第45話ㅤ発散

 寒い......寒い......寒い......


 身体が言う事を聞かない......


 暑い......暑い......熱い......


 身体が熱くて暑い......でも寒い......


 目を閉じても視界が回る......身体が泥に埋まっているかのようで動くのが億劫だ......


 怠い......気持ち悪い......フワフワする......


 意識を失えたら楽になるのに......そんな簡単な事すら許されない......


 ほんの些細な事に対しても自分の中に憎しみが積み上がっていく......


 殺したい......肉体から血と肉を全て奪う為にはなるべく欠損部位を作ってはいけない......なのに、敵の身体の全てをグチョグチョにしたい......ミンチにしてやりたい......


 これまでの人生が、こんなにも自分を歪めたんだろう......


 ここまで苦しかったのに、まだ苦しめられなくてはいけないのか......あぁ、クソっ......レイス共め......絶対に許さない......


 動けるようになったら残っている墓石を全て粉々にしてやる......下に埋まっているモノも全て......


 レイスの墓だけではない......自分を苦しめてきた親モドキ共、虐げてきたクソ共、嘲笑うクソ共、苦しんでいるのを見ても助けようとする素振りすらしなかったモブ共......


 全部......全部だ......


 出て、自分が味わった苦しみを少しでも味あわせてから殺してやる......



 病気や呪い程度で死ぬわけにはいかない......絶対にアイツらにも苦痛を与えるんだ......早く殺してくれと懇願させたい......



 ......アハハハハ!!




 ◆◆◆




 約半日、ずっと動けなかった。


 意識を失うことすら許されない拷問のような時間。ずっとアイツらへの怨恨を頭に浮かべながら、秒数を数えて気を紛らわしていたから、経過時間は大体合っているはず。


 暗算や計算は得意では無かった。勉強などは平均以下だった。こんな脳の使い方なんてした事はなかった。


 なのに、違う事を考えながらでも暗算で簡単に......秒数を時間に変換する事ができた。大して時間も掛けずに。


「アハハハハ......ゲホッ......ゴホッ......オェェッ......ハァハァ......あ゛ー、あぁぁ......よし、声出るな。ふぅ......体調は最悪、身体もギシギシしてるし汗でベタベタ。頭はスッキリしているな......脳や思考回路だったりにステータスの何れかが作用してたりするのかな? 」


 急に声を出したら噎せてしまった。約半日も高熱と体調不良で寝込んでいたらそうなる。むしろ、そりゃそうなるだろうなって感想しか出てこない。


 何でもいいから飲む物が欲しい。このダンジョンに入ってから初めての乾き。


 身体中が気持ち悪いから水を浴びたい。


「くそっ......レイスめ......」


 呪いか体調不良の影響かはわからないが、酷く気怠い身体を起こして立ち上がる。

 そして、緩慢な動きで散らばった装備や荷物、レイスのドロップを掻き集めると、金棒を用いてレイスの墓を粉砕していった。


 これだけは絶対にやる。塵芥になるまで念入りに、粉々に粉砕してまわった。


 途中から力の入りにくい身体の確認作業としても有効に使わせてもらった。


「ダメだ......全然力が入らない......全盛期の半分くらいにしかなってない」


 筋力というか物攻が万全の時の半分弱、敏捷は7割程度。これが今の自分の身体能力。

 それにプラスして身体の気怠さが常に付き纏っていて、正直この状態では戦うのに支障がある。


「アァァァァァア!! ふっざけんな!! 二度と復活出来ないように粉々になれ!!」


 ストレスでおかしくなりそう。幽霊如きがふざけんな。


 動きが制限される中での全力を出して墓石の下にある物を暴くように金棒を叩き付ける。埋まっていればそれを壊してストレス解消、埋まっていなければただのストレス発散と割り切り、出来れば何か埋まっていればなーという気持ちでひたすら金棒を振った。




 ガキンッ


 しばらく金棒を叩き付けていた。


 腰から下が隠れるくらいまで掘ると、金棒が何やら硬いものに当たり、手が痺れた。


「......ッテェ......一体なんだ?」


 見てみると、見たこともない不思議な材質で出来た地面が出てきた。きっと地面を掘ってショートカットって方法をさせないようにする措置なんだろう。万全だったとしてもコレは壊せる気がしない。


〈??????〉


 何だろうと気になり、見てみるも何もわからなかった。この謎物質で金砕棒と金棒を作れたら壊れる心配をしなくていいのに。無理だろうけど欲しいなぁ......ババァの店にいつか置いてほしい。


「......オラァ!!!」


 墓は三基あった。今回掘った場所はハズレたが、残りの墓の下には何かあるかもしれないので残りも掘り進めていく。


 振り下ろしていくだけよりも楽で、そう時間も掛からず、墓があった周辺は全て窪地となった。残念ながらレイスの中身は発見出来ず仕舞いだったが、墓石を粉々に出来たので溜飲は下がった。


「やっておいてよかったかな......自分なら、いざとなったら床をぶち抜いて逃げたりとか考えそうだし」


 レイスだったものを砕き終え、思わぬ収穫を得て満足し、怠さに少しだけ慣れてきた身体で荷物を集めてセーフティポイントへと歩き出す。


「ここにも水場......あるといいなぁ。無かったら手首を切ってそれで喉を潤すしかないからね......」


 猟奇的な考え方をしながら奥の扉へと入っていった。



 ──────────────────────────────


 吉持ㅤ匠

 闘人


 Lv:44


 HP:100%

 MP:100%


 物攻:110

 物防:1

 魔攻:60

 魔防:1

 敏捷:110

 幸運:10


 残SP:10


 魔法適性:炎


 スキル:

 ステータスチェック

 血液貯蓄ㅤ残93.5L

 不死血鳥

 状態異常耐性Lv8

 拳闘Lv5

 鈍器Lv8

 小剣術Lv4

 簡易鑑定

 空間把握Lv7

 投擲Lv7

 歩法Lv4

 呪耐性Lv3

 病気耐性Lv2

 ■■■■■■


 装備:

 魔鉄の金砕棒

 肉食ナイフ

 魔虎皮のシャツ

 悪魔大土蜘蛛のバンテージ

 合成皮革のズボン

 再生獣革のブーツ

 魔鉱のブレスレット

 剛腕鬼の金棒

 丈夫なリュック

 厚手の肩掛け鞄

 黒革のナイフホルダー

 予備の服一式×3セット

 ババァの店の会員証ㅤ残高740

 魔石多数


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