第91話 パニック
公言していた今週の二~四話更新、最後の四話目です。この週末は節分イベントに強制参加させられるので......多分今週はこれが最後かと。
それと今回は人によっては不快に思われる描写があるのでご注意ください。
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『レベルが7上がりました』
「ふぅ......」
レベルアップのアナウンスがミミックとツボ退治が終わったことを告げる。戦闘というよりバッティングとモグラ叩きのようなスポーツだったとでも言うように。良い汗かいたという表情で頬を伝うを拭う匠が佇む。
ただ、部屋の中は宝箱と壺の残骸とドロップした魔石が散乱していて、押し込み強盗が侵入った後のような散々な光景なのだが。
「当たりの宝箱と壺は0かぁ......ドロップも綺麗な魔石だけって......いや、絶対に何も残らないような壊し方をしてもドロップ率が100%なのは良いことなんだろうけど......もし魔法袋無かったら全部拾えなかったからあんまり喜べない結果だ」
倒せさえすればR以上確定ドロップの珍しいモンスター、しかも特殊環境下でスクスク育ったこれらのモンスター故にドロップした魔石は全てSR以上なのだが、予備知識の無い匠にはそれがわかっていない。
錬金術や呪術の触媒、魔道具のコア、装備の格上げ、魔法の底上げ、召喚獣や召喚術への対価等、その用途は多岐に渡る。上質であればある程需要は高まる。
ミミック32体、ツボ18体の計40個の希少な魔石を前にした喜びよりも、これらを拾う事に対して面倒臭さが前面に出ている匠は全ミミックハンターから袋叩きにされても文句は言えない。ちなみに、これらを全てババアの居た世界で売り払えば豪邸を購入して贅沢三昧して暮らしても、死ぬまでに全て使い切れるかという額になる。
「......ちぃっ」
ミミックの残骸、ツボの破片に手を伸ばし回収を試みるも、最初に魔石を拾った時の通りやはり血の回収は0。手が謎の粘液で汚れただけであった。
「水魔法覚えたいなぁ......」
手持ちの衣類で一番ボロボロな服をタオルにして手の汚れを拭き取り、その服に拾った魔石を包んで回収。原始的な生活をしているが匠も元は現代日本人、汚れればそれなりにテンションは下がる。
「......はぁ、進むか」
重い足取りでミミック部屋を後にした。部屋の先は階段でこの階層の終わりを告げている。
短いなと思った匠だが全体的にテンションが下がることの多かったこの階層が終わるのは嬉しかった。
重すぎた足取りが、階段を降りる際には少しだけ軽くなっていた。
◆◇原初ノ迷宮第六十二層◇◆
階段を降りきった先の光景に匠は目を見開き、驚きを顕にした。
密林
全体的に薄暗くジメジメとしていて、ワンフロアぶち抜きの非常に広域なフロア。地面は泥濘み辺りは鬱蒼とした木々に覆われていて視界が制限されていて非常に面倒そうだと見た瞬間に思った。
「不意打ちで荷物をやられないように注意しないとなぁ......【空間把握】に頑張って貰わないと」
呟きながら全力で【空間把握】を作動させると、即座に数多の反応が飛び込んできて思わず顔を顰める。
【空間把握】は周囲の地形などの情報はもちろん、生き物の情報も同時に集めてしまう。木に棲みついている大量の虫、生えている草や土中、石の下などに居る虫などの位置情報、チラホラ散見されるモンスターと思しき個体の位置等が全てが頭に飛びこんできた。
「う゛っ......」
一度に大量の情報が雪崩込んで来た事と、草木の陰で蠢いている虫たちを想像した事で気持ち悪くなってしまい、慌てて【空間把握】を切る。
見通しの悪さからくる不安でつい全力の【空間把握】をしてしまった事を後悔しつつ、乱れた呼吸と精神を正常に戻す事に注力する。
今すぐヘタり込みたい所だが、泥濘の中に座りたいとも思えず意地と根性で耐えた。
「......進むか」
ぐじゅぐじゅとした地面に足を取られぬよう、注意しながらゆっくりと歩みを進めていく。
不思議なことに一度もモンスターにエンカウントせず十五分程歩き続けた匠は洞穴に行き当たった。
羆が立ち上がっても大丈夫なサイズの入り口を前にして入るか入らないかの二択を迫られる。
「入る」
自問自答に至るまでもなく既に答えは決まっていた。
慣れない泥濘み、邪魔な蔓草に枝や葉、蚊や蚋、蜂に虻らしき羽虫がブンブン飛び回り、それらが非常に鬱陶しく感じストレスが溜まっていた。休めるような造りなら休みたいと思ったので何も考えずに即決で侵入する事を決めたのだった。
「コンクリートジャングルで生きてきた人間には舗装されていない未開の地はとてもストレスが溜まる環境なんだということを思い知らされたよ......」
洞穴に一歩踏み込めば硬い地面がしっかりと足裏を押し返してくれる。こちらも未舗装なのだが、泥濘んだりしている所謂歩くのに適していない地面と、歩くのに適している地面の差を言いたかったのだろう。
荷物を放り投げ、大の字に寝転ぶ。硬い地面だが今は立っていたくなかった。
荷物に気を配り、慣れない地面と悪戦苦闘し、羽虫が注意力と集中力を奪い、気候も人が住むのに適さない......そんな環境から少しだけだが脱却した事、しかけた事で匠の気がガッツリ弛んだ――
だが、ダンジョンは気の弛みを許さない。
洞穴に入る前に空間把握を使って調べていれば、この後に起こる悲劇を回避出来ていたのかもしれないが、事が動き出した今ではもう後の祭りである......
「あぁぁ......大して歩いてないのに疲れた......くっっそ面倒だな此処......」
――ボトッ
目を閉じてそう呟く匠は、不意に聞こえてきた嫌ぁな音に驚き目を開く。
「ヒッッ......ッッ!!!??」
――ボトボトッ
――ボトボトボトボトッ
顔の横に黒いウネウネしたモノがいて悲鳴を上げかける上を向き......飛び出しかけた悲鳴は最後まで上げることは無く悲鳴を飲み込まれてしまう。
顔面、胴体、四肢、頭にナニかがいる。視界はいっぱいの黒いウネウネ。まだまだ落下してきているのだろう、ボトボトという音は未だ止まずに落下の衝撃が身体を打ち付ける。
長い長いダンジョン生活の中でバグっていった倫理観やグロへの耐性を得ている匠でも、流石にコレには耐えられなかった。
明確な敵意を持って襲ってくる大量の虫を目の前にして......それも気が抜けた瞬間にやられれば冷静に対処するのは難しい。この状況で冷静な対応ができる現代日本人は極小数と言っていいだろう。
「ッッ!? ......うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
触れたくない、触れられたくない。だがこのまま手を拱いていてもやってくるのは、死のみ。
身体中を這いずり回り、吸着する感覚が何処彼処からも襲い来る中で必死に身体を捩り、手で払い続ける。
ブチュッ
グヂュッ
手足を動かせば手足に潰した感触が、身体を捩っても同様に......潰しても潰しても潰しても潰しても、ドンドン追加の虫が降ってくる。
叫び声はもう上げようと思わない......口を開けたら中にヤツらが入ってきてしまうからだ。もう二度と生きた虫を口に入れたくはない。
「ンンンンンンンンンンっっ!!」
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いッ
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バミキュライト
レベル:30
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致命的な箇所に侵入をされないよう無心で抵抗しながら見た、俺に向かって降ってきているヤツらのステータス。落ちてくる前は石のよう、降り始めると変化して見た目は蛭っぽくなるんだけど......詳しくはわからない。
とりあえず俺はこれ以降コイツら及び近縁種を見かけた場合、何を捨て置いても根絶やしにしようと動くだろう――
この状況から無事に生き延びれたのなら......になるが。
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吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:35→42
HP:100%
MP:100%
物攻:200
物防:1
魔攻:110
魔防:1
敏捷:170
幸運:10
残SP:30→44
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残607.2L
不死血鳥
部分魔化
血流操作
簡易鑑定
状態異常耐性Lv8
拳闘Lv8
鈍器(統)Lv6
上級棒術Lv2
小剣術Lv7
空間把握Lv10
投擲Lv8
歩法Lv7
強打
強呪耐性
病気耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv9
溶解耐性Lv6
洗濯Lv2
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
夢魔蚕の服一式
火山鼠革ローブ
再生獣革のブーツ
貫突虫のガントレット
聖銀の手甲
鋼鉄虫のグリーブ
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
迷宮鋼の棘針×2
魔法袋・小
ババアの加護ㅤ残高13680
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