第149話 耐性/観察日記3
階段に避難して座ってから少し、これまでとは比べ物にならない轟音が響いてきて階段を揺らした。
やっぱりステータスが100も上がれば威力は段違いに上がる。階段と階層はこれまで結構別次元のような隔離っぷりだったけど、ここまで影響するようになったのなら喜ばしい事だろう。そして、この威力を相手どった床とかはキッチリボロボロになってくれてるはずだよ。きっと。
寝れば早いけど眠くはなかったからひたすら無心でボーッとして、MPの回復を図った。MP枯渇間際の倦怠感にはまだ慣れていない。
MPが50%を超えたからそろそろ粗熱も取れただろうという事で“≫≫≫”床階層に再度降り立つ。
............さて、これはどうしようか。
階段は無事。
だが、それ以外がヤバい。
階段を中心に添えた溶岩池。天井からはぽたぽたと赤い液体が垂れている。階段よりもこっち側で範囲をいい感じに絞って自爆ったのか、中央付近になるほどボコボコ沸いているし天井もヤバい。俺がいる方向と逆側はまだ“≫≫≫”床が残っておられるのが証拠。ヒヨコのお汁ばら撒き事件、犯人はお前だ!! これにて解決!! 真実はいつも一つ!!
さて、オレはどうやって階段に行こうか......
こんな中を助走からの滑空で移動して無事に階段にホールインワンすれば先に進めるってのはとてもシンプルなんだけど......如何せん残機は1、天井から滴る邪魔な攻撃有り、ホールインワン意外は全てOBというゲロ吐きそうな難易度のホール。
果たして“≫≫≫”床と現状、どっちが難易度が高かったのか......
......よし、冷めるまで待とう。暑いし。
あ、いや待て......おっと。うん、そう、そうだな。コレに浸かって耐熱トレーニングしよう。毎回毎回いい感じにしろって思う位ヒヨコ熱でダメージ受けたり、肌を焼かれてるのはやっぱり馬鹿らしいよね。
「そうと決まれば、さて、やりますか......」
決心が鈍らないうちに素早く服を脱いで初期の頃によく見たスタイルになる。もう既に焦げてきててちょっと挫けそうになってるけどこのまま勢いで突撃すればいいんだ。やればできる。
「あ゛っ」
予想よりも数倍えげつない痛みが、守ってくれる物のない無防備な爪先を襲った。
火山にジャイアントでストロングなエントリーをした汎用ヒト型決戦兵器の二号機でさえ防具を着けていたんだもの。俺なんかが耐えられるはずは無い。
「や、やばっ......」
爪先から脛辺りまでが一気に熱によって溶解してしまった。脛辺りは燃えている。マグマ怖ァ......
そしてまだ余裕だと思ってこの後どうしようと考えていた......が、バランスが崩れてしまい俺はマグマダイバーまで秒読みになっている。
やばい、やばい、やばい――あ、無理だコレ。
「血が尽きる前に耐性生えればいいなぁ......」
諦めた。無理だもん。
こうなったら俺は俺のひよこパワーを信じる。と言うか、信じざるを得ない。
「あいるびーばっく」
デデンデンデデンというBGMを脳内再生しながらヒヨコ汁の中へ落ちていった。
◆◆◆◆◆
羽化してからのワタシは積極的に狩りをして力を蓄えていった。休む時はかなり
それと、あの変な生き物に置いていかれた階層に居るモンスターはとても狩りやすかったのもある。狩りが容易で美味しくて、まさに一石二鳥。
そういった偶然も重なって、呪女王蜂は順調に成長を続けていく。身体が全然大きくなっていかないのが少し悩みであった。だが、それは進化時の無意識下で生存本能が働いた所為である。憧れの母女王蜂のような立派な体躯にはもう成れない事にまだ気付いていない。
「ギィィィィィア」
今日もまたオークを狩る。
呪いの針で突き刺して自由を奪い、生きたまま喰らう。
食事の邪魔をされた時は、怒りのままに呪いと爆発の併さった針を容赦なく放って殺す。そして喰らう。
食後には針を突き刺して血を死ぬギリギリまで吸って弱らせ、呪いで動きを奪い翌日の餌として放置して拠点に戻る。翌日ソレが残っていればそのまま食事、残っていなければスキルの考察がてら新しいのを狩る。
それを何日も何日め繰り返していると、新しくリポップしてリセットされたオークでも呪女王蜂の存在を確認した途端恐れて逃げるようになった。
これで狩りのペースが落ち、イライラが募るようになっていた。
自然界で生きる蜂とやっている事はそう大して変わりはない。
ただ、その行動の一つ一つがやけに生き物にとって凶悪な事を見ないようにすれば......と注釈が付くが。
「ギィィィィィウ」
さて、最近落ち込んできている狩り効率を上げる為に四苦八苦している呪女王蜂。なんとかしてレベルを上げると共に身体にエネルギーを溜め込みたかった。
そんな呪女王蜂は考えてこれまでそんなに使って来なかった【魅了】を試していた。持っているスキルはなんとなく使い方がわかるのだが、何故か【魅了】だけが上手くいかない。
どんな生き物でもメスとわかれば股間をおっ勃てて襲いかかる【魅了】の練習にはもってこいな相手と言っても過言ではない単細胞なオークが相手でも、何故か上手くいかない。呪女王蜂は悔しそうに鳴く。
だからもう呪女王蜂はオーク共を餌としてしか見ていない。【魅了】は一応これからも試していくけど、オーク以外の相手の時に本気出そうと心に誓った。
――ファンタジー小説での【魅了】は、オスならば誰でも意のままに操れる......そんな風に描かれている事が多いが、ここでの【魅了】はただただ自身をより魅力的に魅せて判断力を奪う為の物であった。使用方法が何となくわかっていても、効果はわからない。ステータスを開いたりする知能か鑑定があればまた違った結果だっただろう......
オークが呪女王蜂を見て思う「モンスターだけどキレイな蜂だなぁヤりてぇ」が、「やっべ、あの蜂堪らん!! ヤる!! 絶対にヤってやんぞ!!」と変わっていた事に......呪女王蜂は気付かない。ファンタジー風の効果と勘違いしている呪女王蜂故に、今後階層を変えて【魅了】を使ったときに大変困惑してしまうのだが、それはまた別のお話。
さて、【魅了】の運用にある意味成功しているのだが失敗したと思っている呪女王蜂は腹いっぱいになった事で思考に専念し始める。今日でほぼ一通りの覚えているスキルは試せた。どれも有用で強力。自身としては大満足な結果となっていた。
――が、ほぼというように未だに試せていないスキルがあった。そろそろ使ってみるべき時......なのだが、踏み出せない。
動けるようになったら真っ先にやるべきと思われるスキルが試せていないのは、そのスキルの使用がノーリスクではなかった事が原因だった。
【眷属生成】という名のスキル。
生成というように、自らの血肉等を供物として自らに従順な眷属を生成するスキルであった。成体と成ってからこれまで、血肉等を捧げる程の余裕は無かった。
今でもまだ、兵隊と引き換えに弱体化する恐れのある方法をとるのには不安がある。女王蜂としてならば、一も二もなく初手からやるべきなのだが、女王蜂としては逸脱してしまっているが故に【眷属生成】は如何せんリスクしか無い。
そして当然【眷属生成】を使用していないので、もう一つの【眷属凶化】も使用出来ていない。
その【眷属凶化】のスキルの内容も、いまいち【眷属生成】の使用を躊躇わせるモノだった。
自分自身の血肉と他モンスターの魔石や血肉、ドロップ等を捧げて眷属を狂化していくというモノ。強化ではなく狂化と言う不安定さ、自分自身込みの魔石や血肉の使用。これではソロの呪女王蜂が躊躇ってしまうのも仕方ないだろう。
「ギギュィィィィィィ......」
考えまくっても結論は出ず、割と雑になってきた思考を中断させ、口直し&気晴らしに血蜜結晶を齧って気持ちを切り替えた呪女王蜂。
血蜜結晶とは【血蜜結晶化】スキルでお腹いっぱいになった時に余った血や肉を結晶化させるスキルだ。何故か血と肉が甘くなって蜜の結晶になるという不思議なスキルで便利と思うだろうが......日に一定の量しか作れないから、食べ残しを非常食として拠点に持ち帰って置いておく為のスキル。と言っても甘味はやはり嬉しい呪女王蜂。
そんな呪女王蜂は今日も頑張って生きている。変な生き物が持っていたカバンという物が切実に欲しいなと思いながら......
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カースドクイーンズビー
レベル:0→32
職業:呪殺女王
HP:100%
MP:100%
物攻:26→32
物防:48→60
魔攻:122→144
魔防:116→138
敏捷:108→142
幸運:46
スキル:
眷属生成
眷属凶化
呪縛
凶呪針
呪爆針
吸血針
妨害羽音
血蜜結晶化
高速飛行
魅了
暴力と血の悪魔の下僕
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