第10話ㅤ決着
金棒がかなり厄介だけど......これから先はもっと狡猾で、もっと厄介な武器を持った敵も出てくるはず。
そう考えるとやっぱりこんな所でモタつくのは違うよな。
恐怖心、こんなのでビビる弱い心、今までの負け犬根性が染み付いた自分。覚悟を決めたつもりでもまだまだだった。
――せっかく生まれ変わったんだ。全て消し去らないと。
その足掛かりにするのはコイツくらいの相手がちょうどいい。
血液の貯蓄なんてみみっちい事を考えずに、正面からぶつかって殴り殺す。
武器がなんだ。
戦闘経験がなんだ。
レベル差がなんだ。
こんな序盤のボス程度、足を止めての殴り合いで充分なんだよ。
正真正銘、自分はここで生まれ変わる――
気の持ちようが変わったおかげか、先ほどまで感じていたような恐れは全く無くなった。
自然と口角はあがり、心臓の鼓動が煩く感じる。
絶対に殺す
それだけを考え、格上相手に殴りかかった。
相手の振るった金棒が先に当たり、右肩が飛んでいく......そこから一拍遅れて痛みが襲ってくる。
だが痛みを感じるだけで、戦闘不能になる訳でも死ぬ訳でない。痛いだけなんだから我慢すればいい。
新しく生えた腕でウォーリアーを思いっきりぶん殴る。今の自分に出せる力の全てを乗せて。
拳が嫌な音を立てて鋭い痛みが走るが、それもやはり一瞬。
再度振り下ろされようとしている金棒に怯むこと無く、追加の一撃を叩き込む。
二撃目は自分の拳の方が早く当たった。
堅いッ!!
頑丈なウォーリアーにイライラする......だが相手の攻撃は自分のパンチ程度では止まらず、緩まない。
貴様が再生するのなら、頭から足先まで一撃で叩き潰してやるぞ!! といった気迫を感じる振り下ろし。
ㅤコレは食らってはマズイ!
頭部を狙った一撃をそのまま食らっては戦闘不能になってしまう。食らうまでの僅かな時間の中で、どうにか体を半歩分横にズラす。
頭だけじゃなく全身を潰そうとして力んでいたんだろう。自分の体の半分を叩き潰しながら金棒は地面にめり込んだ。
自分以外が相手だったら......一撃必殺の攻撃だっただろう。でも、再生するような相手には、確実にトドメを刺せるって時にやるべきだったね。
全力の振り下ろしをしたせいで、今まで届かなかったヤツの顔面が、すぐ近く......拳が当たる位置にある。弱者でも格上に噛み付く事が出来る世界......楽しいなぁ。
「アハハハハハッ......馬ァァァ鹿!!」
狂っていると自分でもわかる笑い声をあげながら、ウォーリアーの無防備な顔面、その中でも一番柔らかいであろう両の眼に手を突っ込み、勢いよく引き抜く。
ブチブチと音を立てる生臭く不快な感触のソレを投げ捨て、あるべきモノが無くなり空洞になっている部分に拳を捩じ込む。
ㅤ叫び声が煩い、お前もこっちの半身を潰したんだから我慢しろ!!
捻りを加えながら捩じ込んだ拳は、骨を突き抜け......その奥にある柔らかい部位にまで達する。握っていた拳を解き、ウォーリアーの中身をグチャグチャに掻き回す。
致命傷を与えたという確信はあったが、モンスターはなかなかしぶとい。
ウォーリアーはビクンビクンと痙攣しているが、まだ死んではいない。無駄な抵抗というんだろうか、弱々しく手を動かして突き放そうとしてくる。それでも体を損傷して血を浪費してしまう自分が情けない。
しぶといウォーリアーの息の根をどう止めようか考えていると、一つ良さそうな案を思いつく。自身のスキルの能力が『傷口や死体から血液を吸収できる』という効果だった事を思い出したので、手を突っ込んだ状態のまま血液を吸収しようとスキルを発動。
生きている相手に使用するのは初めてなので、どうなるのかはわからないが試さなければ血液が減っていくだけだ。
このスキルは凄かった。死体から吸収する時と同程度の速さで、ウォーリアーの体から血液を吸い出し、他の死体と同じように干からびた死体となり、アナウンスが流れ出す。
これでようやく一息つけた。自分にとって初めての死闘であるボス戦、無事勝利という結果で終了した。
『レベルが6上がりました』
『人類で初めてボスフロアの攻略を確認』
『ボスフロアのソロ攻略を確認』
『無手での攻略を確認』
『迷宮完成から24時間以内でのボスフロア攻略を確認』
『評価値S+、報酬を授与します』
『これ以降、人類に報酬が授与される事はありません』
アナウンス終了と共に、目の前に宝箱が現れた。
こうなると、ここまではボーナスステージみたいな物だったって認識でいいのかな?
ㅤ難易度が異様に高かったと思えるけど......
自分ではどうにもならない部分だし諦めよう。そんな事よりも宝箱だ!! ワクワクが止まらない。
迷宮と出会わせてくれて本当にありがとう。
宝箱に向き合うがゴブリンの死体が目に入って邪魔だ。先ずは掃除してから開けよう。
そう決めてからは早かった。
ホブの死体へ向かい、死体から血液を吸い取る。
ヤツらの使っていた武器は欲しいけど、三本も持てないので棍棒は捨てた。
その際に目に付いた自分の切り離されたパーツ......それから吸収を試してみたが、血液は採取できず。
「リサイクルはできないのか......残念」
自分の物だったパーツを見ても何も感じずに、こんな狂った感想が真っ先に出るなんて笑える。
そこで、戦闘で昂っていた気持ちが冷静になり、大きなミスを犯していたに気付く。
ステータス確認をする前に、ダークホブゴブリンとダークゴブリンウォーリアーの血液を吸収してしまった。
大怪我した場合の消費量と、ホブとウォーリアーでの補充量がわからないのは大失態だ。
「こういった事に対しては慎重になるべきだった。戦闘で興奮した状態のままでも、冷静な部分を残せるようにしないと......」
オンとオフの切り替えは今後の課題。きっとこれは難しい事だから、これを気にしなくても良いくらい血液を貯蔵できればいい。
まだまだ迷宮は続くだろうし、半分まで進む頃までには出来るようになりたい。
「反省はもうこれくらいでいいか、宝箱を開けよう。自分の頑張りを正当に評価されて貰えた初めての報酬だ......嬉しいなぁ」
ㅤ戦闘により服がもう服の体を成していない血に塗れたグチャグチャの体のまま、自分の頑張りにより湧き出た宝箱と向き合った。
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吉持ㅤ匠
Lv:17→23
HP:100%
MP:100%
物攻:17
物防:1
魔攻:1
魔防:1
敏捷:17
幸運:3
残SP:0→12
スキル:
ステータスチェック
血液貯蓄ㅤ残48.2L
不死血鳥
状態異常耐性Lv1
拳闘Lv2
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