第11話 シガーキス

 トウコたち3人は、3区にある5階建ての本部――職業斡旋組合本部の最上階にある組合長室に通された。

組合長室には、組合長とその秘書の女性、トウコらの5人がいて、組合長の向かいのソファにマリー、トウコ、リョウの順で座った。秘書は、4人にコーヒーを出すとそのまま組合長の斜め後ろに立った。


「さて、朝っぱらからバカ共が騒いだせいで少々疲れたね。まずはコーヒーでも飲んで一息いれようじゃないか。」

組合長はそう言うと、長い足を組み煙草を咥えて火をつける。

マリーも煙草に火をつけ、疲れをにじませて紫煙を吐き出すと、

「あー本当に疲れたわ。2人とももうこんな騒ぎはやめてよね。」

と2人を横目で睨み付ける。


「うん、悪かった。気を付ける。」

トウコがそう言いながらコーヒーを飲む。

「気を付ける、じゃなくってそこはもう2度としないって言うところよ!まったく!リョウも分かってるんでしょうね!」

リョウは舌打ちすると苦々しい顔で煙草に火をつけた。

すると、トウコがリョウの手から煙草の箱を取り上げ、自分も1本口に咥えたが火はつけずにそのままリョウに顔を近づける。未だに苛立っているリョウは意味が分からず、半目でトウコを見下ろしていたが、トウコはそれには構わず咥えた煙草をプラプラさせながらさらにリョウに近付き「ん」と一言つぶやいた。


トウコの意図するところが分かったリョウが少し目を見張ったが、そのまま自分の煙草の先をトウコの煙草に付けた。

シガーキスで火をつける間、トウコは紫の瞳でじっとリョウを見上げ、リョウもまたトウコから目を離さない。


組合長がくつくつと笑いながら言う。

「トウコが一枚上手だね。」

「あーもう、いちゃついてんじゃないわよ!でもまぁこれで仲直りってやつかしら?」

組合長とマリーが2人を茶化すと、リョウが手で顔を覆いながら、

「何なのこの女。むかつく、可愛い。今すぐ家に帰って仲直りにヤりまくりたい。」

と呟くも、トウコは鼻で笑って煙草の煙をリョウの顔に吹き付けると、リョウから体を離し、足を組んでソファに深く座りなおした。


「すっかりいつものリョウに戻ったわね・・・最初っからトウコもそうやって甘えなさいよ。そうすればあんなことにはならなかったでしょう?」

「頭に血が上りまくってるリョウには効かないさ。」

トウコが紫煙を吐き出しながらマリーに答えると、

「トウコが全裸で抱き付いてきてくれたらすぐに頭も冷える、俺。」

とリョウがおどけながら言う。

「それはそのままリョウに切り刻まれる未来しか見えないぞ。私だって殺されたくはないから、ああなったらやっぱり殺しあうしかないな。」

とトウコもまたおどけるように応じた。

「ああ・・またあれが繰り返されるかと思うと、胃が痛くなってきたわ・・・」

マリーが腹を抑えて呻くと、組合長が微笑みながら言った。


「さて、こっちまで頭が悪くなりそうな会話はこの辺にして、そろそろ仕事の話をしようじゃないか。」

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