイントを根こそぎ奪われていた……と思うからな」
「うん、どういたしまして……って言いたい所だけど。その『オマエ』って呼び方はちょっとやめてほしいな。俺にも一応名前があるからさ」
……まぁぶっちゃけ、お前呼びされたままでも良かったんだけど。
でも折角なら、可愛い子には自分の名前を呼んでほしいじゃん! 助けたのだから、それぐらいの贅沢は許されるだろう!?
そして透子ちゃんは少しだけ申し訳なさそうに「……そうか」と言った後に。
「じゃあ……しゅ、シュウイチ。助けてくれて、どうもありがとなっ!」
と吹っ切れたのか、笑顔で言ってくれた。やはり美少女には笑顔が一番似合うや。
「ああ、どういたしまして! 透子ちゃん!」
──それから俺らは少しだけお喋りをして、フレンド登録をした後……各々の寮に帰ったのだった。
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