自業自得
「な、なにこれ?」
瑠美が非難めいた口調で呟いた。
「誰、ユミって?」
瑠美は浩司の手からスマホを奪い取ると熱心に画面を見ている。きっと俺とユミの会話をみているんだろう。
瑠美は怒る事もせず、無表情でスマホを浩司に渡すと寝室に入って行った。
「瑠美! た、頼む、放してくれ、瑠美と話をさせてくれ」
俺の焦りが普通でないと思ったのか、織田は手の力を緩めて解放してくれた。
「瑠美!」
俺は寝室に飛び込んだ。
瑠美は寝室で、ボストンバッグに自分の着替えを詰めている。
「おい、瑠美、何をしているんだよ」
瑠美は俺を無視して荷物をどんどんまとめていく。
「瑠美って、話を聞いてくれよ」
俺は瑠美の両腕をつかみ、向かい合った。
「私、家に帰るから」
「おい、勘弁してくれよ、誤解なんだって」
「良いじゃない、夫婦仲は冷え切っているんでしょ」
瑠美は冷たい目でそう言った。やはり、ユミとの会話を見られたんだ。
「いや、あれはちょっとしたおふざけなんだよ。あんな風にバイトとコミュニケーション取っているだけなんだって」
まだ荷造りは途中の筈だが、瑠美はバッグのファスナーを締めて立ち上がる。
「おふざけであんな事言えるんだ。やっぱり何も変わって無いじゃない」
「いや、絶対にやってないから。ただ、ちょっと会話して遊んでいるだけなんだよ。本当に浮気はしてないって」
「そう言う問題じゃないよ」
瑠美の言葉は冷たかった。
取り付く島もない無い瑠美の態度に、何も言えなくなった俺を残し、彼女は寝室を出ていく。俺は後を追う気力も無く、布団の上にへたり込んだ。
しばらくして、玄関から人が出ていく音がした。
「おい、彼女出て行ったぞ」
織田が寝室に顔だけ出して教えてくれた。
「もう、良いだろ。帰ってくれよ」
心が折れて、とにかく一人になりたかった。
「私は帰らないからね」
織田を押し退け、愛佳が寝室に入ってきて、俺に抱き付いてくる。
「義人のスマホにも愛佳とのやりとりは無かっただろ。もう帰ろうよ」
半泣きの浩司も寝室に入ってきて、愛佳を説得する。だが、愛佳が聞き入れないだろうと俺は思った。
「嫌だよー、だって私は義人君の彼女だもん」
愛佳はアカンベェをして、さらに俺を強く抱き締める。
「頼む、義人からも説得してくれよ」
「知るかよ、勝手にしろ」
そう言って、俺が布団の上に寝転ぶと、愛佳も抱き付いたまま一緒に横になった。
「愛佳……」
浩司はとうとう泣き出したが、同情する気もないので無視した。
「もう、今日は諦めて帰ろう」
織田が浩司をなだめて帰ろうとしている。是非そうしてくれ。
「早く帰ってくれよ」
俺は愛佳を振り払い、頭から布団をかぶった。
「私は帰らないからね」
愛佳が布団の上から抱き付いてくる。
その後、浩司が愛佳を俺から強引に引き離そうとして二人が言い争いしていたが、無視して布団をかぶり続けていると、やがて静かになった。
しばらくして、玄関から人が出て行く音がしたので、布団から這い出した。
「やっと二人きりになれたね!」
どこで待ち構えていたのか、布団を出るとすぐに、愛佳がまた抱き付いてきた。
「なんだよ、帰ったんじゃないのかよ」
「帰らないよ、だって愛佳は義人君の彼女だもん」
どうしてこうなったんだ。俺は深いため息を吐いた。
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