第80話 懐かしくて厄介な状態異常
「............」
重心や姿勢を意識して何時不意打ちされてもいいようにしていたけど、扉の先にあったのは下に降りる階段が一つあるだけだった。階段やったー! とは決して思えない。うん、罠にしか見えない。
一旦引き返そうと思って後ろを振り返れば、真っ黒な靄のようなモノが扉を飲み込んで消えようとしている場面だった。
「死体置き場へは一方通行でその先は階段以外何も無い部屋......どうしようもないし素直に降りるしか無いんだろうけど......」
退路は無し!! 前進あるのみ!!
何このクソイベント......強制負けイベントの後にまた強制イベントとか......本当にこのダンジョン作った人嫌いだよ......
「はぁぁぁ......行くか......」
この先ではどんな辛辣な出来事が起きるか――そんな事だけしか考えられず、自然とテンションは下がって行く。
装備の更新出来ていなかったら最悪だった。
◆◆◆◆◆
◇◆原初ノ迷宮第??層◆◇
............
..................
「何も無いのかよッッ!!!!」
階段へ足を踏み入れても、階段を降りようとも、階段を降りきっても、新しい部屋に進んでも......そう、何も起こらなかった。
ダンジョンとしては理に適っているのだろうけど、される側としたら堪ったものではない。気を抜けないと思い込ませて身体も精神も疲弊させる悪辣さは本当に許し難い。
でもまぁ、あのクソ鎧と今再戦とならなくてよかったと思おう。その代償が精神的肉体的疲労ならば安いものだろう。
「さ、気を取り直して先に進もう。せめて頑張れば何とかなる程度の強さの敵がいいなぁ......おっと、扉を発見。なんかこの先ボス戦! って感じの扉だァ」
クソ鎧の所為で......いや、クソ鎧&罠で減った血液ストック。現在自分の居る階層もわからないので敵の強さもわからない。未知が過ぎるこの現状、先に進むしか選択肢が無いのが地味に不安を掻き立てる。
「OH......」
案の定、こちらの予想は的中。
意を決して開けた扉の奥には、『らんらんらららんらんらん、らんらんらららん』ってBGMが聞こえて来そうなボスが待ち構えていた。
──────────────────────────────
ハイデンシティワーム
レベル:78
──────────────────────────────
コイツが格上なのは間違いないだろう......だけど、レベルが三桁になっていない時点でなんとかなりそうな気はしている。コイツはこちら側だ。
名前を見てもワーム種、芋虫系統としかわからない。ハイって付いているから上位種なのか、ハイデンって都市を滅ぼしたor出身のワームか程度にしか予想が出来ない。
なのでこれからやる事はいつもと変わらず。とりあえず作戦名は一発当ててみればなんか色々わかるだろう......だ。
幸いボス戦なのでこちらから戦闘開始位置まで踏み込まないと戦闘が始まらないので、しっかり準備を出来る。
手持ちの武器を全てセット。背中に金砕棒と金棒を二刀流の剣士みたいにし、ヌンチャクは折りたたんで腹とズボンの間に差し込む。
ブーツの間に肉食ナイフ、短槍はベルトに、寸鉄はポケットへ......両手にはあの忌々しい棘を持ち準備完了。荷物と魔法袋は部屋の入口付近に魔法袋を戦闘の余波から庇うような形で荷物の後ろに置いた。
「ッッ......ふぅぅぅぅ、行くぞっ!!」
忌々しい棘を持つ手に力を込め、全力で地を蹴りクソデカ芋虫の懐へと飛び込んだ。
警戒はしていたみたいだけど、どうやら素早さでは俺が勝っていたようで反応がワンテンポ遅れている。先手必勝!! 俺は右手に持つ棘を振りかぶり全力でヤツの側頭部らしき場所を殴打した。
――キィィィィィィンッ
「はァ!?」
思っていた音と違う澄んだ高音が耳へ届く。
ワームは殴打に怯む事無く、小さい歯がビッシリ生えた口で反撃の噛み付きを仕掛けてくる。口に溜まった糸を引く唾液はどうやら酸らしく、地面に落ちるとジュウと音を立て白煙を上げている。
「チッ......汚ぇんだ――よッ!!」
殴打は棘では効果無しだった為、今度は左手で持った棘を使い刺突を試みる。
「Syaaaaaaaaa!!」
余り力を乗せられていない刺突は当然突き刺さる事は無かった。だが、多少は効果があったらしく当たった部分は軽く凹み、オマケでワームと距離は取れた。
しかしこちらも無傷での離脱とはならず、左肩の脱臼っぽい負傷をし、左手甲に酸の唾液が一滴浴びたらしく溶けていく。
鋭い痛みと熱さの中、確か溶解に耐性を持っていた気がすると気付く。まぁ最序盤で気休め程度のレベルのを手に入れただけだったので全くスキルは効果を感じない。酸がクソ厄介だし、中途半端な耐性がある今って結構キツい気がする......
すかさず距離を離し一息吐く。あのスライム懐かしいなぁと思い出に耽けりながら再生を待つも、イマイチ再生する気配が無い。
「......チッ、まさかとは思うけど一度完全に溶けきらないと再生が始まらない......とか?」
酸を浴びた左手を見ると手の部分はもう無く、手首からジワジワと無事な左腕方面へと溶解が進んでいる。得たばかりの服に飛び火......いや飛び酸する前に処置しないといけない。接地していないローブは無事だがシャツの袖は少なくない被害を被っていた。
「......クソがァっ!!」
袖を捲ってから肉食ナイフを抜き、迷うことなくシャツの裾ごと腕にナイフを入れる。この時、肉食ナイフから『食べていい? ねぇ、食べていい?』って感じの思念のようなモノが感じられた。
イラッとしたが食って溶けないなら、切り離す方のみ......とヒきながら条件付きで許可をする。するとナイフは一度大きく脈打ち、ナイフを入れた箇所から切り落とす予定の腕の無事な部分がごっそり消え去る。
中にあった骨と血のみが音を立てて地面に落ち、落ちたモノはヤツの酸によってすぐさま溶かされた。
「......コイツもいつかあのクソ鎧みたいになるのか? もしそうだとしたら......」
――あのクソデカ芋虫の口の中に今すぐ放り込んで溶かすべきだろうか......
ギリギリでその言葉を飲み込み、何やら此方に酸に対する手段が無いと見たのだろう芋虫が、何かを......いや酸を吐き出そうとしているのだろう。
大きく仰け反っているのが見えたので慌てて意識を芋虫に向ける。
「......やっべ......クッソがぁぁぁ!!」
絶対にブレス的なのモノを出そうとしている。どれくらいの規模のブレスかわからないけど、このままの位置関係で吐かれたら荷物が危うい。
このまま荷物方面へ進んだら俺も荷物も溶かされて終わりだろう......
こうなってしまえばもうどうしようもなく、賭けになってしまうがアイツに目や気配察知系のナニかがあると信じて動くしかない。
悪態を吐きながら荷物を背にした現在地から急いでクソワームの真横目掛けて駆け出す。
移動している最中、俺が移動する方向へ向けてデカい図体を向けていくワームを見て俺は賭けに勝ったのを確信しほくそ笑む。
――さて、この後はどうしようか。
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吉持ㅤ匠
半悪魔
職業:血狂い
Lv:20
HP:100%
MP:100%
物攻:200
物防:1
魔攻:100
魔防:1
敏捷:170
幸運:10
残SP:10
魔法適性:炎
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残50.4L
不死血鳥
部分魔化
血流操作
簡易鑑定
状態異常耐性Lv8
拳闘Lv8
鈍器(統)Lv5
上級棒術Lv2
小剣術Lv6
空間把握Lv10
投擲Lv8
歩法Lv7
強呪耐性
病気耐性Lv4
解体・解剖
回避Lv8
溶解耐性Lv6
洗濯Lv1
■■■■■■
装備:
魔鉄の金砕棒
悪魔骨のヌンチャク
肉食ナイフ
貫通寸鉄
夢魔蚕の服一式
火山鼠革ローブ
再生獣革のブーツ
聖銀の手甲
魔鉱のブレスレット
剛腕鬼の金棒
圧縮鋼の短槍
迷宮鋼の棘針×2
魔法袋・小
ババアの加護ㅤ残高220
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