津川浩司

悩む浩司

 僕は義人と別れて会社に帰る途中、気持ちが重くなった。友里さんに、なんと言って話そうか。


 あなたの旦那さんは僕の友達の女性と会っていて、浮気するかも知れないので止めてください……。こんなストレートに言える性格なら苦労しないんだよな。でも回りくどい言い方は余計に難しそうだしな……。


 そうこう考えているうちに、会社に着いた。まだ昼休み中だが自分の席に戻ると、ちょうど友里さんも食事から帰って来ていた。幸いまだ業務開始前で人は居ない。


「あ、あの、友里さん」

「ああ、津川君。お昼から戻ったの」

「あの、ちょっとお話があるんですが、今大丈夫ですか?」

「ええ、良いけど……改まって何の話?」


 心の準備が出来る前に、話し掛けてしまった。だが、今を逃すと、また話し掛けるタイミングを窺うのは大変だ。


「最近、旦那さんの帰宅は早いですか?」

「えっ、どうしたのよ急に?」

「あ、あの、その、僕の幼馴染に瑠美って娘が居て、瑠美は義人って奴の奥さんなんですが、その瑠美がですね……」


 緊張でしどろもどろな僕の話を、友里さんは「うんうん」と相槌打ちながら聞いてくれている。


「あの、瑠美は今、義人と暮らしている部屋を出て、実家に帰ってまして……」

「その瑠美さんが私と関係があるの?」

「あの、実は、瑠美が旦那さんと会っているみたいなんです」

「えっ?」


 友里さんは驚いて言葉が続かないようだ。


「ど、どういう事?」

「あの、浮気しているとかそう言うのじゃなくて、よく食事とか、飲みに行ったりとかで会っているみたいです」

「みたいって事は、津川君が見た訳じゃないの?」

「そ、そうですね。実は義人って奴も友達で、そいつが見たって言ってました」

「その義人って人は、どうして瑠美さんと会っているのが、私の主人だと知っていたんだろう……」

「あっ!」


 確かにそうだ。義人は僕と織田さんが一緒に自分の部屋に来たからこそ、僕に正体を訪ねたんだ。知っているのは説明出来ない。


 どうしよう。友里さんは自分が僕と浮気した事を知らないから、僕と織田さんが義人の部屋に行った事を説明出来ない。


「あっ、あのそれは、写真を見たんですよ。義人が撮った、瑠美と旦那さんが写った写真を僕が見て、これは友里さんの旦那さんだって、僕が教えたんです」


 咄嗟に考えたので苦しい理由だが、友里さんに信じて貰えるだろうか。


「津川君は主人の事を知っているの?」

「ああ、あの、以前マンションに招待してもらった事があって……」

「そうなんだ」

「あの、旦那さんは早く帰ってます?」

「その義人って友達は私にどうして欲しいと言っているの?」


 友里さんは僕の質問には答えず、逆に質問してくる。


「あ、義人は旦那さんが瑠美と会わないように牽制してもらいたいらしいです」

「そう……」


 友里さんは少し考え込んだ。


「分かった。教えてくれてありがとう。なんとかやってみるわ」


 そう言って友里さんは笑ったが、その笑顔はどこか寂しそうだった。

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