第5話 旅立ちの日

—1—


 騙し合いを続けて約2年。

 とうとう郡山先輩の旅立ちの日がやってきた。


 卒業式には在校生代表として私たち2年生が参加した。


『卒業証書授与』


 郡山先輩が担任の先生に名前を呼ばれてステージに上がる。

 私はその姿を見てこれまで先輩と過ごした時間を1つずつ辿るように思い出していた。


 入部初日から騙されて、そこから騙し、騙される毎日。

 誕生日のサプライズは今でも忘れない。


 先輩と過ごした時間が私の高校生活に色を付けてくれた。


 卒業か。流れ出る涙をハンカチで拭う。

 顔を上げると、ステージから降壇する先輩と目が合った。ヤバっ、泣いてる顔、見られちゃったかな。


 卒業式はつつがなく進行し、在校生が花のアーチを作って先輩たちを見送る。

 郡山先輩も少しして私と美鈴みすずで作ったアーチを通過した。


 言葉は交わさなかった。いや、交わせなかった。

 これで最後だと思うと言葉が喉に引っかかって出てこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る